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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。ダンジョン調査の件をシスターに伝えるべく私は訓練場へと赴きました。
さてこの訓練場、マクベスさん監修の下に造られた本格的な軍事訓練が行える場所であり、広々とした広場には様々な訓練器具が設置されていて、思う存分身体を鍛えられると好評です。斯く言う私も良く利用して汗を流しています。
で、本命のシスターは。
ズダァンッと大きな銃声が響きました。うん、居ましたね。シスターが……あれはアスカでしょうか。小さな女の子をリボルバーで追い回しています。
シスターは訓練だろうと実弾を躊躇無く使用する愉快な方なので、シスターの指導を受けると怪我が絶えません。
それにしても、アスカも凄いです。素早く身軽な動きで銃弾を避けていますね。
獣人の女の子であるアスカですが、獣人としての特徴をほとんど持たない非常に珍しい娘です。
頭にイヌ科の耳はあるものの、獣人特有の尻尾はなく、また鋭い牙や爪も持っていません。
身体が武器と称される獣人にとって鋭い牙や爪は必要不可欠。それを持たないアスカは非常に珍しく、そして獣人としての力は弱いとか。
しかしながら其れを補って余りある身体能力は眼を見張るものがあります。また嗅覚聴覚なども私達人間より遥かに優れていて、なにより幼いゆえか呑み込みが早く恐ろしい速度で成長しています。将来が楽しみですね。
「シスター、ちょっとお話があります」
「シャーリィ、何か?」
「……シャーリィ!」
「おっと」
アスカが勢い良く抱き付いてきました。うん、犬耳がもふもふして素晴らしい。
「訓練をしていましたね、アスカ。どうですか?少しは慣れましたか?」
「……知らないことがいっぱい。皆は物知りで凄い」
「私も知らないことがたくさんありますよ?」
「……シャーリィも?」
幼い犬耳少女の不安げな上目遣い。いけません、何かに目覚めそうです。
「もちろんです。一緒にお勉強していきましょうね」
「……頑張る」
優しく頭を撫でてあげると気持ち良さそうに眼を細めています。嗚呼、可愛い…。
「シャーリィ、アスカを愛でるために来たわけでは無いでしょう」
そうでした。アスカの可愛さに目的を忘れるところでした。
アスカ恐るべし。
「報告は受けたと思いますが、ダンジョンが発見されたので調査に赴きます」
「その言い方ですと、シャーリィもダンジョンに入るのですね?」
「はい。もちろん日数をかけて少しずつですよ?安全第一です」
「それならアスカを連れていきなさい」
「アスカを?」
この可愛い女の子を?
「アスカは獣人です。その五感は人間より優れているのは分かりますね?未知の場所ほどアスカの力は役立つでしょう」
「ですが、まだ半月程度の訓練しか受けていませんよ?」
「問題ありません、基礎は叩き込みました。呑み込みが早すぎるので、実戦で鍛えた方が早い」
「そうでしたか。アスカ、どうしますか?」
「……行く」
即答ですか。
「分かりました、アスカを連れていきます。私、ベル、ルイ、アスカの四人ですね」
「私も行きましょうか?」
「それは魅力的な提案ですが、シスターにはいつも通り留守番をお願いします。何があるか分かりませんし、後ろにシスターが居れば安心です」
「煽てるのが上手いこと」
「本心ですよ?」
「分かりました、留守は任せなさい。ですが、無理だけはしないように。ダンジョンは何があるか分かりませんからね」
「もちろんです」
危険なら封鎖してしまうつもりですし。入り口を爆破して埋めてしまいましょうか。
「調査は何時からですか?」
「予定もないので明日には一回目の調査を行おうかと」
「では、アスカに必要最低限の知識を教え込む時間はありますね」
「……頑張る」
「はい、頑張ってくださいね、アスカ。ではシスター、また後で」
シスター、アスカと分かれた私は訓練場を散策して目当ての二人を見付けました。丁度休憩中らしく丸太で造った簡易ベンチに腰掛けて水を飲んでますね。
「ベル、ルイ」
「よう、お嬢」
「なんだ?シャーリィ。何か用事か?」
私は二人にダンジョンの調査について話をしました。
「お嬢が行くなら俺も行く。例外はない」
「シャーリィが行きたいんだろ?なら俺が護ってやるさ」
頼もしい限りですね。
「色の良いお返事をいただけて何よりです」
「だが、ダンジョンに潜るならそれなり以上の準備が居るぞ。明日までに用意しとく」
「何が必要なんだ?」
「水や食料、医薬品、予備の武器やら照明だ。直ぐに帰れる保証なんて無いからな。何が起きるか分からねぇし」
「詳しいですね、参考になります。ベルは経験があるのですか?」
「エルダス・ファミリーに居た頃仕事で何度かダンジョンに入ったことがあるだけさ。お嬢も武装するだろうが。鉄砲は止めとけ。狭い地形がほとんどだし、大抵床も壁も石造りだ。下手すれば跳弾して自滅するだけだからな」
「なるほど」
「大丈夫かよ、シャーリィ?」
「問題ありません。私にはこれがあります」
腰に差した剣を指しながら胸を張ります。これまでは体格的な問題でナイフに甘んじていましたが、今年で私も十七歳。平均よりは低い身長ではありますが、ようやく剣を振っても問題ない身体を手に入れました。
……剣を振るのに邪魔になるほど胸がないと考えたあなた、後で地下室です。
「なんだ、お前剣なんか使えるのかよ?」
「お忘れですか?私が誰の娘であるかを」
二人には私の経歴を話していますからね。
「ああ、お嬢は『剣姫《けんき》』の娘だったな」
「そういやそうだったな、忘れてたぜ」
「単純なルイの記憶力に期待はしていませんよ」
「誉めるなよ」
「誉めてないっ!」
この能天気っ!
「イチャイチャするなら部屋でしてくれ」
「おう」
「しませんっ!」
「えっ、しないのか……?」
そんな捨てられた子犬みたいな眼をしないでください!本当にこの男はっ!もうっ!
「公私は分けてくださいと言ったんです」
「なら今夜部屋に行くからな」
「だから人前で言うなと言ってるでしょう!」
「若いねぇ」
「ベルも微笑ましそうな顔を止めなさいっ!」
「まっ、シャーリィのためなら何だってやってやるさ。出発は?」
「いきなり真面目にならないでください。明日です」
「なら今夜は止めとく。お前も早めに休んどけよ。ベルさん、明日に備えて聞きたいことがたくさんある」
「おう、立ち回りを教えてやるよ。なにもしないよりはマシだろ」
「ほら、シャーリィは危ないから戻ってろって。また後でな」
「釈然としませんが」
ルイを相手にすると調子が狂います。普段は公私を分けてくれるのに、たまに混同するのが困りものですね。
紆余曲折あったが、翌日に備えてシャーリィも早めに休むのだった。