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【1年後】
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洋平は自信に満ちた足取りで「ディアマンテ海運」の社長室に向かっていた
あれから一年・・・・
洋平達が仲間と開発に開発を重ね、再び新しく進化した
『ラビットコイン・ハイパー』
で築いた富を元に、さらに金利が無くなった紙幣を銀行に預けていても、引き出す時に手数料を獲られて逆に損をしている事に気がついた
主にサラリーマン日本人世帯に、数千円で気軽に投資できる、洋平達が開発したアルトコイン『柴猫コイン』が爆発的な人気を起こし、今や洋平は仮想通貨界のレジェントとして、海外でも日本でも、引く手あまたのコンサルタントに成長していた
今の洋平は数年前の若さだけのエンジニアではなく仲間と苦渋を乗り越え、世界を読む億単位の資産家になっていた
そしてこの「ディアマンテ海運のCEO安倍大和」は洋平にとって重要なラビットコインの大口投資家だ
彼は海運業で培った国際的な未来を見通す視野と、リスク管理の経験を活かし、洋平の作った暗号資産を大量保有し、増やしてほしいと依頼した
大和には大口資金が必要だった、なぜなら彼が今最も力を入れている、日本海沖に眠っている、フリーエネルギー(メタンハイドレード)の、研究資金を稼ぐためだ
なので洋平は、大和の海運業の豊富な経験と、資金力を背景に、より大規模かつ、戦略的な投資活動をアドバイスするために、こうして初めて大和の会社に訪れていた
あいかわらず洋平は、自分の身なりには興味は無く、ボサボサ頭と、四角い銀のフレームの眼鏡をしているけど、一応ビジネススーツに身を包んで、40階の社長室オフィスに入ると、膨大な部屋の一番手前にある受付に向かった
ドクンッ
―え?―
その時、洋平の目は瞬時に秘書のデスクに座っている、ベビーピンクのスーツを着た、肩までのフワフワ髪の女性に目が行った
なぜならそこに座っている女性には見覚えがあったからだ
・・・彼女だ!どうしてここに!
洋平は自分の目が受付にいる彼女に釘付けになった瞬間、時が止まったかのように感じた
そして心は、数年前の海辺のあの場所に一気にタイムスリップした
アスファルトに後頭部をぶつけた痛み・・
彼女の眉を寄せて自分にお説教をする顔・・・
ラズベリータルトの甘い匂い・・・
さらに優しい微笑みと、彼女の温かな声が鮮明に蘇って、絶望の淵にいた自分を救ってくれた天使のような存在、洋平はその記憶に心を奪われ、思わずうっとりと彼女を見つめてしまった
「それでは社長室をご案内します」
「え?は・・・はい!」
彼女は洋平を見てニッコリ笑った、洋平は慌ててそそくさと彼女の後を着いて行った
現実と過去が交錯する中・・・・
洋平の胸は高鳴り思わず息を呑んだ
再会の喜びが全身を駆け巡り、まるで夢心地のような感覚に包まれた
目の前の彼女の姿が神々しく輝いて見える
ここの秘書さんだったんだ・・・
ドキドキ・・・僕を覚えているかな?・・・どうしよう・・・声をかけてみる?・・・
しかし何度か女性で痛い目を見ていた洋平は、彼女に声をかけるのを躊躇われた
自分が野暮な性格をしているのは痛いほど分かっている
運命の糸に導かれたかのような巡り合わせに、洋平は言葉を失いただ・・・黙って・・・
つんのめりそうになりながら、スタスタ歩く彼女の後ろ姿を見つめるしかなかった
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洋平は社長室で、緊張した面持ちで資料を広げていた
「以上が・・・ラビットコイン・ハイパーの、大口投資のメリットとデメリットについてのご説明です」
「ありがとう」
一通り洋平の顧客達ににラビットコインの説明を終わって、少し安心したその瞬間、社長室のドアが開いた
香り立つコーヒーの香りと共に、彼女が入ってきた!
洋平の心臓が高鳴る、彼女の柔らかな髪の揺れ、優しい笑顔に、一瞬にして思考が停止し
「コーヒーをお持ちしました」
彼女の声は、洋平の耳に天使の歌声のように響いた、手渡されたコーヒーカップを受け取ろうとした瞬間、洋平の指が震えた
バシャッ「あっ!」
カップが傾き、熱いコーヒーが資料の上に広がっていく
ガタンッ「すっ・・すいません!」
洋平は慌てて立ち上がったが、既に遅かった
「大丈夫かい?火傷してないかな?」
大和も慌ててデスクから紙ナプキンを取り出して、優しく声をかけてくれた。その親切さに、洋平の胸は更に痛んだ
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洋平は自分の不器用さを呪った 彼女の前で、失態を演じてしまった恥ずかしさと 重要な商談を最後に後味の悪いものにしてしまった・・・・
後悔が胸に押し寄せる、コーヒーで汚れてしまった資料を見て洋平は心の中で呟いた
ああ・・・僕はなんてまぬけなんだ・・・
洋平が落胆の表情を浮かべていると、彼女はこんなことは想定内だとばかりに、テキパキと動いた 濡れた資料を引き下げ、テーブルを綺麗にし、また新しいコーヒーを持ってきてくれた
「こちらの予備の資料をお使いください」
と、彼女は微笑みながら真新しい資料を差し出した。洋平は驚きと感謝の入り混じった表情で、資料を受け取った。彼女のさりげない気遣いに胸が高鳴る
「あ・・ありがとうございます・・・」
洋平は口の中でモゴモゴ呟いた 彼女の優れた秘書としての能力に、意識が向くたびに、洋平の頬が熱くなるのを感じた その時ふと、社長の方を見ると何かクスクスと笑っている 洋平は慌てて視線を逸らしたが既に遅かった
「君、顔が赤いぞ」
社長が茶目っ気たっぷりに言った
「い、いえ・・そんなことは・・・」
洋平は慌てて否定しようとしたが、言葉が詰まる 社長は更に笑みを深めた
「彼女の名前気になる?」
洋平は椅子から転げ落ちそうになった
「まっ・・まさか!全然!」
と言いながら、自分の感情がバレバレであることに気づき、洋平は髪の生え際まで真っ赤になった、社長はニヤニヤしながらもう一度洋平に言った
「彼女『秋元くるみ』さんって言うんだよ」
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