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立秋 芽々(りしゅう めめ)
そもそも潜世に行くことができるのか。
という疑問が頭をよぎったが、そういえば灰は潜世から来たのか。
「潜世に行くことであいつらから逃げられるの?」
いつの間にか月を覆っていた雲は晴れて、夜の静寂をうすらと照らしている。
「詳しいことはしらねぇけど、何故かあいつらは潜世には潜ってこれねぇみたいなんだよな」
見たことも聞いたこともない世界「潜世」。
それがどの様な世界であれ僕は行くしかないのだろう。
しかし、自らが育った世界を捨てるのは中々覚悟がいることだ。
信じてないわけではない。
今までのことを考えると、僕のいる世界含め灰の言ういくつかの世界は本当に存在しているのだろう。
ただ、実感がないのだ。
これだけ命を狙われておいて実感がないというのはふざけている様に聞こえるかもしれないが。
認めたくないというのもあるのかもしれない。
灰という男。
彼のせいで僕の人生は大きく変化している。
彼さえ…….いや、やめておこう。
どうせ僕にはこの世界に未練はない。
さっさと潜世とやらに行く方がいい。
「行くとしたらどうやるんだ?」
灰の足音のみが月夜に鳴る。
「本当は俺の持ってる道具で潜世に行けるんだが….」
だが。
この言葉の後には否定の言葉が続くのが常だ。
「….壊れちまったんだ」
無理じゃん。
もう行けないじゃん潜世。
「無理じゃん」
言ってしまった。
しかし、灰の否定が即座に入った。
「いや、潜世の行き方は道具に頼る以外にもある」
「魔法陣とか書くのか?」
「何言ってんだお前」
ここまで数々の魔法的な何かを見せられた身からしてみれば魔法陣を否定されたのは訳がわからない。
「潜世は〜なんだ?認識?を….変えること?で行けるんだ」
行けなさそうだ。
無理だろう、教えている側がこれなのは辛いものがある。
「もう少し詳しくお願い」
「ああ〜、だから…たまにあり得ないこととか、理解できないこととか起きねぇか?」
「具体的には?」
「ああ〜….例えばー、人混みの中でいきなり誰かに呼ばれた気がしたとか、幽霊みたいなものを見たとか」
「……前者ならないこともないけど」
「そーゆうのは認識のズレっていうらしい、俺の住処の大家が言ってた。その認識のズレってやつが大きくなると、そのズレの中心にいる人物は潜世と顕世を移動できる様になるらしい」
なんだか難しい話になってきた。
「その……認識のズレ?はどうやって起こすんだ?」
「大家曰く、可能な限りその世界で起きないことを起こせばズレは大きくなりやすいらしいぞ」
この世界で起きないこと。
なんだろうか。
「灰の木札は?あの魔法みたいなのはこの世界ではまず起きないと思うけど」
「お前が体験しないといけないんだぞ?お前あれできないだろ」
そういうことか。
ズレの中心になるには、僕が行動しないといけないのか。
魔法みたいなのを使うのは灰であって僕ではない。
誰も体験できないことならばどうだろうか。
「灰、また空飛べたりする?」
ぼうと東の空に光が見える。
夜明けが近い。
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