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「お母さん、直太朗のこと有難うね」
週末をなおちゃんと一緒に九州で過ごした私は、旅行からの帰り途中、家に直帰せずにフェレットの直太朗を連れ帰るため、実家に立ち寄っていた。
「直太朗、いい子にしてた?」
聞くと、母が「してたよね〜?」と直太朗を愛しそうに見つめて。
その甘々な声音だけで、この子が私不在の数日間を、母に溺愛されて過ごしたのだと実感出来てホッとする。
「あ。これ、お土産ね」
母が好きな、九州の銘菓が入った包みを差し出すと、「わあ、『通りもん』。お母さん、これ大好きよ」とすごく喜んでくれた。
私も大好きなそのお菓子は、柔らかな白餡が舌の上でとろけるような平べったいお饅頭だ。
なんでも「博多西洋和菓子」をコンセプトに、和菓子の伝統技術に、生クリームやバターなど西洋菓子の素材を組み合わせた銘菓らしい。
ねっとりとした白餡と、しっとりした皮が本当に美味しい。
福岡といえばすぐに名前が上がるほど有名な『博多通りもん』は、裏を返せば現地にいれば比較的簡単に手に入るお菓子でもあるということで。
実は金曜の夜から二泊三日、福岡に滞在していたにも関わらず、私、観光らしい観光をしたわけじゃなかった。
***
地元にいては出来ないから、となおちゃんとふたり、街に繰り出して白昼堂々腕を組んで――まるで普通の恋人同士みたいな――甘い時間を過ごした土曜日。
キャナルシティ博多に行って、お買い物を楽しんだり、噴水ショーを見たり……そういうのを楽しもうねってワクワクしながら行ったんだけど。
日頃そんなにくっついて歩けないのに手を繋いだり腕を組んだりして一緒に歩いたからかな。
身体を密着させてイチャイチャしていたら、私たち、惹かれ合うようにお互いが欲しくなってしまった。
結局観光もそこそこに近くのラブホテルに入って身体を求め合って。
宿泊中のビジネスホテルに戻るのももどかしく感じてしまうくらい、私もなおちゃんもお互いが欲しくて堪らなかったの。
まるで欠けた部分を補うみたいに、私はなおちゃんに、自分の中のぽっかり空いた穴を塞いで欲しくて仕方がなかった。
埋めても埋めても満たされないその空洞は、きっと妻子あるなおちゃんを愛する限り塞がることはないのだと自分でも分かっていて。
分かっているから悲しくて、悲しいからこそ、もっともっと私を深く深く満たして欲しいと乞い強請ってしまう、の悪循環。
「菜乃香。俺さ、菜乃香となら何回だってできる気がする」
どちらの体液とも分からないものでしっとりと濡れそぼった身体を背中からギュッと抱きしめて、なおちゃんが耳元で甘く囁く。
「あっ……」
その言葉を証明するみたいに、私の中に挿入ったままのなおちゃんが、その存在を誇示するみたいに質量を増した。
「あ、待っ、て……。私、今……」
イッたばかりだから、と続けようとしたけれど、グッと深く押し入ってきたなおちゃんの動きに、すぐさま意味をなさない喘ぎ声しか出せなくなる。
何度果てて、何度イかされたかもう分からない。
なおちゃんも、一体何回ゴム越し、私の中で果てたんだろう。
「――すごく贅沢だよね」
私の中で熱い脈動を感じさせてくれた後、なおちゃんがやっと身体を放してくれて。
なおちゃんが私の中からいなくなる瞬間、私の膣の女の部分が、それを許せないみたいに彼に絡みついてギュッと収縮したのが分かった。
その感触の生々しさに、思わず「はぁ、ン……っ」と甘ったるい吐息が漏れて、
「菜乃香、色っぽい」
クスッと笑いながらなおちゃんに言われた私は、恥ずかしさに「だって……」と唇をとがらせた。
「ホント、すっごく贅沢な時間だ」
ジンジンと甘いしびれを伴う腫れぼったさと、熱を感じさせる下腹部の感覚に、さすがに限界を感じ始めていた私は、今度こそ終わったのかなと少しだけホッとして。
「贅、沢?」
ぼんやりとした頭で、再度繰り返されたなおちゃんの言葉をつぶやくように口の端に載せる。
そうしながらノロノロと頭をもたげて背後を振り返った私は、なおちゃんが新たなスキンを開封しているのを見て、思わず息を呑んだ。
「まだ……す、るの?」
およそ私よりひとまわり以上も年が離れているとは思えないほど、なおちゃんは絶倫なのだ、と今更ながら思い知らされる。
「さっき言っただろう? 菜乃香とは何回だってできる気がするって。それに――」
そこで身動きがままならない私の腿をほんの少し抱え上げるようにして、なおちゃんが私の中へ分け入ってきた。
「あぁ、んっ」
もう無理だ、と思っていたはずなのに、私となおちゃんはまるで鍵と鍵穴。
そこになおちゃんが居ることのほうが、まるで常態みたいに私の穴は貪欲に彼を飲み込んで、すぐさまピッタリと肌が馴染んでしまう。
「――こんな風に菜乃香を朝も昼も夜も考えずに抱くことが出来るなんてすごく贅沢だと思わない?」
いつもなら、どんなに激しく求め合って気怠く疲れ果てたとしても、なおちゃんは奥さんとお子さんが待つ家に帰らなければならない。
それを考えなくていいというのは、制約の中でしかお互いを愛することのできない私たちにとって、確かにとても贅沢な時間に思えた。
「私も――」
同じ気持ちだよ、って答えようとしたら、まるでそのタイミングを見計らったみたいに、なおちゃんが赤くぷっくり膨らんだ私の陰核と、ずっと勃ち上がりっぱなしの乳首を指の腹で優しく押しつぶすように可愛がってきて。
「やぁ、んっ。ダメぇっ。いま、そ……んなことされたら、私またっ――」
「何度でもイけよ」
なおちゃんの甘く掠れた声に唆されるように、私の身体はビクッと跳ねて、目の前が真っ白に染まった。
何度もイかされた身体は、ほんの少しの刺激で、いとも簡単に昇り詰めてしまえるんだって思って。
「なおちゃ、もぉ、ホントに……」
無理ぃっ……と言いながら、私はビクビクと身体を震わせた。
***
家に帰る車中で、そんな博多でのあれこれを思い出した私は、それだけで下腹部がトロリと濡れてくるのを感じた。
私はなおちゃんとの情事に、どれだけ毒されているんだろう。
後部シートにケージごとシートベルトを掛けて乗せている直太朗が、ミラー越し、そんな私をつぶらな瞳でじっと見つめてきて。その視線が物凄く非難めいて感じられた私は、慌ててミラーから視線を逸らした。
***
『なのちゃん、仕事が終わったらうちに来なさい。いいわね?』
翌日、気怠い身体に鞭打って仕事を終えて、ロッカーから携帯を取り出してみると、お母さんから留守電が入っていた。
どこか有無を言わせぬ雰囲気をまとった固い口調のその声音に、私は嫌な予感を覚える。
(何だろう)
思いながらも、お母さんに「何の用?」と折り返す勇気もないままに、ギュッと電話を握りしめて――。
「あ、なおちゃんに――」
夕方実家に行かないといけないとなると、今日はなおちゃんに会えない。
ちゃんと連絡しないとって思って、なおちゃんに電話をかけたらすぐに応答してくれた。
『どうしたの?』
なおちゃんの優しい声音に、今すぐ会いたいという気持ちが込み上げる。
でも今日は――。
「ごめん。なおちゃん。お母さんから呼び出しがかかっちゃって。今日は会えそうにないの」
言ったら、少し沈黙があった後、『……そっか』と少し残念そうな声が返った。
『ねぇ菜乃香。昨日、旅行から帰った後、実家に寄らなかったの?』
当然のように聞かれて、私は見えないと分かっていながらも、フルフルと首を横に振りながら「行ったよ。お土産もちゃんと渡して直太朗も連れて帰ってきた」と答えた。
なおちゃんと話しながら、心の中、昨日顔を見せたばかりなのにホント何の用だろう?って、胸騒ぎが止められなかった。