秘密基地での一件から数日後。
花純は、少しずつ七人の輪の中に顔を出すようになった。まだ大きな声を出すことはなかったけれど、帰り道に一緒に歩いたり、秘密基地に来てみんなのおしゃべりを静かに聞いたり。そんな些細な変化が、七人にはたまらなく嬉しかった。
その日も学校が終わると、自然と
「秘密基地集合！」
という流れになった。
林の中を駆け抜ける七人の後ろを、花純が少し距離を置いてついてくる。彼女はまだ遠慮がちで、笑ってはいてもどこか影が差しているようだった。
俊哉：「ねぇカスミちゃん、今日は俺の特別芸を見せてあげる！」
と宮田が張り切った声をあげた。
高嗣：「また変顔？」
と二階堂が突っ込み、みんなが笑う。
俊哉：「違う違う！ 今日は俺の新しい必殺技、『逆立ちしながらおならの音マネ』！」
宏光：「ちょっと待って、それはやめて！」
と宏光が慌てて止める。
健永：「基地が壊れる！」
と千賀も真顔で叫ぶ。
わいわい騒いでいるうちに、花純の肩が小さく揺れた。笑っているのかもしれない。
裕太は、その瞬間を逃さなかった。
裕太：「ねぇカスミちゃん」
彼は花純の前に立ち、急に両手を広げて言った。
裕太：「俺たち、みんなで歌うの好きなんだ。君も一緒に歌わない？」
ラジカセを取り出し、藤ヶ谷がカセットを再生する。懐かしい童謡が流れ、小屋の中が明るくなった。
七人が声を合わせて歌い出す。音程はバラバラで、リズムも合っていない。けれど楽しそうで、笑いながら肩を寄せ合う姿は、どんな合唱よりも輝いていた。
花純は、最初は戸惑っていた。けれど、七人が無邪気に歌いながら自分のほうを見て、手招きしてくる。
――なんで、こんなにまっすぐなんだろう。
胸の奥が熱くなり、知らず知らずのうちに唇が動いていた。
小さな声で、音に合わせて。
その瞬間、裕太が嬉しそうに笑った。
裕太：「ほら！ カスミちゃん、歌ってる！」
宮田が
俊哉：「すごい！ やったー！」
と飛び跳ねる。
二階堂が
高嗣：「初めてだよ！」
と大声をあげ、千賀が
健永：「奇跡だ！」
と両手を広げる。
花純は思わず吹き出した。
――笑ってしまった。
自分でも気づかぬうちに、声を出して笑っていた。
7人：「カスミちゃん、笑ったぁぁぁ！」
と七人全員が叫び、秘密基地が揺れるほどの歓声が響いた。
花純は顔を赤くして、
花純：「やめてよ……」
とつぶやいたが、その声はどこか弾んでいた。
その日から、花純は少しずつ、秘密基地で笑うようになった。まだぎこちない笑顔だったけれど、それは確かに本物だった。
七人にとって、その笑顔は宝物のように眩しく、誰もが心の奥でこう思った。
――ずっと、この笑顔を守りたい。
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