──唐突な誘いかけに納得もいかないまま、「お疲れさまです……」と、残っていた松原女史に声をかけて、クリニックを出た。
ビルの外で、ずっと手に握っていたメモを開いて見ると、紙はしわくちゃになっていた。
(どういうつもりなんだろう……急に、食事に誘うとか……)
そう思いながら紙のしわを指で伸ばすと、いつまでも拳に握っていたせいで、政宗医師の書いた整った文字が、汗で滲み歪んでしまっていた。
(……書く文字までも綺麗すぎるとか、どこまでも隙がなさすぎて……)
真梨奈との会話での松原女史の言葉が、ふと頭に浮かび上がる──。
『あの先生を見てると、完璧すぎてアンドロイドみたいにも、時々見えるくらいだし 』
完璧なアンドロイド……本当に、あの医師を例えるなら、そんな感じだと思った……。
──気おくれがするくらいに高級感のあるホテルのラウンジで、ひとり所在なく待っていると、
ダークグレーのスーツを着こなした政宗医師が、コツコツと革靴の音を響かせ現れた。
細身の体にぴったりと合ったオーダーメイドのスーツに、きっちりと締められた黒のボーダー柄のネクタイが嵌まっていて、
ただ歩いてくるだけで、その人は他の客たちの視線を一身に集めていた。
「……お待たせしましたか?」
いかにも外面の良さそうな穏やかさで声をかけ、私の向かいに座る、
「いえそんなには、待ってないです……」
極めて美形な男性を、いぶかしく見つめた……。
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