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やがてボーイがテーブルを訪れると、
「コースディナーを2つ、あとはディナーに合うワインを何か適当に見つくろってもらえますか」
政宗医師はメニューを見もせずに、オーダーを告げた。
「かしこまりました、政宗様」
その様子に、ボーイから名前で呼ばれる程、高級なラウンジの上客だということが知れる。
「あの……今日は、食事に招いていただたいて、すいません……」
いくら常連でもこんな高そうなお店にいきなり誘うなんてとも感じつつ、社交辞令的なお礼を口にすると、
「いいえ……」
と、私の顔をぶしつけに探るようにも見て、
「誘ってもらって嬉しいとは、少しも思っていないですよね? なのに、すいませんなどと……」
政宗医師は私の心中を見透かしたかのように言い、軽く口の端を吊り上げた。
しばらくしてディナーが運ばれてきたけれど、食べている気はまるでしなかった。
目の前のひどく美麗すぎる男を見ながら食べる料理は、なんだか見映えのいい食品サンプルでも口にしているようにも味気なくて、私は何度もため息をついた。
「……永瀬さん、ここのディナーは、お気に召しませんでしたか?」
ワインを薄く形のいい唇へと運びながら、訊いてくるのに、
「そんなことは、ないですけど……」
戸惑いがちに、首をゆるゆると力なく横に振る。
「そうですか? 少しもおいしそうな顔には見えないのですが……」
気にしているのかいないのか、政宗医師はグラスに残っていたワインをひと息に飲み干して、
「……私と食事をすることも、まるで面白くはなさそうですね…」
つと逸らした私の瞳を、冷ややかな眼差しでじっと覗き込むようにも見た──。