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「純君の幽霊が使う超自然的な力が何らかの信仰や宗教にルーツを持つ物なら、その宗教の特徴が分かればある程度はパターンが予想できるはずなのよ。例えば美紅の霊能力がどれだけ強力でも、それが琉球神道の信仰に基づく物である以上、力の発現のさせ方には一定のパターンなり法則があるの。例えば美紅が手から火の玉を飛ばす時、なんて言葉言ってたか覚えてる?」
「ああ、確か……ヒルカン……だっけ? そう言えば、それはどういう意味の言葉なんだ? 呪文みたいな物か?」
これには美紅が答えた。
「ヒルカンは火の神。沖縄ではそれぞれの家の守り神の一つ」
母ちゃんが後を引き継いで説明する。
「ヒルカンというのはね、元々はかまどの神様なの。電気や水道がない昔は料理はかまどでする物だったでしょ? 家族の毎日の生活にとっては大事な物よね。だから家の守り神になり、やがて火の神になった。沖縄の神様であるヒルカンは火を出現させ操る存在。だから琉球神女である美紅が火をイメージすると、そのヒルカンの力として表れる。こういう風に、霊能力者の力はそのベースになっている宗教と密接に結びついている事が多いわけ」
「確かに……キリスト教にあんな恐ろしい力に関係ありそうなイメージの物って俺は知らないな。専門家の母さんでもそうなのか?」
「そう。愛と慈悲を何より尊ぶキリスト教にそんなおどろおどろしい呪術だの秘術みたいな物があるとは考えられない。まして十字架を、人を殺すための凶器として使うなんてあり得ない。でも、この物体はどう見ても十字架に見える……その関係がどうしても分からないのよ」
俺は腕組みをしてもう一度小学校時代の純の事を思い出してみた。でも結局何も手がかりらしき事は思い出せなかった。あいつが教会へ行っていたとか、十字架を持っていたなんて記憶は俺には全然ない。まあ、俺が知らなかっただけ、という可能性もあるが。
母ちゃんは食べ終わった食器一式を台所の流しに運んで、またテーブルに座り、俺に向かってやけに真剣な顔でこう尋ねた。
「さて、雄二。あんたこれからどうする? 遅かれ早かれ、純君の幽霊は最後にあんたの所へ来るわ。それまで家に閉じこもってる? もちろん来たら美紅が守るけどね。でもあんたはあくまで七人目……この意味分かる?」
俺も真剣な顔で母ちゃんと美紅を交互に見つめながら答えた。
「いや、隆平を助ける。もちろん俺自身には何もできないから直接助けるのは美紅に頼む事になるけど……美紅、俺の昔の友達なんだ。純の幽霊からあいつを守ってくれるか?」
美紅はなんのためらいもなく即座に頷いた。母ちゃんが少し心配そうな表情で美紅に言う。
「美紅……気を遣わないで正直に言っていいのよ。あんた、あれに勝てそう?」
美紅は一瞬沈黙したが、大きく頷いて答えた。
「大丈夫だと思う。あの時、あたしのマジャバニであれはダメージを受けた。だから、正面から力をぶつけ合ったら、あたしの方が上だと思う」
マジャバニ?……ああ、あの時美紅があの人影に向けて飛ばした光の羽みたいなもんか。そう言えば、あれも琉球神道の神様の名前なんだろうか?それを尋ねると、美紅はこう答えた。
「マジャバニは、ビンヌスゥイという七色の羽を持つ不死鳥の羽の事。邪悪な物を払う力がある」
「沖縄にはそんな珍しい鳥がいるのか?」と俺。母ちゃんが美紅に代わって説明する。
「あくまで想像上の鳥よ。西洋のフェニックスみたいな物と言った方が雄二には分かるかしら?」
「ああ、伝説の生き物ってわけか?」