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同日同時刻東京区千代田エリア・グランドホテル九段下 2055室
槇村は、室内のカーテンを閉め切って、スーツ姿のままベットに仰向けになっていた、
天井がメリーゴーランドの様に回って見える。
身体中の節々や背中も痛くて、朝方は立ち上がるのもやっと、かかりつけの医師からは感染症と診断された。
絶対安静を忠告されたのだが、公務をおろそかにするわけには行かず ー 特に今日、この九段下で開催される『全国殉職警察官追悼式典』を、欠席するわけにはいかなかった。
東京テロで殉職した2名の警察官が含まれていたからである ー
槇村は、処方された抗生物質と点滴でしのぎ、追悼の辞を述べるその時を待っていた。
倉敷の事は考えないようにしていた。
昨日のテレビ番組で、倉敷は槇村内閣を、
『弱腰保身内閣』
『アメリカ属国主義者の集まり』
などと、猛烈に批判を繰り返した。
側近の裏切り行為に耐え切れず、病の最中に呑んだブランデーが槇村の体調をさらに悪化させた。
槇村はひとり笑った。
「こんな人間が総理だなんて…」
ベット脇に置いたスマートフォンが振動している。
久保キリカからだった。
唯一信頼のおける人物は、彼女しか残っていないと槇村は考えていた。
「もしもし、青葉です」
「久保です」
「どうしたね…まだ時間じゃないだろう?」
「お加減はいかがですか?」
「最悪だよ」
「…この後の防衛省主催の自衛官追悼集会ですが、時間を1時間ずらして頂きました、津田防衛大臣からの挨拶の後が総理です」
「わかった、ありがとう」
淡々と職務をこなすキリカの態度と、細やかな心配りに感謝した。
会話を終えて目を閉じると、槇村 は浅い眠りに就くことが出来た。