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## 『日向、突然のバイリンガル。』
放課後。
烏野バレー部。
「外周十周!」
「「「うぇぇぇぇぇ……」」」
田中が頭を抱える。
西谷は笑いながら走り出す。
菅原「ほら、行くべ!」
影山「ボケ、置いてくぞ。」
日向「待てぇ!!」
いつものように騒ぎながら走っていた。
-–
学校近く。
交差点。
一人の外国人が困ったように地図を見ていた。
「あの……。」
「Excuse me.」
全員。
「……。」
外国人は笑顔で聞いてくる。
「Could you tell me how to get to Karasuno Station?」
「…………。」
沈黙。
田中。
「え?」
西谷。
「今、日本語?」
影山。
「……分かんねぇ。」
菅原が苦笑する。
「英語だべ。」
旭は焦る。
「え、えっと……。」
澤村も困る。
「すみません……。」
月島は小さくため息。
「誰か英語得意な人。」
全員。
「…………。」
その時。
「俺行く。」
日向だった。
影山「お前?」
月島「無理でしょ。」
田中「九九危うい奴だぞ?」
日向は外国人の前へ。
「Hi!」
外国人の表情が明るくなる。
「Oh! Thank you!」
次の瞬間。
日向が流暢な英語で話し始めた。
「You’re trying to get to Karasuno Station, right?」
「If you go straight for about five minutes, you’ll see a convenience store on your left.」
「Turn right there, walk across the bridge, and the station will be right in front of you.」
「It’s an easy walk, so you shouldn’t get lost.」
外国人。
「That’s perfect! Thank you so much!」
日向。
「You’re welcome! Have a great trip!」
外国人。
「Your English is amazing!」
日向。
「Thanks! Have a nice day!」
外国人は笑顔で去っていった。
-–
静寂。
「…………。」
「…………。」
田中が口を開けたまま固まる。
西谷も固まる。
旭も固まる。
菅原も固まる。
澤村も固まる。
影山も固まる。
月島だけ眼鏡を外した。
「……誰?」
日向は首をかしげる。
「何が?」
影山。
「お前。」
「英語。」
「しゃべれんのか。」
「うん。」
「なんで?」
「なんとなく。」
全員。
「なんとなく?」
日向。
「テレビ見てたら覚えた。」
月島。
「テレビ?」
「うん。」
「海外の試合とか。」
「映画とか。」
「ゲームとか。」
「動画とか。」
「気付いたら。」
「しゃべれるようになってた。」
影山。
「気付いたら?」
日向。
「うん。」
「え?」
田中が頭を抱える。
「勉強は!?」
「赤点じゃん!」
「英語も赤点じゃん!」
日向。
「筆記は無理。」
「聞くのとしゃべるのは好き。」
菅原。
「いやいやいや!」
「そんなことある!?」
月島。
「ある意味才能だね。」
西谷。
「日向、お前何者!?」
日向は笑った。
「さぁ?」
影山は真顔で一言。
「……お前。」
「俺より頭いいのか?」
日向。
「英語だけ。」
「それ以外は?」
「全然。」
「昨日も九九間違えた。」
「九九は間違えるんかい!!」
烏野中にツッコミが響いた。
その日から烏野では、
**「英語なら日向。」**
という謎の共通認識が生まれた。
『影山、国語だけ東大レベルだった件。』
外周中。
「あと三周ー!」
「うわぁぁぁ……。」
田中が嘆く。
西谷はまだ元気。
日向は影山を追い抜こうと必死だった。
そんな時。
「おっ。」
道端から数人の男が近づいてきた。
「高校生?」
「かわい~じゃん。」
「ちょっと遊ぼうよ。」
田中が前に出る。
「すみません、急いでるんで。」
「いいじゃんいいじゃん。」
男は距離を詰める。
旭が困ったように笑う。
「いや、その……。」
澤村も表情を引き締める。
「失礼ですが、道を空けていただけますか。」
しかし。
男たちは笑うだけ。
「そんな固いこと言うなって。」
「高校生なんだからさ。」
空気が悪くなる。
その時。
影山が一歩前へ出た。
「……。」
日向が小声で言う。
「影山?」
菅原も止めようとする。
「おい、影山。」
影山は男たちを真っ直ぐ見た。
そして静かに口を開く。
「まず。」
「”嫌だ”と意思表示をした相手との会話を、自分の都合だけで継続しようとする時点で、その行為は相手への配慮を欠いています。」
男たち。
「……は?」
「あなた方は”少しくらい”と思っているのかもしれません。」
「ですが、その”少しくらい”を受け入れるかどうかを決める権利は、誘った側ではなく、誘われた側にあります。」
月島が目を丸くする。
「影山……?」
「相手が断っているにもかかわらず距離を縮め続ける行為は、好意ではなく自己満足です。」
「そして自己満足を他人へ押し付けることは、思いやりとは呼びません。」
男たちの笑顔が消える。
影山は続ける。
「あなた方は”かわいい”と言いました。」
「ですが、その言葉は相手が喜ぶ状況で初めて褒め言葉になります。」
「恐怖や不快感を与えている時点で、その発言は褒め言葉ではなく、一方的な圧力です。」
黒尾がいたら拍手していたレベルだった。
影山は止まらない。
「さらに。」
「断られたあとも引き下がらないということは、あなた方は相手の意思より自分の欲求を優先していることになります。」
「つまり。」
「会話をしているようで、実際には他者の意思を尊重していません。」
男たち。
「……。」
「人との関係は、一方だけの都合では成立しません。」
「拒否された時点で引くことができないのであれば、それはコミュニケーション能力ではなく、相手への想像力の欠如です。」
シン……
誰もしゃべらない。
男たちは顔を見合わせる。
影山は最後に一歩踏み出した。
「なので。」
「これ以上ここにいる理由はありません。」
「俺たちは部活中です。」
「邪魔です。」
「道を空けてください。」
静寂。
男たちは何も言えない。
「……悪かった。」
「行こうぜ……。」
気まずそうにその場を去っていった。
……
誰も動かない。
田中がぽつり。
「……影山。」
「お前。」
「急に国語の教科書になったな。」
西谷は爆笑。
「『想像力の欠如です』って何だよ!」
菅原は苦笑する。
「普段『ボケ』しか言わないのに、今日は語彙力どうしたべ。」
月島は眼鏡を押し上げた。
「たぶん一年分の語彙を一日で使い切ったんじゃない?」
日向は影山を見つめる。
「影山。」
「なんだ。」
「今の半分も意味分かんなかった。」
影山は真顔で答えた。
「俺も全部は分かってない。」
「分かってなかったんかい!!」
烏野のツッコミが、外周コースに響き渡った。
コメント
5件
日向すっご!
読了しました! 第6話、一気に二つの“意外な才能”が炸裂してめちゃくちゃ面白かったです。 まず日向のバイリンガル。テレビ見てたら喋れるようになったって、その“気付いたら”感が完全に日向で笑いました。筆記は無理だけどリスニングとスピーキングは好き、というリアルな偏りもキャラに合ってます。 そして影山の国語爆発シーン。普段「ボケ」しか言わないのに、あの長台詞でナンパ男を論破するギャップが凄い。しかも最後に「俺も全部は分かってない」ってオチが付くのが影山らしくて、ツッコミどころを残す構成が憎いです。 テンポ良くて、キャラの意外な一面を自然に見せてくれる、とても楽しいエピソードでした! (192字)