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「……やはり、腑に落ちないな」
マーロケリー国の王都ルクセリアにある王城へ戻ってからも、セレノ・アルヴェイン・ノルディールの胸には小さな違和感が燻り続けていた。
ヴァン・エルダール城で交わした、ランディリック・グラハム・ライオール辺境伯との会話。
リリアンナ・オブ・ウールウォード伯爵令嬢を妃に迎えたいと告げた途端、あの男の纏う空気は明らかに変わった。
元より歓迎されるとは思っていなかった。
ライオール卿がリリアンナ嬢を大切にしていることは、以前から知っている。
イスグラン帝国の皇太子であり、今現在は実質的な最高責任者であるアレクト・グラン・ヴァルド―ル殿下からは、ライオール卿はリリアンナ嬢の養父のような存在だと聞かされていた。
だが、あれは単に養い子の婚姻を案じる保護者の態度ではなかった。
セレノは執務机に頬杖をつき、あの日のやり取りを思い返す。
『リリアンナは今、大事な身だ』
あの言葉。
そして、リリアンナ嬢自身の様子も気になった。
顔色が優れないように見えたのは、体調を崩しているからだと聞いた。
それ自体に不自然なところはなかった。
しかし、どこか落ち着かない様子で時折無意識に腹部へ手が添えられていたのが、どうにも気になった。
「大事な身、か……」
ぽつりと呟く。
はっきりと語られたわけではなかったが、あれはもしかして胎に――。
考えたくないがもしそうだと仮定すれば、ライオール卿が頑なにリリアンナと自分との婚姻を拒んだことにも説明がつく。
その証拠みたいに、彼は代わりとなる女性を提示してきた。
ダフネ・エレノア・ライオール。
元々はダフネ・エレノア・ウールウォードと名乗っていた、リリアンナ嬢の従妹にあたる娘だ。
セレノがアレクトに会うため、イスグラン帝国の王都エスパハレへ出向いた際に巻き込まれた問題を解決するために、ライオール卿の養女になったのだという。
何の身分も持たなかったダフネは、彼の養女になることで〝侯爵令嬢〟という肩書を手に入れたのだ。
(そのくせ、ダフネ嬢は王都へ残したままか……)
戸籍へ入れていないリリアンナ嬢はヴァン・エルダール城で面倒を見ているというのに……。
(ダフネはペイン邸に置き去り?)
おそらくはそうなのだろう。
自分も王都へ滞在した折には世話になったペイン家当主ウィリアム・リー・ペイン男爵は、確かライオール卿とは旧知の仲だったはずだ。
(養子はそばに置かず、リリアンナ嬢は手元へ……か)
もう、それだけで二人の令嬢の扱いに雲泥の差があると感じてしまったセレノである。
ライオール卿の言い分では、ダフネ嬢が王都を離れたがらなかったから、ということだった。まぁ確かに彼女の性格を思えばそれも一理あるのだろう。
だが――。
それだけではないとどうしても感じてしまうのだ。
和平のために婚姻が必要だというセレノやアレクト殿下の考えそのものを、ライオール卿は否定しなかった。
拒んだのは、あくまでリリアンナとの婚姻だけだ。
「……さて、どうしたものか」
セレノは椅子の背へ身体を預けた。
リリアンナを望む気持ちが消えたわけではない。
初めて会った時から、彼女には不思議と心惹かれるものがあったから。
何より、リリアンナを妃に迎えることができれば、自分は幸せになれる。そう思えた。
だが――。
コメント
3件
セレノ殿下、リリーの懐妊に気付いてる?
セレノ殿下は、リリアンナちゃんをと思ってもね無理だわ😔 ランディが離すはずがない。 まだ妊娠した事を知らないにしても、男だから想像が付かないのかなぁ。
わあ、今回もめっちゃ深い回だった…!!セレノ殿下の視点でリリアンナ様への想いと政治的な計算が交錯しててドキドキしたよ〜😭💕 「大事な身」って言葉の含み、読者としてはもう気になって仕方ないし、ライオール卿とリリアンナ様の関係性にもっと秘密がありそうで続きが気になりすぎる…!! セレノの「幸せになれると思った」のところ、切なすぎて胸がぎゅってなったよ…次回も楽しみにしてるね!🌸
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