「彼奴やな」
「そだね」
ターゲットを発見し、静かに鞘へと手を掛ける。
かちゃり
音が鳴ったのも束の間。
血飛沫がその場に散った。
赤黒い液体が足元へと流れてくる。
こんな汚い奴になど触れたくないと避けながら彼へと近付いた。
「あにき、終わった?」
「…あぁ、おん。」
一拍おいて返された言葉は妙にふわふわしていている。
嫌な予感がして彼の手を取る…
よりも先に彼が動いた。
頬を掠める刃先。
振り下ろされた刀は真っ直ぐ此方へと向かってくる。
まるで絡繰人形のように動く彼。
琥珀色の瞳に光など映っていなかった。
「ころす、ころす、ころ、」
ぶつぶつと同じ言葉を呟き続ける彼が奇妙で、思わず耳を塞ぎたくなる。
降ってくる刀が恐ろしくて仕方なかった。
偶に訪れるこの症状は、初めてでは無い。
「あにき、落ち着いて」
「ころす、ころす、」
「あにきっ!」
「ころす、ころ、」
艷やかな長髪が靡く。
くるりと方向転換した彼の頬には涙が染みていた。
「まろっ、…
ころす、ころすっ…、」
小さく絞り出された“まろ”の声。
俺は何を恐れていたのだろう。
刀など、彼の心の闇に比べれば何も怖くない。
ぎゅっ
思い切り抱き着く。
刀が脇腹に突き刺さった。
じわりと染みる赤色。
でも、痛くはなかった。
「まろっ…?」
腕の中で此方を見上げる彼。
「んっ…?、どした、の…?」
「んふ、笑 まろやぁ…」
先程の形相が嘘のようににへら、と笑う彼がなんとも愛おしくて。
「良かったぁ…」
安心からか、その場に崩れ落ちた。
ぐさっ、
その瞬間に、脇腹に刺さっていた刀が深く突き刺さる。
「う”っ”…、」
「まろっ、!?」
そのあまりの痛さに気絶した。
「で、なんで、???
あにきの刀がいふくんに刺さってたの?」
知り合いの医者の元で治療をしてもらう。
できれば此奴に世話になりたくなかった。
それでも背に腹は代えられない。
まだ痛みが残る脇腹を軽く撫でた。
「俺が刺した」
「…え?あにきが…?」
「、おん」
「????」
全く噛み合ってなさそうな会話を尻目に、俺はその場を立った。
「もう戻るわ。あにき、行こ」
「はぁ???
助けてやったのに、感謝ってものはないの???」
「お前にする感謝なんてないわ!!!」
「はい、もういいです
知らないです。もう助けません〜〜!!」
「お前ら、喧嘩すんなって…」
騒がしい病院。
患者は何処にもいない。
此処にいるのは3人だけ。
それはそうだろう。
だってここは…
「ねぇ、ぼくあにきの隣の部屋がいい〜!」
「は?あにきとまろは同棲中なのでっ!」
「だからあのでかい部屋使ってんの?!
初兎ちゃんの仕事部屋だったのに!」
「彼奴、殆ど仕事してへんやろ!
てか、なんであんなに金持ってんねん!?」
殺し屋の住処なのだから。
コメント
6件
時差コメ失礼します🙇♀️ もう、この、私の性癖に殴りかかって来るような...、ありがとうございます 次回も楽しみにしています!あとフォロー失礼します!
続きありがとうございます( ;꒳; ) 最高でした!!なんかもう神作だけでは表せないくらい好こです!!