秋の19時
辺りは薄暗く肌寒い秋の19時。静かな水面をほのかな常夜灯が照らしているプールサイドに夏目漱石こと夏目金之助は一人で立ち尽くしていた。書斎にいても深い孤独に包まれるため気晴らしと言わんばかりの散歩をしている途中だった。彼は英吉利留学から帰国し、日本の学界に戻ってきたものの心は晴れなかった。異国での孤立した生活、周囲の期待や重圧に押しつぶされ心の中には不安と絶望が渦巻いていた。彼のカバンの中には書きかけの原稿用紙が詰め込まれていた。名声と立場があるために弱気になることを許されないと思っていた漱石は何日も眠れず、頭痛薬吐き気と戦っていた。
「もう十分だ。全てを終わらせろ。」聞こえるはずのない声が聞こえてくる。気づくとプールの中へ落ちていていた。気力を無くしている漱石は体に力が入らなかった。しかしその瞬間に意識の奥底から新たな思いが浮かんだ。『吾輩は猫である。』。その作品が書き途中だ。書きかけの言葉が彼の中で小さな輝きを見せる。漱石はその輝きを手放したくなかった。「まだ終わっていけない。」必死に手を伸ばし、体温を奪うプールの中から這い上がった。気を失い、数分後に目が覚め、また頭痛や吐き気が漱石を襲う。冷えきった体、水を含み重い服、塩素のツンとする匂いが漱石の頭痛や吐き気を加速させた。しかし、漱石の心には新たな決意が芽生えていた。
以来、漱石は新たな視点で自身の内面と向き合い、文学を通して自身の葛藤や苦しみを描くことに力を注ぐようになった。漱石は深い孤独と絶望の淵から自らを救い出した。この経験が作家としての成長に大きな影響を与えることとなる。
今回引いたワードは
[秋の19時][夏目漱石][プールの中]
コメント
1件
初投稿🍍