「友達、ねぇ……」
なんだかしっくりこない響きだ。
一般的に友達というのは目に見える関係ではない。いつの間にか仲良くなっている人を友達と呼ぶし、いつでもその契約を断ち切ることだって出来る。所謂絶交というやつだ。
そういう曖昧な関係があるから、人間はごちゃごちゃしてくるのだと、ここ数十年で分かったことだ。
人間というのは本当に良く分からない生き物だ。
まぁでも、ここで断る義理は無い。
「七海がそういうなら、友達でもいいんじゃない」
「何その言い方……ツンデレ?」
「別にそういうんじゃないけど……」
意識的な返答を性格に例えるのはどうかと思う。__と言おうとしたのは心の内に留めておこう。
「そういえば、前に俺が連れていかれたあの空間。もう一回行ってみたいな~、なんて……」
「やめたほうがいい」
あそこは生きた人間がむやみに入っていい世界ではない。通常の人間の体であの場に居られるのは、せいぜい数十分なのだ。
普通の人間用に作られた空間ではない。
「ほんっとに少しでいいから、もう一回見て見たいの!お願い……」
子犬のような潤んだ眼で見つめられる。
だからといって、心が揺らぐわけでもない。
「お前、死んでもいいの?」
下手したら死ぬ可能性だって大いにある。
「うん、いいけど」
嗚呼、コイツはそういう奴だった。自殺を試みた奴にこの言葉は効かない。
「ねぇ、お願い!!何でもするからさぁ……」
何でもする。こう言った人間は大抵このことを忘れる。この言葉が人間界の言葉の中で一番信用ならない。
「言ったね。何でもするって言ったね」
こうやって念押ししておく。そして忘れたころに思い出させる。そうやって何人もの人間を思い知らせてきた。
「もちろん!」
どうしてコイツはここまで自信過剰なのだろう。まぁ、どうせ忘れるんだ、放っておこう。
「……そこまでして、もう一度あのパラレルワールドに行きたい?」
何でもする。その言葉は、人間としての権利を捨てたようなものだ。誰かの言いなりになるなんて、普通の人間はまっぴらごめんだろうに。
性別を変えろと言ったら変えなければならないし、死ねと言ったら死ななければならない。そんなのはもう、手のひらで転がされているも同然なのだから。
人間という権利を捨ててまで、あの空間をもう一度体感したいというのは、それ相応の理由があるのだろう。
「うん……俺、夜空とか好きなんだ」
「……へぇ。で?」
「……俺の父さん、事故で死んでんだ」
あぁ、成る程。
事故で亡くなった父、星になった父を地球に落す私。
そういうことか。
「分かった。それ以上話さなくてもいい。」
「__え?」
「話すのが辛い話題だろう」
故人の話をするのは気分が悪い。誰だってそうだろう。それも、事故で亡くなったというのだから。
「……うん、ありがとう。でもこれは話しておきたい、かな」
そう言って七海は目を伏せた。
私は七海と向き合い、黙って話を聞くことにした。
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