テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
柘榴とAI

441
#没入感フィクション
柘榴とAI

391
柘榴とAI

298
「凄いね……こっちを見てないのに、分かるんだ?」
彼女の質問に答えつつ近付いてみたのだが、相手はジッと正面を見つめたまま。
こっちを見てくれない……なんて、ちょっとだけ寂しい気持ちにはなってしまったけど。
「黒沢君だったら……何となく分かるって言うか。私なりに、昨日の夜教えられた事を考えてみたんです。それが、これなのかなぁって……ちょっとだけ、試してみて良いですか?」
「う、うん? 別に良いけど……何を試すの?」
ちょっと白川さんが言っている事が理解出来ずに、はて? と首を傾げてしまったが。
「黒沢君だけは、昨日既に出来ていた事……なんでしょうけど。私の場合は、今日一日を使って、ちょっとだけ出来る様になった程度でした。えっと、今から目を瞑って耳を塞ぎますので。私の視覚外で、どこかに隠れる……程じゃなくて良いので、立っていて貰って良いですか?」
それだけ言って白川さんは耳を塞いで下を向き、「じゅ~ぅ、きゅ~ぅ」とカウントし始めた。
あぁ、アレかな?
俺達が佐々木さんから一対一で教わっている時、彼女は子供達と色々やっていたみたいだし。
後半は道場から外に出て、庭で何かしてるなーとは思っていたけど。
こういう……かくれんぼ? みたいな事をしていたのだろうか?
よく分からないけど、とにかく言われた通り、ある程度移動してカウントが終わるのを待ってみると。
ゼロまで数えた白川さんは、耳を塞いでいた手を退かし。
少しの間ジッとしていたかと思えば。
迷うことなく此方を振り返り、すたすたと歩いて来た。
そして俺の正面で立ち止まって、此方を見上げて来たけど……ちょっと待った。
今の白川さん、目を閉じたままだ。
「え、え? 今、白川さん何も見ないで俺の前まで来た?」
「はい、ちゃんと合ってましたか?」
ここで初めて瞼を上げて、此方を確認してから嬉しそうに微笑んだ。
いや、待った、本当に待った。
昨日の夜の訓練というか……佐々木さんが言っていた、相手の少ない情報だけで見つけ出すアレだよな?
昨夜俺は出来ていた、なんて白川さんは言っているけど。
実際には違うのだ。
俺には今彼女がやったみたいに、本当に何の情報も無しに相手を見つけ出した訳じゃない。
相手の声が聞えて来る方向、その音が移動していく速度。
心の中でカウントしながら、これ等を元に“想像”しただけ。
イメージは大事だって、観測し予測する事がスナイパーの仕事だって教わっていたから。
だから実際、俺の予想が全然外れていた可能性だってあったのだ。
けど今この子がやったのは、俺がやった事と全然違った気がする。
しかも……自分から視界という情報すらも制限した状態で。
「も、もう一回やってみて貰っても良い!?」
「はい、大丈夫ですよ? でも、子供達に比べると……黒沢君は静かなので、ちょっと時間が掛かっちゃいますけど」
それでも十分早かったけどね?
という事でもう一回目を閉じてもらい、再び彼女の視界外へ。
ちょっと意地悪だけど、さっきよりも遠くに、そして息を潜めてみたのだが。
カウントが終わった彼女は、先程よりも少しだけ長い時間ジッとした後。
再び、目を閉じたまま此方へ真っすぐ向かって来る。
しかしながら。
「ぅわっぷ!」
「ご、ごめん白川さん! 大丈夫!?」
どうやら少しだけ距離を見誤ったらしく、止まることなく此方の胸に顔面をぶつけてしまった。
鼻先を少しだけ擦りながら目を開け、恥ずかしそうに俺の事を見上げて来る彼女は。
「ちょ、ちょっとだけ失敗しちゃいました……」
「それでも充分凄いと思うけど、実際方向とかは完璧に合ってた訳だし」
だが失敗が悔しかったのか、最後にもう一回だけ! と言い出したので。
先程同様、少し遠くまで離れてから息を潜めると。
今度もまた、白川さんはまっすぐ此方に歩いて来て。
「ここ、です……かね?」
未だ目を閉じたまま、顔だけ此方に向けて来る。
本当に凄い、ソレ俺にも教えて! って言いたくなったのだが。
それ以上に。
「っ!」
結構近い距離で、目を閉じたまま此方に顔を向けて来る仕草が、ですね。
こう、グッと来ると言いますか。
俗に言うキス待ちって、こういう構図なんでしょうか。
などと、無駄にドキドキと胸が煩くなってしまうと。
「あ、合ってますよね? 黒沢君、居ますよね?」
何も答えない俺を不審に思ったのか、白川さんは目を開いて此方を確認。
そして、ちょっとだけ不満そうに頬を膨らませる。
「合っていたのに教えてくれないのは、ちょっと意地悪です」
「ご、ごめん! ズルしようとか、そういうつもりじゃなくてですね……」
相手を怒らせちゃう様な真似をしたというのに、申し訳なさより他の感情の方が先行していた。
さっきのもそうだけど、ちょっと怒ってる白川さん、初めて見たかも。
俺に慣れて来た影響か、それとも普段とは違う環境に居るからこそ、いつもよりテンションが上がっているのかは分からないけど。
なんか、普段困った顔している方が多い彼女が。
こうもコロコロ表情を変えているのが……何と言うか、ね。
不味い、俺も夏休み効果でテンションが上がっているのかもしれない。
などと言い訳みたいな事を考えつつ、ごめんごめんと謝っていると。
「たのもぉぉぉ!」
「「え?」」
それなりにいい時間だというのにも関わらず、敷地の門辺りから。
なんか、デカい声が聞えて来た。
驚いて視線を向けてみると、そこには……俺等とそう変わらなそうな歳に見える、男子が。
え、誰。
もしかして、俺等と日程が少し被った生徒さん……という可能性も?
とか何とか色々考えたけど、今「たのもう」って言ってたしな。
まるで道場破りみたいな勢いで、昔の漫画に出て来そうな感じに。
「ん? ハッハーン……お前達だな!? 東京から来た、ガンサバプレイヤーというのは!」
「え、えぇと?」
ちょっと出っ歯に近いテンションの相手が、ズカズカと敷地内へと入って来る訳ですけども。
こ、これは田舎あるあるなのだろうか?
普通に不法侵入だし、こんな時間に訪ねて来る? という印象しか無いんだけど。
とりあえず白川さんを背後に隠しつつも、相手の目の前へと立ちはだかってみると。
「うんむ? 歳は同じだって聞いてたんだけどな……お前、身長何センチだ?」
「し、身長? 確かこの前の身体測定では……170と、いくつだったかな。4とか5とかだった気がするけど」
「ぐ、ぐぬっ!? クソッ、身長で勝っているからと言って、良い気になるなよ!? 俺の方が強いからな!」
ごめん、何の話? それから、君誰?
色々と聞きたい事が多過ぎるのだが、俺もこの家の人間って訳じゃないし。
あまり大きな口を叩く訳にもいかないだろう。
そんな訳で、どうしたものかとポリポリ頭を掻いていると。
「ぁ、も、もしかして……テン――じゃない。佐々木さんの“お孫さん”、ですか?」
後ろからちょこっとだけ顔を出した白川さんが、そんな事を言いだした。
え、あの人この歳のお孫さん居たんだ。
ついでに言うと、いつもなら覗き込む感じで顔を出すだけだった白川さんが。
今は俺の腕に手を当てながらヒョコッと出てきている、可愛い。
目の前にはウチの中二病の同類と思われる男子、後ろからは想い人である白川さんがボディータッチしながら可愛い事してるって言う、本当の意味の分からない状態に陥っていると。
「いかにも! 俺は“佐々木 雄一郎”! 更には何を隠そう……ガンサバイブオンラインの賞金首として活躍する現役のぉぉぉ、“プロ”だ! 跪け! 一般プレイヤー共ぉ!」
「「……はぃ?」」
急にとんでもない自己紹介を始めた彼に対して、俺と白川さんに関してはポカンと口を開けてしまった。
いや、え? 冗談とかでは無く?
だとしたら凄いのは確かなんだけど、それって言って良いヤツ?
だって兄貴は基本俺以外には9Kの情報漏らさないし、此方の予想通りなら今背後に隠れている白川さんだって……ねぇ?
何かもう色々混乱し始めた頃。
急に、家の方からスリッパが凄い勢いで飛んで来た。
「へぶっ!?」
それを顔面に受けた賞金首さん? えぇと、雄一郎君? はその場でひっくり返ってしまった。
全然状況について行けないんですけど。
何の反応も出来ずに、白川さんと一緒に固まっていると……今度は。
「雄一郎……貴様、こんな時間に遊びに来るとは。そもそも今はお客様が来るから、騒がしくするなと言ってあったはずだろう。息子夫婦がこっちに来ているから、一人暮らしだと毎年の様に騒いでいたのに、急にどうした。夏休みの宿題は終わったのか?」
物凄く静かに怒っていらっしゃる、我等が師範。
佐々木 天馬さんが登場した。
あ、本当に孫とお爺ちゃんの関係なのね……。
コメント
1件
え、こんなに可愛いシーンなのに最後ドタバタで笑っちゃいました(笑)白川さんが目を閉じて黒沢くんの位置を探る訓練、すごくほっこりするのに、まさかキス待ちみたいな距離になるとは思わなくてドキドキしました!そこに急に現れた自称プロの孫・雄一郎くんの登場が面白すぎる。この空気、一気に賑やかになりそうで次が気になります!