テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「例の件……怪我人の治療ですね?」
「そうだ。一階の医務室に、昨日モンスターの襲撃から帰還した部下たちが集まっている。お前の『聖女』としての力がどれほどのものか、見せてもらいたい」
私はスッと背筋を伸ばした。
ただ守られるだけの妻ではない。
これが私の支払うべき「代価」であり、ここで生きるための第一歩なのだ。
「……承知しました。私にできる限りのことをさせていただきます」
案内された医務室は、重苦しい空気が漂っていた。
そこには、鋭い爪で引き裂かれたような傷を負った魔物たちが、苦悶の表情で横たわっていた。
「ひどい……」
思わず言葉が漏れる。
魔族の医官らしき男性が、手を血に染めながら処置をしていたが
傷口に漂う禍々しい「呪い」の気配に苦戦しているようだった。
「お前、本当にやれるのか?」
後ろで見守るディアヴィル様の声に、私は深く頷いた。
私は一番近くにいた少年の魔物のそばに寄り、震える手をその傷口にかざした。
目を閉じ、胸の奥にある温かな光を呼び起こす。
虐げられていた私に唯一神様がくれた、傷つけるためではなく、癒すための力。
「痛いの、飛んでいけ……」
幼い頃、自分を励ますために唱えていたまじないとともに、真っ白な慈愛の光が私の掌から溢れ出した。
光が傷口を包み込むと、魔物たちの苦悶に満ちた呻き声が、ふっと消えた。
ドス黒く変色していた皮膚は瞬く間に再生し、深い切り傷が塞がっていく。
「な……!? 呪いごと浄化されただと!?」
医官が驚愕の声を上げ、寝かされていた少年がゆっくりと目を開けた。
「あれ……? 痛くないや……。お姉ちゃん、人間なのにすごいね!」
無邪気な笑顔を向けられ、私は胸が熱くなった。
聖女の力を持っているというだけで、父からは「道具」として扱われ
異母妹からは「汚らわしい」と罵られてきた。
けれど、ここでは───
この魔界では、私の力が誰かの笑顔に直結している。
私は次々と怪我人の元を回り、光を注ぎ続けた。
一人、また一人と立ち上がる部下たちの姿を、ディアヴィル様は黙って見つめていた。
すべての治療を終え、額に汗を浮かべる私に、ディアヴィル様が歩み寄ってきた。
彼は大きな手で私の頭を、壊れ物を扱うようにそっと撫でた。
「よくやった、オーロラ。お前の力は本物のようだな」
「……お役に、立てましたか?」
「ああ。期待以上だ。……これで正式に、お前を俺の妻として歓迎しよう」
ディアヴィル様の瞳に、昨夜よりも確かな熱が灯っているのを感じた。
人間と魔王。
生贄と救済者。
歪な関係から始まったけれど、私はこの場所で、初めて「自分の居場所」を見つけられるかもしれない───
「行くぞ。オーロラ、次は城の庭園を見せてやる」
差し出された大きな手を取り、私は初めて自分から微笑みを返した。
まだ少し怖いけれど、この人の隣を歩くのは不思議と息苦しくなかった。