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その部屋には、何もなかった。
家具も
窓も
時計も
匂いも
あるのは、白い壁と白い床と白い天井。
そして扉がひとつ。
扉には黒い文字でこう書かれていた。
『ここにあるものは、あなたと無関係です』
僕は鼻で笑った。
意味がわからない。
無関係なら、どうして僕はここにいる?
次の瞬間、扉の向こうから泣き声がした。
子どもの声だ。
しゃくり上げるように、必死に息を吸いながら、泣いている。
僕は扉に手を伸ばして
止まった。
『無関係です』
そう書かれている。
なら、開ける必要はない。
開けたところで、僕には関係ない。
……なのに。
胸の奥が、いたい。
見えない釘で打ち付けられるみたいに痛む。
僕は息を吐いて、扉に触れた。
冷たい。
尋常じゃない冷たさ。
そして、扉を開けた。
向こう側も、白い部屋だった。
ただ一つ違うのは
床の中央に、小さな影がうずくまっていたこと。
子どもだ。
髪が短く、痩せた肩が震えている。
僕が近づくと、子どもは顔を上げた。
目が合った瞬間、僕は凍った。
その子は僕に似ていた。
いや、正確には「僕に似ている」じゃない。
僕の顔をしている。
僕の目をしている。
僕の泣き方をしている。
子どもは泣きながら言った。
「たすけて」
その子供は、僕だった。
声が、喉の奥を引っ掻いた。
僕は反射的に言い返していた。
「……誰だよ、お前」
子どもは目を見開き、唇を震わせた。
「……ぼく、だよ……?」
僕の背中に冷たい汗が流れた。
あり得ない。
僕は大人だ。
この子は子どもだ。
時間がズレている。
世界がおかしい。
僕は目を逸らし、扉を見た。
そこには、また黒い文字が浮かび上がっていた。
『この子は、あなたと無関係です』
僕は笑いそうになった。
笑うしかなかった。
「……無関係?こんなに似てるのに、か?」
返事はない。
白い壁が沈黙している。
子どもがまた泣いた。
「ねぇ……お願い……」
「ここ、こわいの……」
「だれも来ない……」
その言葉が、僕の中の何かを殴った。
僕は気づきたくなかった。
気づいたら最後だと思った。
でも、気づいてしまった。
この泣き声は
僕がずっと昔に置き去りにした声だ。
僕はしゃがみ込み、子どもの肩に触れた。
冷たい。
生きているのに、氷みたいに冷たい。
子どもは震えながら、僕の袖を掴んだ。
「……おねがい……」
「ぼくを……ここから出して……」
僕の喉が詰まった。
答えが出ない。
出したくない。
この子をここから出したら
僕の人生に関係ができてしまう。
僕はずっと無関係にしてきた。
悲しいことも、怖いことも、弱い自分も。
ぜんぶ。
だから生きてこれた。
だから平気な顔をしてこれた。
子どもが言った。
「ぼく、ずっとここにいるよ」
「ずっと、ここで泣いてる」
「きみが……無関係って言うたびに」
僕は息を止めた。
「は、はは……何だよ、それ」
子どもは涙で濡れた頬を上げ
歯を食いしばって言った。
「きみが無関係したものは」
「ぜんぶ、ここに来るんだよ」
僕は立ち上がり、後ずさった。
「やめろ」
子どもは続けた。
「痛かったこと」
「こわかったこと」
「助けてって言ったのに、誰も助けてくれなかったこと」
「それを、きみが無関係にした」
「黙れ!!!」
僕は叫んだ。
白い部屋に声が跳ね返り、何度も僕を殴った。
その瞬間。
壁に、赤い線が一本走った。
最初は細い亀裂。
だがすぐに蜘蛛の巣のように広がり
白い壁が割れた。
割れ目の向こうから、黒い何かが滲み出した。
液体みたいに、影みたいに、
部屋の隅から隅へと広がっていく。
子どもが小さく言った。
「……来ちゃう……」
僕は扉へ駆けた。
戻ろうとした。
無関係な場所へ逃げようとした。
だが、扉の文字が変わっていた。
『ここから先は、あなたと無関係ではありません』
「は?」
僕が扉を叩く。
開かない。
押しても引いても、びくともしない。
背後で、黒いものが音を立てた
。
ぬるり、ぬるりと、這い寄ってくる音。
子どもが言った 。
「きみが捨てたものだよ」
「きみが見ないふりをしたもの」
「きみが無関係って言ったもの」
僕は振り向いた。
黒いものは、形を持ち始めていた。
人の形だ。
複数。
腕が何本も伸び
口がいくつも開いている。
どれも、僕の声で喋った。
「無関係」
「無関係」
「無関係」
笑い声のように、泣き声のように。
僕は耳を塞いだ。
だが音は頭の中で鳴る。
子どもが叫んだ。
「ねぇ!いっしょに出よう!!」
「ぼくを連れてって!!」
「ぼくを▓▓にして!!」
僕は子どもを見た。
小さな手が、必死に伸びている。
僕の袖を掴もうとしている。
その手は
今までずっと誰にも掴まれなかった手だ。
僕は。
僕は
次の瞬間、僕は子どもの手を掴んだ。
その瞬間、胸が裂けるように痛んだ。
息ができない。
頭が割れる。
僕の中に、冷たいものが流れ込んできた。
忘れていた記憶。
泣いた夜。
助けを求めた声。
誰にも届かなかった日々。
それらが、雪崩みたいに押し寄せる。
僕は叫びながら、子どもを抱き寄せた。
「ごめん」
「ごめん……!」
「無関係じゃない……!」
「お前は……俺だ……!」
子どもが泣きながら、笑った。
そして、黒いものが止まった。
壁の亀裂が、静かに閉じていく。
床に広がった影が、溶けるように消えていく。
扉の文字が変わった。
【出口】
僕は子どもを抱いたまま扉を押した。
開いた。
外は、見慣れた街だった。
夕暮れ。
車の音。
コンビニの明かり。
僕は息を吐いた。
震える腕の中で、子どもが静かに瞬きをしている。
僕は言った。
「もう大丈夫だ」
「一緒に帰ろう」
子どもは小さく頷いた。
そして、 僕の腕の中で、子どもは消えた。
一瞬で。
煙みたいに。
最初からいなかったみたいに。
僕は呆然と立ち尽くした。
そのとき、胸の奥が、すうっと軽くなった。
涙が勝手に出た。
僕は誰もいない夕暮れの道で
初めて、声を出して泣いた。
その夜、僕は夢を見た。
白い部屋。
扉。
黒い文字。
『ここにあるものは、あなたと無関係です』
でも、僕はもう笑わなかった。
扉に手を置いて
静かに言った。
「……無関係じゃない」
すると、扉の文字が変わった。
【ようこそ!】
僕は、扉を開けた。
(熱なので、明日出せません。今回ので2話分くらい書いたから許して…)