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あめ猫
3,650
明け方。
まだ少し暗い。
部屋は静か。
——のはずだった。
布団が擦れる音。
クールキッドが目を覚ます。
「……ん」
まだ眠そうな顔。
でも、すぐにきょろきょろする。
隣を見る。
いない。
「パパ?」
小さく呼ぶ。
返事はない。
静かに部屋を出る。
リビングのソファ。
そこに二人。
セブンとエリオット。
背もたれに埋まって、座ったまま。
いつの間にか、そのまま寝ている。
距離が近い。
肩が軽く触れている。
無防備な状態。
クールキッドはそれを見る。
じっと。
数秒。
それから——
「……にや」
小さく笑う。
分かっているわけじゃない。
でも、“いつもと違う”のは分かる。
面白い。
そういう顔。
そっと近づく。
音を立てないように。
しゃがみ込む。
顔を覗き込む。
「……」
セブンは目を閉じたまま。
エリオットも同じ。
少しだけ表情が柔らかい。
クールキッドはまた笑う。
「……なかよし」
ぽつりと言う。
その声で——
エリオットが少し動く。
「……ん」
ゆっくり目を開ける。
ぼやけた視界。
最初に見えたのは、クールキッドの顔。
「……はよ」
まだ寝ぼけた声。
「にいに」
クールキッドが嬉しそうに言う。
「おはよ」
それから。
エリオットは状況に気づく。
肩。
触れている。
隣。
セブン。
距離。
「……」
一瞬、固まる。
完全に理解する。
「……近」
小さく呟く。
ゆっくり体を離す。
セブンはまだ寝ている。
珍しく深い。
クールキッドはその様子を見て、またにやにやする。
「にいに」
「ん?」
「パパと、ぴったり」
「……うるさい」
エリオットが小さく返す。
でも声は強くない。
むしろ少し照れている。
そのとき。
——ピピピ、ピピピ。
音。
でもどこかおかしい。
リズムがズレている。
止まらない。
「……ん?」
エリオットが眉を寄せる。
ポケットからスマホを出す。
画面。
アラーム表示。
でも時間がバグっている。
「……は?」
表示がぐちゃぐちゃに切り替わる。
秒が逆に進む。
止まる。
また動く。
「なんだこれ……」
同時に。
壁の時計。
カチ、カチ——
止まる。
急に進む。
また止まる。
「……おい」
エリオットの声が少しだけ変わる。
セブンが目を開ける。
「……何だ」
まだ低い声。
寝起き。
「時間おかしい」
スマホを見せる。
セブンの目が一瞬で覚める。
画面を見る。
時計。
部屋。
そして——
クールキッド。
小さな手。
空中で、ほんの少し動いている。
遊ぶみたいに。
「……やめろ」
低く言う。
クールキッドがぴたりと止まる。
「パパ?」
無邪気な声。
その瞬間。
スマホの表示が戻る。
時計も正常に動き出す。
静かになる。
「……」
エリオットは一連を見ている。
理解するのに、時間はかからない。
「……マジかよ」
小さく呟く。
スマホを見る。
時間。
「……やば」
顔色が変わる。
「俺、遅刻」
一気に現実に戻る。
立ち上がる。
「ごめん、行くわ」
急いで靴を履く。
クールキッドが見上げる。
「にいに?」
「また来る」
短く言う。
ドアに向かう。
その前に。
一瞬だけ振り返る。
セブンを見る。
何も言わない。
でも目だけで伝える。
“任せた”みたいに。
そして出ていく。
ドアが閉まる。
静寂。
セブンはしばらく動かない。
それから。
ゆっくりクールキッドを見る。
「……触るな」
低く言う。
クールキッドは少し考える。
それから。
「……うん」
頷く。
でも。
完全に分かっているわけじゃない。
その顔で。
セブンはそれを見ている。
長く。
深く。
朝の光が少し強くなる。
普通の一日が始まる。
でも。
“普通じゃないもの”も、確実に一緒にある。
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