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コメント
1件
うわ……最後の「受け取るはずだったんだ」で、全部の見方がひっくり返った……。ずっと“渡す側”だと思ってたのに、逆だったんだね。写真の端に映る青いリボンとか、空欄の撮影者とか、不気味で惹きつけられる伏線の置き方が本当に上手い。この人が誰なのか、ますます気になる……。
第六十九話 写真の端
翌日。
二人は昨日と同じ店にいた。
窓際の席に座り、
テーブルの上には何枚もの写真が並んでいる。
「これが、事故の前の日」
彼女が一枚を指差す。
「こっちが病院」
「うん」
二人は写真を一枚ずつ見比べていた。
目的は一つ。
病院の写真に写っていたバッグが、
事故前日の店にも写っているのか。
「……あった」
彼女が声を上げた。
彼はすぐに隣から写真を見る。
店内を撮った一枚。
窓際の席。
二人分の飲み物。
そして写真の端。
確かに、同じバッグが置かれていた。
「本当に同じだ……」
「しかも」
彼女が写真を拡大する。
「この人、ここにいる」
写真の端に、誰かの腕が写っていた。
顔は切れている。
けれど、手元には青いリボンが見える。
彼は息を止めた。
「病院の人と同じ……」
「たぶん」
二人は写真を見つめた。
その人物は、事故の前日から二人の近くにいた。
でも、なぜ?
「この写真、誰が撮ったんだろう」
彼女が言った。
「俺じゃないと思う」
「私でもない」
「じゃあ……」
二人は写真の撮影情報を確認した。
撮影日時は、事故の前日の夕方。
撮影場所は、あの店。
そして、撮影者の名前は――空欄だった。
「また空欄……」
彼女が呟く。
病院の記録。
面会者。
写真。
どれも肝心な部分だけが残っていない。
まるで、誰かが意図的に隠しているようだった。
そのとき、彼は別のことに気づいた。
「待って」
「どうしたの?」
「この写真、俺たちが撮ったものじゃないなら……誰かが俺たちを撮ってたってことになる」
彼女が黙る。
「つまり、あの日のことを知ってる人が、ずっと記録してた」
「……じゃあ、今メッセージを送ってきてる人も?」
「分からない。でも、可能性はある」
彼女は写真を見つめた。
「ねえ」
「ん?」
「この人、私たちのこと知ってたのかな」
「たぶん」
「じゃあ……」
彼女は少し迷ってから言った。
「私たちが、昔どんな関係だったのかも知ってる?」
彼は答えられなかった。
二人の過去については、まだ分からない。
ただ、何度も出てくる「渡す」という言葉。
箱。
キーホルダー。
青いリボン。
そして、事故。
全部が一つの出来事に集まっている。
「もう一枚ある」
彼が写真を指差した。
さっきの写真の少し前に撮られたものだった。
二人が店に入る前。
店の外から撮られている。
そこにも、同じバッグが写っていた。
「この人……私たちを待ってた?」
「そうかもしれない」
写真の中では、
バッグの持ち主が店の入口を見ている。
そして、その足元に小さな箱が置かれていた。
彼女が息を呑む。
「箱……」
彼は写真を拡大する。
小さな箱。
あの日、二人が探していたもの。
「じゃあ、箱は最初からこの人が持ってた?」
「分からない」
「でも、この写真が撮られた時点では、ここにある」
彼は画面を見つめた。
「だったら……」
そのとき、彼の記憶が突然つながった。
店の前。
雨が降る前の空。
誰かが箱を持っている。
自分がその人に近づく。
そして――
「……これ、俺の?」
相手が答える。
「ううん」
「じゃあ誰の?」
一瞬の沈黙。
そして、
「あなたが忘れた人の」
彼は目を開いた。
「……思い出した」
「何を?」
彼は写真を握りしめた。
「箱は、俺が誰かに渡すためのものじゃなかった」
彼女が驚いた顔をする。
「じゃあ……」
彼はゆっくり言った。
「俺が、誰かから受け取るはずだったんだ」
二人は言葉を失った。
これまでずっと、
「自分が誰かに何かを渡そうとしていた」
と思っていた。
でも、本当は逆だった。
あの日。
彼は誰かから、何かを受け取る予定だった。
そして、その「誰か」が――
事故の前から、ずっと二人の近くにいた。