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「えっ、ど、どうして?」
瑠維に背中を向けていることで表情を見られずに済んだため、少しだけ安心した。
だが春香の体の強張り方から、それが事実であることが簡単に瑠維に伝わってしまう。
「やっぱりそうだったんですね。夕方に鮎川さんが再びやってきて、ケーキとシャンパンを置いて行ったんです。意味がわからなかったんですが、春香さんの勤め先の袋を持っていたので、もしかしたらと思いましてーー案の定ですか」
店の袋! 瑠維の観察眼に感心しながらも、鮎川に口止めされた内容を思い出す。そのことには触れないように話をしなければーー春香は必死になって言い訳を考え始めた。
「あのね、アイシャドウを探していたみたいで、たまたま私に気付いて声をかけてくれてね、その時に『Love is blind』のラストには、読者それぞれがその後の考え方が違うって教えてくれたの」
「……そうですね。敢えて含みを持たせた終わり方をさせましたから」
腰に回された瑠維の手の力が僅かに強くなったような気がした。
「春香さんとの再会がないのなら、僕は死んだも同然でーーあのラストはそういう意味でした。あなたと再び繋がる未来があるなんて想像出来なかったんです」
「どうして?」
「もし再会したとしても、春香さんに別の恋人がいれば僕にはあなたの視界に入る余地はなかったでしょう。あの作品はあなたへの抑えきれない想いを吐き出したラブレターのようなもので、決別の意味もあったーーでも読者の方はそうではなかったんです」
春香は鮎川から聞いた言葉を思い出す。
「みんな初夏と伶が再会して恋に落ちることを願っていた……?」
「えぇ、驚きました。しかも初夏にモデルがいることまで知られていて。そんなことを話した覚えはないんですけどね」
小さく笑った瑠維の息が首に吹きかかり、春香の体が微かに震えた。
「きっと作品から僕の春香さんへの想いが駄々漏れだったのかもしれません」
瑠維の手が春香の肌の上を滑り、胸をすっぽりと両手で覆い、優しく揉み始めた。
どうしよう……あまりの気持ちよさに頭がクラクラする。
「作品を書いた頃は、こうなる未来を全く想像していませんでした。だから……幸せでどうにかなりそうなんです」
「私もだよ。今すごく幸せ」
「春香さん、愛しています。この言葉がこんなに簡単に口から出るなんて思いもしなかった」
春香は振り返り、瑠維にキスをした。
「私も瑠維くんを愛してるよ」
あまりにも長いことキスをしていたせいで、二人はのぼせそうになってしまう。
熱い吐息が口から漏れると、瑠維が何かを思い出したかのように目を開いた。
「そうだ。鮎川さんにもらったシャンパンとケーキがありますが、食べますか?」
「そうだね。せっかくだし、ケーキ食べたいな」
「じゃあそろそろ出ましょうか」
春香が頷くと、瑠維の力強い腕に抱き上げられる。彼の首にギュッとしがみつきながら、早くなった互いの鼓動に耳を澄ませた。
瑠維くんが幸せと言ってくれてすごく嬉しい。今が幸せならそれでいい気もする。だけど彼の抱えた過去について、話してくれる日は来るのだろうかーー瑠維くんはずっと一人で抱え込んで生きていくのだろうか。
分かち合いたいけど、それは私が口を出していいことではない。瑠維くんの意思を尊重すべきことなのはわかっているーー。
心配をかけたくないのだろうと鮎川は言っていた。しかし春香の気持ちとしては、瑠維にまだそこまで信頼されていないような気がしていた。
誰にだって、人には言えない秘密はあるもの。それが愛する人であってもーー。
今は『愛してる』と言ってくれた彼を信じて待とう。だって私も瑠維くんを愛しているから。
#大人の恋愛
#記憶喪失
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