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追憶の探偵

65 - 4-case11 新たな出会い

2025年03月02日

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「おい、お前何考えてんだ!」



引っ張り上げた少年も、通り過ぎていく電車を目で追って、そのアメジストの瞳を俺にゆっくりと向けた。まるで、何で死なせてくれなかったんですか。とでも訴えかけてくるようなその目に、俺は怒りを覚え叫んでしまった。



「お前、今自分が何しようとしていたか分かってんのか!?」

「…………分かってる。死のうとしていた」



と、少年は淡々といった。


その言葉を聞いて、俺は思わず拳を握ったがここで殴ってしまったら……と必死に抑えて冷静さを取り戻す。

俺は、大きく深呼吸をして、もう一度問う。目の前にいるこの少年が、自殺しようとしていることに間違いはないはずだ。何かに絶望したような……まるで、神津を失った当時の俺のような顔。自分と重なる部分があり、俺は少年に優しく出来た。



「そうか、辛いことがあったのか?」

「……っ、辛い、辛いこと……そう、だ、ですね」



少年はアメジストの瞳を見開いて揺らすと、次の瞬間には目を泳がせながら俯いた。彼も、自分と俺が似ている部分があるのだと気づいたような表情をし、グッと拳を握っていた。

少年は十七から十九歳ぐらいに見え、虐めに遭ったのか、大切な人が死んだのか、など自殺をしようと思った原因を俺は考えた。何にしろ、自殺を……と苦しんだ理由があるのだろう。



「もしよければ、俺に話してくれないか?」

「あんたに、ですか?」

「そうだ。まあ、俺はコールセンターとか、相談所の人間じゃねえけど、話ぐらいなら聞ける。本職は探偵だけどな」



と、俺は少年に名刺を渡した。


少年はそれを受け取ると、何度も瞬きをしてから俺を見た。探偵という職業が珍しいからか、俺の名前を知っていたからなのか、分からないが「探偵……」と呟いてその名刺をギュッと握りしめる。



「俺は、明智春。それで、少年、お前の名前は?」

「律……時雨律《しぐれりつ》」

「時雨か。じゃあ、時雨何で飛び降りようとしたのか話してくれるか? ああ、じゃなくて、その自殺をしようと思った理由とか。わりぃ、聞き方が悪かったな」



と、苦笑いすると、時雨は首を横に振った。こういうのには慣れていない。だが時雨もそれを察してくれたのか


そして、ポツリポツリと話し始めた。

雪が降り注ぐ中、俺はただ黙ってその話を聞いていた。



「幼馴染みが……恋人が死んだんです」



そう時雨はいうと、俺が渡した名刺をぐしゃっと握りつぶした。

それを聞いて、俺はまた神津を失ったときの自分と重なった。



「僕は、春から警察官になります。六月ごろに、同期と休みを取ってショッピングモールにいきました。そこで、テロに遭って」



時雨の言葉を受け、俺は記憶の中からとある事件のことを思い出した。きっとそれが時雨のいっている事件だろう。


六月ごろに起きた、ショッピングモール立てこもり事件。

主犯格は、とある宗教団体の過激派組織。犯罪に走った原因は分からないが、支離滅裂なことをいい、モールにいた全員を人質に取り、立てこもっていた。

幸いなのか、その事件は一日で解決したが、たった一人の死者を出した。確かその一人は警察学校の男子学生だったとか……あの事件は負傷者は出たが、死者は一人ですんだ……とはあまりいってはいけないが、まさか目の前にいる少年があの事件に巻き込まれた被害者だったとは思いもしなかった。



(たった一人だけが死んで……確か、子供を守る為に飛び出したんだったか)



俺が何も言えずに、時雨を見た。時雨は思い出すのも辛いというように唇を噛んでいた。

時雨の恋人は、きっと勇敢で優しい子だったんだなと想像がついた。そして、時雨はその恋人を大切に思っていた。俺が神津を思っていたと同じように。

だが、時雨の口ぶりからすればずっと一緒にいたと言う風に聞え、俺たちにはあった空白の十年がないと言うことになる。ずっと一緒で、隣にいて、いいたいこともきっとたくさん言い合えたんだろうなと思うと微笑ましく思う。

俺たちが手を繋いで身体を重ねて、好きと面と向かって言えたのはたった二年だったから。



「そうか」

「僕は、復讐したい。どんな手を使ってでも……でもきっと、|日向《ひなた》はそんなこと望んでいないから。だから……」

「だから後を追おうと思ったのか?」



と、そう聞けば時雨は口を閉じた。


気持ちは分からないでもない。

それでも、復讐したかったが思いとどまったのは凄いと思う。けれど、後追いはまた違う。



「俺にもな、恋人がいたんだ。そいつは、もう死んじまったけど。お前と同じ幼馴染みで恋人だった」

「明智も……さんも?」

「おい、今呼び捨てしただろう! ま、まあ……そう、そうだ。お前の恋人と同じ、人を守って死んだんだ。残された側ってこんなに辛いんだな」



俺はそう言って空を見上げる。時雨もつられて空を見上げた。

ここで此奴に会えたのは、運命かも知れない。同じように恋人を失ったもの同士、復讐と仇討ちをと、本人は望んでいるのか分からないことを行動に移そうとしている俺たちは。



「だが、後追いはダメだぞ。俺はそれは考えなかった。そんなことして、彼奴と会えるとは思っていない」

「…………」

「生きろ。仇討つんなら仇討てば良い。でも復讐はやめろよ?お前が犯罪者になっちまったら、そいつ悲しむだろうから……俺も人のこと言えねえけど」



と、俺は自嘲気味に笑った。


神津が生きていたら、絶対に止めるはずだ。あいつはそういう男だ。俺よりも優しく、強い。俺が逆の立場だったとしても止めているに違いない。



(まあ、止められないんだけどな)



俺は、時雨の顔を見る。時雨はさきほどよりも優しい表情で俺を見ていた。



「まあ、手伝って欲しいって言うんだったら、手を貸さないこともないぜ。俺は、何だって名探偵だからな。依頼とあらば……高くつくけどな」



俺は、時雨に向かって手を差し伸べた。

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