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#読み切り
ruruha
201
#ドラマ
柘榴とAI

92
#異能力バトル
コメント
1件
おお、熱い展開ですね…! ジョスランが一人で五人に立ち向かう覚悟を決めるシーン、胸が熱くなりました。「神妙にせよ!」の啖呵、カッコよかったです。ハグノスとの息の合った応酬も、緊張感の中に笑いどころがあって好きです。裏路地を巡る目線のリアルさに、作者さんの作品世界への愛を感じました。次の一手が気になりますね。
翌週から、花街の要所三カ所にそれぞれ騎士が一人ずつ配置され、定期的に見回りを行うようになった。
騎士が配されたのは、花街の大通りで人通りも多い場所なので、新たに騎士が配されても、人々はさほど違和感は覚えなかった。
それとは別に、遊びに来た農夫みたいな格好をさせたジョスラン含む騎士を三人、裏通りを中心に回らせた。
特に純朴そうな顔の者達を選んだので、キョロキョロと視線を巡らせても、遊び慣れず戸惑う若者という感じで、怪しまれる事は無かった。
ちなみに、元々花街を自治していた者達はは反発したが、最終的には厄介事が減るならと、なんとか納得してもらった。
「よお兄ちゃん、ここらに来るのは初めてか?」
見回り中のハグノスは、同じく見回り中のジョスランに対して、後ろから肩を組みながら話しかけた。
「俺ぁハグノスってんだ。遊び方が分からねえなら、教えてやるぜ?」
二人はもちろん、顔見知りなのだが、初対面を装って接している。
「ハグノスさん……ですか………。よ……よろしくお願いします」
ジョスランは、いかにも半可通に絡まれて迷惑する若者という演技をする。
ハグノスは短躯で、ジョスランが長身なので、ハグノスに合わせて猫背になり、困っている若者感がより出ている。
「ハグノス殿、何かございましたか?」
肩を組み合ったまま、ジョスランは小声で聞いた。
わざわざ演技をしながら、肩を組んできたという事は、なにか不審者を見つけたのではないかと思ったのだ。
「おう、怪しい五人組がどこの店にも入らねえで、人通りが少ない所を探してるような動きをしてやがんだ。ありゃあ多分、盗人の動きだ、盗みに入る店を探しているに違いねえ」
ハグノスが見かけたのは、異様に陰気な五人組だ。花街に遊びに来たにしては、雰囲気が暗い。
もちろん、嫌なことを忘れるために遊ぶ者も居るが、そういう人間とは違う雰囲気。悪事を働こうとしている人間には、独特の気配がある。
ハグノスは年功を積んだだけあって、その辺りは中々に目ざとい。
もっともハグノスの場合、年功で積んだ能力は、歩荷としてより、遊客や娼館・娼婦の良し悪しを見分ける方に振られている訳だが。
「見ただけで分かる物なのですか?」
「おう、少なくとも遊客じゃねえぜ。あの動きは盗人じゃなくたって、悪い事を企んでるに違いねえ」
「分かりました。そこまで案内してください」
必要な確認を終えると、二人は半可通と遊び慣れない青年という演技を続けたまま、その五人組に近づいた。
五人組が居たのは、主に店主などが暮らす居住区。店は少なく、この時間帯は皆働きに出ているので、実に閑散としている。
「おーう、お前ら飲んでるかぁ?」
「ちょっ………」
五人組に近づいた途端、ハグノスがぐでんぐでんの酔っぱらいの演技をして、あろうことかその五人組に挨拶したので、ジョスラン慌てて制した。
挨拶された五人組はと言うと、大げさに背筋をビクッと跳ねさせて、後退って距離を取り、明らかに動揺した様子を見せた。
「なっ……なんだお前ら! あっちに行け!」
「おーう、すまねえな。ほれ、行くぞジョスラン」
「は……はい。失礼しました」
挨拶された男は、苛立たしげに怒鳴ると、あっちに行けというジェスチャーをして見せる。
怪訝には思われたが、こちらが騎士及び姫の配下であるとは思われず、その筋肉質な身体付きから、大工か何かの師弟だと思われたものらしい。
ハグノスとジョスランは、角を曲がって死角に入ると、ひそひそ声で話始めた。
「な? いかにも怪しい奴らだろ?」
「ええ、確定は出来ませんが、監視はした方がいいでしょうね」
これから盗みに入る人間が、人目を気にするという事は良くある。
女を買おうというのだから、人目を気にして当然と思うのは、遊びを知らない、あるいは少ない人間の考えだ。ある程度慣れれば、ここに居る人間は皆、同じ穴の狢だと気づいて堂々とするようになる。
若くも無い、純朴そうでもない、いかにもうらぶれた身なりの男達があの反応をしたので、ジョスランは怪しいと考え、ハグノスは疑惑を確信に変えた。
しばらく尾を付けていると、五人は居酒屋の裏手、勝手口の前で懐をまさぐり、短い棒状の物を取り出した。
「ありゃあ………」
「懐剣……ですね」
鞘の付いた、鍔の無い直刀。一般的な料理用包丁より細身で長く、懐に入る長さなので、護身用や、ゴロツキがケンカの時に使ったりする。
「やべぇぞ、アイツら押し込み強盗だ。止めねえと人死が出るぜ」
押し込み強盗は、盗人の中でも最悪に悪質だ。盗むだけならば、経済的損失だけで済む。押し込み強盗は盗みに加えて、口封じのために目撃者を皆殺しにしてしまう。
その上、悪質なくせに目撃者が居ないから捜査が難しいという、救いようのない犯罪だ。
短刀は、狭い店内で暴れるにはもってこいの武器だ。このまま放っておいたら、店の者も僅かばかりの客も、皆殺しにされてしまうだろう。
「ハグノス殿、人を呼んできてください、自警団の拠点が近くにあります。この場は、私が抑えておきます」
「騎士様が走った方がいいぜ。俺は足が遅いからよ」
「だからこそです。私はいざとなったら、逃げられますから」
ジョスランの顔には気合が漲り、言葉からも覚悟が伝わってくる。
あまりにも気迫が満ちているのま、ハグノスは騎士というのは盗人の五人くらい、ワケも無く倒せるのだろうと解釈して、自分が人を呼んでくることにした。
「お……おう、分かった。だけど、無理だけはするんじゃねえぞ」
ハグノスはそれだけ言うと、踵を返して走り出した。
(さて………)
一人残されたジョスランは、今にも押し込みを働きそうな五人を建物の影から眺め、ゆっくりと深呼吸をした。
ハグノスが戻ってくるまで待っていたら、犠牲者が出るだろう。もちろん、自分が走っても間に合わない。
自分一人で、時を稼がなければならない。そして、逃がしてはならない。自分が逃げるつもりもない。
逃がせば、今この酒場は助かるだろうが、他所で犠牲者が出るかもしれない。それは余りにも寝覚めが悪い。
五人組が、勝手口のドアノブに手を掛け、今にも押し入ろうとしている。
酒場の勝手口というのは、酒や食材を納入する業者が出入りするので、営業中に施錠されている事はほとんど無い。
それを分かっていて、あいつらは狙いを付けたのだ。
止めなければならないが、武器は無い。剣など帯びていたら、一目で騎士とバレてしまう。
今の任務は、隠密での見回り。まさにこういう場面に対応するために、シトリン王女殿下は命を下したのだ。
(行くしかないっ!)
ジョスランは腹を決めると、路地から飛び出して、五人の背中に向かって大音声を張り上げた。
「待てっ! ラヴァリン王国騎士団、ジョスラン・ゼールベルである! 悪党ども、神妙にせよ!」