別に何かを必死に求めてる訳じゃない。
狙撃の技術が軍で上位に入ろうが自分より一回りも二回りも上の相手に皮肉言おうが満たされることなんて1度もなかった。
ただ、幼い頃に宿ったこの復讐心を満たすためならどんな事でもすると誓った。
“満たす為なら”何したってこの世界は許してくれるんでしょ?
×××
月島が生まれたのはのどかな帝国軍の町はずれノースだった。
両親と兄、そして月島の4人家族。
父親と母親はカフェを営んでいて、そこそこ繁盛していた。
兄は17にして兵役のために家を空けることが多かった。
それでも月に1、2回は帰ってきていた。そんな兄を月島は心持ちしていた
自分は国のために戦う兄のように格好いい軍人になることを夢にしていた。
そんな理想の兄は、もうこの世に居なかった。
1番戦場から離れているはずのノースで襲撃があった。
誰もそれに気づけず、軍が来るのが遅れた。
両親は直ぐに殺された。本当だったら月島も殺されるところだった。
部屋のクローゼットの隙間に月島は小さな体を押し込めてじっと息を潜めていた。
“蛍に何あったら兄ちゃんすぐに助けるからな!”
そう言っていた兄が来ないことに絶望していた。
(なんで、なんでなんでなんで。兄ちゃん来るって言ったじゃん、助けるって言ったじゃん。)
込み上げる恐怖を飲み込んで必死に耐えた。
「おい、この家はあの大人2人か」
「そうみたいっすね」
月島の部屋に2人の男が入ってくる。
見つからないように月島は口を抑えていた。
このまま黙ってこいつらが出てくれればもう誰も死ななくて済む。
兄が死ぬことは無い、そう思って黙って耐えていた。なのに、
「母さん!父さん!蛍!! 」
バンッという音と共に兄が家に入った。
ダメだ、逃げて、兄ちゃん。
そう思うのに声も体も動かない。
「黒尾 、 殺れ」
「はい」
そんな男の一言で兄は呆気なく亡くなった。
クローゼットの隙間からそれを全て見ていた。
黒尾。そう言われた男がなんの感情もないその瞳を兄に向けて銃を打ったのだ。
「他に誰もいないかチェックしとけ」
そう言って上官らしき人間は部屋出ていった。
けれどもう1人は出ない。
「チッ・・・」
舌打ちをしてもう1人は部屋を探し始めた。
そして、その手がクローゼットへと伸びていくのが月島には影でわかった。
「・・・っ!!」
目が、合った、
ベッタリと兄の返り血をつけたまだ12、13歳くらいの男がそこにはいた。
_まずい。
「あー・・・」
「おい黒尾!誰も居ないんだろうな!」
そう言ってさっき部屋を出た男が戻ってくる音が聞こえた。
(殺される_! )
「はい。誰も居ません。」
そう答えて黒尾と呼ばれた男はクローゼットのドアを閉めた。
ドクドクと心臓が動く。
(助かったのか、?僕が?何で?)
なんで、兄ではなく兄を殺した敵に命を助けられなければならない?
フツフツと怒りが湧き上がる。
いっそ殺してくれれば良かったものの、あいつは自分を殺さなかった。
情けでもかけたつもりなんだろう。
上等だ。その小さな情けをかけたことで自分が殺される将来を作ったんだ。
それから月島は憧れの兄になるべくではなく、復讐の為に特殊部隊に入った。
身寄りが居ない人間は特殊部隊に、という掟があって良かった。
これで心置き無く黒尾を見つけ出すことが出来る。
人に情けなんてかけるからこうなるんだ。
×××
「貴方は僕の仇です。死んでください。」
ここは殺すための道具なんて物は無い。
それを月島は分かっている故に手を黒尾の首にかけた。
ドクドクと心臓の動きが手に伝わってくる。
「仇、ねぇ。」
さしてはどうでもいい、といった様子で黒尾は月島を見た。
「お前、兄貴が殺されたから俺を殺したいの?」
「はい 。 」
「っは 。バカみてぇ」
馬鹿馬鹿しい。
そんな顔を黒尾はした。
首を絞められているくせに。
「自分の行いがですか?情けをかけた相手に殺される自分がバカだって?」
「ちげーよ。お前がだよ。」
「僕が?」
何故自分がそんなこと言われなきゃならない。
「お前の兄貴がどんな良い奴か知らねぇけどな。どんな良い奴だろうと軍に入っていれば人を殺してる。お前の兄貴はその殺された誰かの仇なんだよ。」
何故だろうか。
その言葉にふ、と体の力が抜けた。
「お前だって殺しただろ。俺の部下、今日だけで何人殺した。そいつらの家族は全員お前のこと恨んでるぞ。軍人ってのはな、人類全員を守ってるわけじゃねぇ。勝ったからになそれ相応の犠牲があんだよ。
綺麗事言ってればなんでも許されるってか?お前の兄貴は随分とお子様なんだな。」
「_っ!うるさい!お前が兄を殺したことには変わりはない!」
「あぁそうだな。だから自分は可哀想だってか?自分は家族を殺されて可哀想だから相手を許せねぇってか。そんな人間、いくらでもいんだよ!俺だって復讐出来んなら姉貴や親を殺した人間殺しに行ってんだよ!」
「_っ、 」
「けど、殺した人間にも家族がいるかもしれない。そんでそいつは家族を守るために俺の家族を殺したのかも知んねぇだろ。こんな内争が多い国で平和な家族なんてそうそう居ねぇよ。」
あぁ、そうだ。
兄も、軍の人間で、僕やこの人と同じように人を殺して。
その手で僕の頭を撫でた。
「復讐したいならすればいい。ただ俺は及川が上に立った時から軍人以外を殺したことは一度もねぇぞ。お前らと違ってな。」
反政府軍は総司令官が変わってから不必要な殺生をしなくなった。
勿論、女性にも手を出すこともなかった。
だが、帝国軍はそんなのお構い無し。
自分も反政府軍の人間ならお構い無しに殺した。
黒尾の首から手を離す。
「よっと。」
月島が上からどいて黒尾が起き上がる。
「復讐のために軍人やってたって感じだな。」
グリグリと月島の頭を黒尾が撫でる。
「月島蛍、立て。身体検査の続きだ。」
「_はい。」
死んだ人間は戻ってこない。
戻ってくるならば、死んだ人間の身内の復讐心のみ。
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