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その後の話
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鬼の始祖を倒した鬼殺隊。無一郎も茉鈴も手足がなくなったり片目を失ったり髪が短くなったりしたけれど、生き延びてくれた。戦いの最中、俺は見守りながら気が気じゃなかったよ。
左手左足を失った無一郎。
右腕と右目を失った茉鈴。
お互いに励まし合ってリハビリに取り組んで、2人は桜の花の咲く頃に蝶屋敷を退所した。
無一郎と茉鈴の希望で、鬼殺隊解散後は霞柱邸を産屋敷家に管理してもらうことにして、2人は故郷に帰った。
茉鈴の家に立ち寄ると、彼女のお父さんお母さんはもちろん、顔見知りのお客さんたちまでおいおい泣きながら2人を抱き締めていた。
身体が不自由になった2人。でも、お互いを強く想い合っている。2人なら、この先何があってもきっと大丈夫だろう。
恋人同士になったことを家族に伝え、無一郎と茉鈴は茉鈴の店の手伝いをして働きつつ、実家から近いところで二人暮らしを始めた。
料理上手だった茉鈴。残った左手でも色々と工夫して食事を作っていた。どうしても手が2本必要な時は、無一郎の右手を借りて共同作業をしていた。
季節は巡り、7月。
ある日、輝利哉様に文を送り、派遣された元隠の人たちに手伝ってもらいながら、無一郎と茉鈴は俺たちが暮らしていた家にやって来た。
両親と俺の墓の前に持ってきた花を手向けて、手を合わせ(片手だけど)、丁寧に線香を上げてくれた2人。
『…あ、見て、無一郎くん。向日葵がこんなに』
庭に咲いた向日葵を見て、茉鈴が目を輝かせた。
「茉鈴にもらった向日葵の種を植えて咲いたやつだよ。……まだ咲いてくれてたんだ。懐かしいな…」
無一郎が微笑んだ。
『そのお花を別の年の私の誕生日に花束にしてプレゼントしてくれたよね』
「うん」
『嬉しかったなあ…』
「よかった」
茉鈴がそっと胸元に下った首飾りを手に取った。
髪が短くなった上に、片腕を失ってしまったから。髪を思うように結えなくなった彼女は、職人さんに頼んで簪から蜻蛉玉の飾りを外してもらい、それに紐を通して首飾りにしていた。
「…それ、簪じゃなくなっても綺麗だね」
『うん。光に透かすとね、きらきらしてもっと綺麗なのよ』
「知ってる。茉鈴が髪に着けてくれてた時によく見てたから」
『そっか。でもね、簪の時は鏡を見ないと自分では見えなかったから。今はこうやって好きな時に好きなだけ、手に取って眺められるんだよ』
愛おしそうに向日葵の柄の入った蜻蛉玉を見つめる茉鈴。
『有一郎くんと無一郎くんが私の為に選んでプレゼントしてくれたのが嬉しくて。片時も離さなかったの。私の大事な宝物なんだよ』
「……だって。兄さん聞いてる?よかったね」
聞いてるよ。すぐ傍でな。
3人の墓の前に戻ってきた2人が、再びそこに跪く。
「父さん、母さん、兄さん。僕たちね、今とっても幸せだよ。だから心配しないで。…また来るね」
『無一郎くんのことはこの先も必ず私が守り、支えていきます。ですから安心なさってくださいね』
「…ふふ。茉鈴、言うことが格好よすぎ」
『え、そうかな?』
2人が顔を見合わせて笑った。
幸せそうでよかった。
無一郎、茉鈴。“痣”を出現させた2人が、たったの25年の命になってしまったのはとても残念だけれど、残された時間、どうか穏やかに幸せに暮らして欲しい。それが俺の心からの願いだよ。
俺はそっと2人を抱き締めた。まあ、すり抜けていってしまうんだけれど。
『…ね。今、有一郎くんがいた?』
「僕もなんとなくそんな気がした」
伝わったんだ。よかった。
2人はゆっくりと立ち上がり、離れた場所で待機していた隠の人たちと一緒に山を下りていった。
「炭治郎はさ、栗花落さんと結婚するの?」
「ぶっ!?…ごほっごほっ!」
決戦から1年程経った5月。久々に会う約束をして、炭治郎の家を訪れた無一郎と茉鈴。突然の質問に、聞かれた側は驚いてお茶を吹き出してしまった。
「えっと……」
「両想いなんでしょ?」
「…あ〜…。その…カナヲも好きって言ってくれたけど……」
顔を赤くする炭治郎に、無一郎は思わず口元が緩んでしまった。
「炭治郎、もう17だよね。結婚できる年齢だよ。炭治郎も痣が出てたし、25歳までしか生きられないんだよね」
「あ、まあ…、そうだな」
少しの沈黙が流れて、炭治郎が口を開いた。
「カナヲとはずっと一緒にいたい。結婚もするつもりでいる」
「そっか」
「時透くんは?宝生さんと結婚の話はしてないのか?」
「僕も茉鈴と結婚したい。でもまだ僕は16だからさ。17になったら結婚しようって、待ってて欲しいって言ったよ」
「そうか。宝生さんは何て?」
「“待ってるね”って笑ってくれた。早く17になりたい」
2人で空を見上げる。小鳥が楽しそうに飛び回っている。
「栗花落さんに白無垢着てもらうの?」
「そうだな。似合うだろうなあ。赤無垢とか黒無垢もいいなと思ってる」
「いいね」
「時透くんも宝生さんに白無垢着て欲しいとかあるのか?」
「うん。女の子の憧れって言ってた。でも、最近は茉鈴、西洋の“うえでぃんぐどれす”にも興味があるらしくってさ。ハイカラでしょ?」
言い慣れない単語を舌がもつれないように口にする無一郎が少々可笑しくて炭治郎が笑う。
「うえでぃんぐどれす、かあ。どこかの式場の衣装の展示で見たことあるぞ。宝生さんも綺麗なお嬢さんだからきっとすごく似合うんだろうな」
「僕もそう思う。短い時間しか生きられない分、茉鈴の希望をできるだけ叶えてあげたいなって。茉鈴が望むなら白無垢でも赤無垢でも黒無垢でも、うえでぃんぐどれすでも、何でも着せてあげたい」
「そっか。本当に時透くんは、宝生さんのことが大好きなんだな。2人が結ばれてほんとによかった」
「うん、大好きだよ。茉鈴が傍にいてくれて、すっごく幸せなんだ」
心からの笑顔に、炭治郎も嬉しくなった。
「お兄ちゃーん!無一郎くん!ただいま」
『見てこれ!こんなにたくさん山菜が採れたのよ!』
禰豆子と茉鈴が帰ってきた。伊之助と善逸も一緒だ。
「お兄ちゃん、茉鈴ちゃんがね、山菜で作る料理を教えてくれるって。無一郎くんも食べていってね。なんなら泊まってもらう?」
「え、いいのかな」
「もちろんいいぞ!2人共、ゆっくりしてな」
『ありがとう、炭治郎くん。…じゃあ禰豆子ちゃん、お台所に案内してくれる?』
「うん!」
「禰豆子ちゃん茉鈴ちゃん、俺も手伝うよ!」
「茉鈴!天ぷら!天ぷら食いてえ!」
『はいはい、天ぷらね。いっぱい揚げようね』
声を弾ませながら台所へ向かう女子2人と付き人たち。
茉鈴と禰豆子の作った山菜料理はとびきり美味しくて、特に天ぷらが大好きな猪之助は他人の倍の数の天ぷらを頬張っていた。
炭治郎の好物がタラの芽と聞き、ちょうど時期だったタラの芽を使って茉鈴が作った料理に、長男だが大興奮の炭治郎だった。
夜は全力で枕投げをした男衆。しかし、あまりにもはしゃぎ過ぎるので、
『こらーーっ!もう寝なさーいっ!』
と茉鈴から怒られてしまったのだった。
翌日。
『お邪魔しました。楽しかった。みんなまた会おうね』
「茉鈴ちゃん、お料理いっぱい教えてくれてありがとう!」
「今度は僕と茉鈴の家に遊びにおいでね」
「2人共、帰りも気を付けてな」
「茉鈴、また天ぷら作ってくれ!」
「俺と禰豆子ちゃんの結婚式にもちゃんと招待するから!」
順番に握手や抱擁をして、無一郎と茉鈴はゆっくりと自宅へ帰っていった。
翌年。茉鈴は19歳に、無一郎は17歳になった。
無一郎の誕生日の数日後。
「茉鈴」
『無一郎くん。どうしたの?』
寝床の準備をしていた茉鈴に無一郎が声を掛けた。
「これ、受け取って欲しくて」
『?』
無一郎が手渡した小さな箱を開けた茉鈴が、目を見開いた。
『…こ、これ…。指輪…?』
「うん。婚約指輪」
『えっ!?こ、婚約!?』
箱の中には、ダイヤモンドの指輪が鎮座していた。
「…やっと、やっと、僕も結婚できる歳になったんだ。茉鈴、長いこと待たせてごめん。僕と結婚してください」
残った右手で茉鈴の手を握り、手首から先のない左手も添える。
『無一郎くん…』
茉鈴の琥珀色の瞳から涙が零れ落ちた。
「…片手もないし片足もないし、あと数年しか生きられないけど、この命ある限り、絶対に君を守るって、幸せにするって誓うよ。だから…茉鈴。僕のお嫁さんになってくれる?」
『うんっ…、うんっ……!嬉しい…!』
涙を流しながら茉鈴が花が咲いたように笑った。
「指輪、着けてくれる?」
『うん!』
涙を拭い、婚約指輪を箱の中からそっと取り出した茉鈴。左手だけで器用に指先を使い、薬指に指輪をはめた。
『…綺麗……』
「気に入ってくれた?」
『うん、すごく。でも“婚約指輪”ってものがあるって知らなかった。結婚指輪は聞いたことあるけど』
「西洋では婚約指輪と結婚指輪の両方を贈るのが主流なんだって。日本ではまだ結婚指輪しか知らない人が多いけどね」
『そうなんだ。私たち時代の最先端を行ってるね』
茉鈴が笑った。そして、左手の薬指を嬉しそうに見つめる。
「結婚指輪はまた別で一緒に買いに行こうね」
『えっ!?…でもこんなダイヤモンドの指輪なんて高いでしょ?これをもらっただけで充分よ』
「だめ。結婚指輪も着けて。お金のことはなんにも心配要らないよ。僕、柱だったから。有り余る程稼いでたんだよ」
『う…。そうかもしれないけど……』
申し訳無さそうな茉鈴を、無一郎がそっと抱き締めた。
「茉鈴は僕の特別な人。大事な人。指輪だけじゃ足りないくらい、僕は君のことが本当に大好きなんだよ。いつもありがとう。茉鈴、愛してる」
『無一郎くん…!』
茉鈴も無一郎の身体に腕を回した。
『私も…、無一郎くんのことが大好き。ずっと、ずっと大好き。愛してる』
身体を離し、唇を重ねる。
何度も、何度も。深く。息が続かなくなるまで。
そして、2人はその夜初めて身体を重ねた。
温かくて、熱くて、幸せで。
お互いを強く抱き締め合ったまま、朝が来るまで深く眠った。
茉鈴が25歳になった。寿命の歳の誕生日を迎えたのに、彼女はまだ生きている。
妻の死を覚悟していた無一郎は、混乱こそしたものの、嬉しかったみたいでしばらく茉鈴を抱き締めて泣いていた。
蝶屋敷の女の子たちや他の医者に診せても、茉鈴は至って健康で、奇跡だとしか言われなかった。
茉鈴が迷子にならないようにと彼女を待っていた俺は、再会するのはもう少し先だと悟り、また無一郎と茉鈴を見守ることにした。
2人は結婚はしたけれど、子どもはつくらなかった。2人共早くに命を終えてしまうから、遺された子どもがかわいそうだという考えに至り、夫婦2人の生活を楽しんでいた。
「茉鈴」
『なあに?』
「茉鈴も痣が出てたのに、なんで25歳になっても生きていられてるんだろう?不死川さんも冨岡さんもぴったり25歳で亡くなったのに」
『なんでだろうね。…執念かな?』
「し、執念…!?」
真面目な顔で冗談のような言葉を放つ茉鈴。予想外な言葉に、無一郎が素っ頓狂な声を上げた。
『無一郎くんを独りにさせないって、前に有一郎くんと約束したから。言霊が働いたかな?』
「茉鈴……」
にっこり笑う茉鈴を無一郎がぎゅっと抱き締めた。
「ありがとう……」
『うん。…ほら、ごはんが冷めちゃう。ふろふき大根もいっぱい作ったんだから。早く食べよう』
「うん!」
この日も無一郎は、茉鈴の作った料理を幸せそうに頬張っていた。
その翌々年。
25歳の誕生日を迎えた無一郎が突然倒れた。
ついに“その時”が来たようだ。
茉鈴からの報せを受けた彼女の両親や鬼殺隊の仲間たちが2人の家に集う。
みんなが集まった時には、茉鈴もかなり弱っていて。
2人は並んだ布団に横になった状態で、茉鈴の左手と無一郎の右手を固く握り、静かに、穏やかに、2人ほぼ同時に息を引き取った。
茉鈴の左手の薬指と、無一郎の右手の薬指には、光り輝く指輪がはめられていた。
無一郎が寿命を迎えるまで、最期の最期まで、茉鈴は無一郎の傍にいてくれた。幼馴染みとして、恋人として、妻として。痣の寿命を超えてもなお。ほんとに…、茉鈴。すごい子だよ、君は。
さて、俺もそろそろ2人を迎えに行くか。
無一郎。茉鈴。お疲れ様。
「兄さん!」
『有一郎くん!』
「茉鈴!無一郎!」
大人になった2人と、子どもの姿のままの俺。3人でぎゅっと抱き合った。
“こちら”に来た2人には、失った手足があった。茉鈴の髪も、あの頃のように背中くらいまで伸びていて、それをあの蜻蛉玉の簪で留めていた。そして、綺麗な琥珀色の瞳も元通りになっていた。
ああ、懐かしい。やっと大好きな2人に会えたんだな。
「2人共…、ほんとにお疲れ様。……幸せだったか?」
「うん!」
『とっても』
俺の問いに、無一郎と茉鈴はとびきりの笑顔で答えてくれた。
終わり
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