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第一章 まだ目覚めぬ月
第二話 青い光 前編
七歳になったジントは、“普通”に憧れていた。
街の子どもたちみたいに笑って。
誰かと遊んで。
父や母のいる家へ帰る。
そんな当たり前のことに。
けれど、それは自分には遠いものだと思っていた。
家にある本は、読めるものは全て読んだ。
それにジントはまだ子供だった。
次第に外の世界へ飛び出したくなる。
でもやはり街の人は、自分を見て恐れたり、目に見えない嫌な感覚に胸がざわついた。
だからジントは街より森を好んだ。
森は何も言わない。
木々も、小川も、風も。
黒い瞳を見て怯えたりしない。
ジントはよく一人で森を歩いた。
薬草の生える場所。
獣道の位置。
危険な崖や川の流れ。
マーサから教わったことを、いつの間にか覚えていた。
その日も、祖母に頼まれた薬草を採りに森へ来ていた。
朝露の残る草原。
木漏れ日を揺らす初夏の風。
背負った薬籠からは摘みたてのハーブの香りが漂っている。
下熱草を探しながら森の奥へ進んでいた、その時だった。
「うわぁぁぁぁっ!?」
突然、頭上から悲鳴が降ってきた。
ジントは反射的に顔を上げる。
「え」
どさぁっ!!
盛大な音と共に、一人の少年が木の上から落ちてきた。
枝を折り、葉を巻き込みながら地面へ突っ込む。
あまりにも見事な落下だった。
ジントは呆然と立ち尽くす。
少年はしばらく呻いていたが、やがてむくりと起き上がった。
群青色の髪には葉っぱが何枚も絡まっている。
服も泥だらけだった。
どう見ても格好良い登場ではない。
なのに。
少年が顔を上げた瞬間、ジントは思わず目を瞬いた。
日差しを受けて煌めく、サファイアのような青い瞳。
その瞳は真っ直ぐで、驚くほど生き生きとしていた。
「っはは!失敗したわ!」
少年は豪快に笑った。
落ちたことなど気にもしていないように。
少なくともジントなら、こんな風には笑えない。
なのにこの少年は笑っていた。
まるで森そのものを楽しんでいるみたいに。
その姿は、ジントの知らない生き物のようだった。
そして少年はジントを見るなり、ぱっと顔を輝かせた。
「おっ、誰かおる!」
「……え」
「人おった!!」
本当に嬉しそうだった。
心から。
その反応に、ジントの方が戸惑う。
普通ならまず驚く。
それから黒い瞳を見て顔を曇らせる。
なのにこの少年は、まるでそんなことを気にしていなかった。
「何してるん?」
「……薬草採取」
「へぇー!」
少年は服についた葉っぱを祓いながら、興味津々で薬籠を覗き込む。
距離が近い。
ジントは思わず一歩下がった。
そんな反応にも気付かず、少年はにかっと笑う。
「オレ、ダイチ!」
そう言って少年は笑った。
屈託のない笑顔だった。
木漏れ日が偶然そう見せただけかもしれない。
けれどジントには、その笑顔だけが不思議なくらい明るく見えた。
まるで太陽みたいだと。
そんなことを思ったのは初めてだった。
「……ジント」
「ジント!」
少年は嬉しそうに名前を呼んだ。
黒目でもない。
呪いの子でもない。
ジント。
ただ名前を呼ばれただけだった。
それなのに胸の奥が少しだけ熱くなる。
初夏の風が二人の間を吹き抜ける。
木々が揺れ、木漏れ日が踊る。
後になって思えば
この日の出会いが、全ての始まりだった。
孤独だった少年の世界へ、一筋の光が差し込んだ瞬間だったのだ。
コメント
1件
comiさん、第4話読みました〜! ダイチくんの登場シーン、めっちゃ鮮やかでした🙈✨ 「黒い瞳」に怯える人ばかりの中で、まっすぐ笑って名前を呼んでくれる存在が現れた瞬間、「胸の奥が熱くなる」って表現がすごく響きました…。 ジントにとって初めての“当たり前の温かさ”が、読んでるこっちにも伝わってきて、じんわりしました🥀💙 続きが気になる……!
#コメディ時々暗闇
奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
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