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第一章
第三話 青い光 後編
「お前さ、この辺詳しいん?」
「……まぁ」
「ほな秘密基地作れる場所知ってる!?」
「秘密基地……?」
「勉強サボって来てん!」
さらっと言う。
ジントは思わず目を瞬いた。
「怒られないの?」
「めっちゃ怒られる!」
ダイチは元気よく笑う。
「でも今日めっちゃ天気ええし!」
意味が分からない。
なのに
少しだけ面白かった。
その日、二人は昼過ぎまで一緒に過ごした。
一緒に薬草を採って。
森を歩いて。
綺麗な石や木の実を探して。
川へ石を投げて。
ダイチはずっと喋っていた。
街の話。
馬の話。
貴族の家の話。
退屈な勉強の話。
「自由になりたいんよなぁ……」
草の上へ寝転がりながら、ダイチは空を見上げる。
青い瞳に、同じ色が映る。
「自由?」
「好きなとこ行って」
流れる雲を指差す。
「好きな人と笑って」
風が吹き抜ける。
「好きなことしたいんや」
ジントは黙って聞いていた。
「誰かに決められるん、なんか苦手やねん」
その言葉が少し羨ましかった。
自分は、そんなことを考えたこともなかったから。
◇
帰る頃には、ダイチの腕は擦り傷だらけになっていた。
「また怪我してる」
「えへへ」
「笑うとこじゃない」
ジントは慣れた手つきで薬草を擦り潰す。
ダイチは大人しく座りながら、その様子を見つめていた。
「仁人って優しいな」
「……別に」
「あと綺麗やし」
「え?」
ジントの手が止まる。
そんなことを言われたことはなかった。
ダイチは不思議そうに首を傾げた。
「目や」
「目……?」
「黒いのに、なんかキラキラしとる」
ジントは言葉を失った。
黒い瞳は不吉だと言われ続けてきた。
怖いと言われた。
気味が悪いと言われた。
けれど
綺麗だと言われたのは初めてだった。
ダイチは何気なく笑う。
「オレ、好きやで」
悪気も打算もない。
ただ思ったことを口にしただけなのだろう。
それなのに
胸の奥が少し熱くなった。
◇
それから二人は何度も森で会うようになった。
薬草採取の帰り。
川辺。
夕暮れの草原。
そしていつしか、ダイチは薬屋へ遊びに来るようになる。
マーサは最初こそ驚いていた。
「ソルトの坊ちゃんが、こんなところへ来て大丈夫なのかい!?」
「大丈夫やって!」
ダイチは笑う。
どうやら街の西側に屋敷を構えるソルト家は、代々この薬屋の世話になっていたらしい。
ダイチの母も。
祖父母も。
皆、マーサの薬を頼りにしてきた。
「おばあちゃんの薬、世界一効くらしいで!」
「大げさだよ」
マーサは呆れたように笑う。
けれど、その顔はどこか嬉しそうだった。
ジントが年相応に笑うようになったから。
穏やかな日々だった。
森へ行って。
薬を作って。
夕焼けを眺めて。
他愛のない話をして笑う。
そんな日々が、ずっと続くのだと思っていた。
この時の二人はまだ知らない。
運命が静かに動き始めていることを。
そして、満月の夜が近付いていることを。
コメント
1件
うわあああ😭💕✨ 今回も胸がいっぱいになったよ…! ダイチくん、ジントくんに「好きやで」って何気なく言うの、悪気ゼロなのが逆にズルい…!ジントくん、黒い瞳を不吉がられてきたのに「綺麗」って言われて言葉失うシーン、こっちも一緒に泣きそうになったよ😢 ふたりで森や川辺を駆け回る穏やかな日々が眩しすぎて、最後の「満月の夜が近付いている」の一文が不穏すぎて心臓掴まれた…!次が待ちきれないよ🌸