テラーノベル
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金髪の重みは時間が経つ程、感覚が薄れていく。
体温
息
それだけが肩を通してどんどん伝わってくる。
今ならまだ、逃げられる。
立ち上がればいい。
声をかければいい。
それだけのことなのに、
どれも選ばなかった。
理由はわからない。
分からないから、動けない。
ベンチの木目を指でなぞる。
会社の時のささくれがまだ治らなくて。
引っかかって、少し痛い。
その痛みが、今ここに居る証拠みたいで、
なんか嬉しくなって、妙に落ち着いてきた。
風がまた吹く。
金木犀の香り。
「……季節外れだな」
無意識にふっと笑った。
金木犀の匂いが、ほんの少しだけ
濃くなる。
さっきより、少し近い。
「季節外れ」なのに、
不自然さは感じない。
このガキも、俺も、
だいぶ前から、正しい季節を外れて生きている気がする。
肩に預けられた重みが、少しだけ移動する。
首筋に触れそうで、触れない。
俺は、反射的に息を殺した。
「…………」
名前を呼びそうになって、口が開く。
でも、閉じる。
遠くで車の音。
犬の鳴き声。
街はちゃんと回っている。
俺らを置いて。
ベンチの影が長く伸びる。
日が傾いた証拠か。
このまま夜になったら起こすべきか。
帰る場所があるかは知らんけど。
「____帰る、か。」
その言葉が自分に刺さる。
余計なことを考えると混乱するから、 辞めた。
金髪の指がつん と触れた。
俺の指を追いかけるように。
触れただけ…触れただけなのに。
胸の奥が一段、深く鳴った。
「起きろ……、いや、いいか」
小さく、誰にも届かないくらいの声で呟いた。
起きて欲しくない……訳じゃない。
ただ、
この静けさを壊したくなかっただけ。
時間は残酷なくらい正確だ。
空がゆっくりと暗くなる。
街灯がひとつ……ふたつ、みっつ____
ぱちんっと音を立てて点く。
金髪が小さく息を吸った。
「……ん」
喉が鳴る音。
まぶたがゆっくり開いた。
怖かった
このまま、離れるんじゃあないかって。
「おっさん」
「ん」
「俺いつから寝てた」
「1時間前くらい」
「いっぱい寝れた。
俺さ、あんまり眠れなくて」
「不眠症?」
「いろいろなこと、考えちゃうからさ
おっさんのことも、」
なんで俺の事考えてんだよアホ。
自分の心配しろよ……
「おっさん」
「なに」
「逃げてない?」
「何に」
「何って……んー、」
金髪がまっすぐ俺の目を見つめてくる。
何か言いたげに。
「逃げないってことはさ……
まだここに居ていいの?」
俺は小さく頷いた。
「……」
「じゃあ、もうちょい居ようかな」
「好きにしろ」
また、肩に重さが伝わる。
「今だけな」
ベンチの下で影がひとつになる。
それを見て、
なぜか少しだけ、安心した。
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