テラーノベル
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一曲目のダンスが終わり、リソ(寿司子)がセンターで満面のアイドルスマイルを振りまく。
リソ(寿司子・口パク)
「今日も最高だよぉ! みんなの笑顔、本当に宝石みたいにキラキラしてる〜♡」
その背後でリコが素早くジャケットを羽織り、サングラスを装着。マネージャー役に早変わりする。
マネージャー(リコ)
「お疲れさま! 今日も完璧やったで! 特に最後のMC、ファンが喜んどったわ!」
次の瞬間。
リソの顔から、照明を消すようにスッと笑顔が消えた。
彼女はスタッフが用意したパイプ椅子を蹴るようにして、ドカッと座る。
リソ(ここから寿司子の地声)
「……で、実際問題。今日の『中抜き』いくら?」
「言い方! アイドルが『中抜き』言うな! 利益配分の確認やろ!」
「そうそう、それ。笑顔じゃ腹は膨れないのよ。……あとさ、最前列の『まーくん』。次から出禁で」
「はぁ!? あの人、100万単位でグッズ買う太客やで!?」
「こないだSNS見たらさ『住宅ローン』『金利』『固定か変動か』の話ばっかり。銀行の窓口思い出して、こっちのバイブス下がるのよ」
「生々しすぎるわ! アイドルの口からバイブスと住宅ローンを並べるな!」
「あー、喉乾いた。悪いけど、自販機で一番安くて、一番カフェイン量がエグいエナドリ買ってきて。毒でも入れないと、この仕事やってられないわ」
「アイドルがそんな不健康なもん飲むな! ……でな、次の握手会の要望やけど、ファンから『耳元で囁いてほしい』っていうリクエストが多くて……」
「囁く? いいよ。全員の耳元で『預金残高、いくら?』って言ってあげる。現実を思い出させてやるのが、本当の優しさでしょ?」
「優しさの方向が最悪や!」
「ふん。アイドルなんて、信者から金を集めて虚像を売る、認可制の宗教でしょ」
「言うたらアカ──ン! それ言うたら、この業界ぜんぶ終わるわ! お前、ほんまにファンのこと、どう思っとるんや……!」
リソはふっと、一瞬だけ『完璧なアイドルスマイル』を取り戻す。
「……歩く、積立NISA♡」
「ファンを長期運用扱いすな!」
――その瞬間。
二曲目のイントロが爆音で鳴り響く。
リソの瞳に、再び濁りのない光が宿った。ぐびぐびとエナドリを一気飲みする。
リソ(本物ライブ音声・口パク)
「みんなぁ〜! 会いたかったよぉ♡ みんなの愛で、リソは頑張れるの〜♡」
マネージャー役のリコは、隣で呆然と立ち尽くす。
「……ば、化け物や……。あいつは、アイドルという名の資本主義の化け物や……」
キレのあるダンスが再開される。
(これで……やりきった。あとは踊り切るだけ……!)
曲がクライマックスに差し掛かり、決めポーズに向かおうとしたその時だった。
観覧席から、それまでとは質の違う、悲鳴に近い最大級の歓声が上がった。
スタジオの空気が、びりびりと震える。
(え……? 違う。みんな、私たちを見てない……?)
観客の視線は、寿司子たちを通り越し、背後の「セット」の方へ注がれている。
何かが起きている。強烈な違和感。だが、ダンスは止められない。
――ぽん。
不意に、寿司子の右肩に誰かの手が置かれた。
電流が走ったように、心臓が跳ねる。
弾かれるように振り返った、その視界に。
自分と全く同じ顔、同じ衣装を纏った「本物」が、優しく微笑んでいた。
――続く
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