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#怪異
阿炎快空
123
リユ
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#ダークファンタジー
阿炎快空
82
阿炎快空
111
「くそっ——」
迷っている暇はなかった。
僕は引き金を引き、突進してくるナギに銃弾を放った。
銃声が響き、赤い光の線がナギに向かって走る。
しかし——弾丸はナギには当たらなかった。
外したのではない。
避けられたのでもない。
防がれた。
驚くべきことに、ナギは金棒を振って弾丸を弾いたのだ。
単なる偶然か、それともナギの肉体ならばそれくらいの芸当は充分に可能なのか——どちらなのかを気にしている余裕はなかった。
射撃の反動で僕の両腕が跳ね上がっている間にも、ナギは高速で距離を詰め、僕の眼前へと迫っている。
反射的に後退しようとした僕は、バランスを崩しその場に尻餅をついた。
「うわっ!?」
僕の頭をかち割らんと、ナギが金棒を振りあげる。
やられる!
僕は思わず、目をきつく瞑った。
しかし——最後の瞬間は、なかなかやってこなかった。
見あげれば——ナギは金棒を振りあげたまま、動きを止めていた。
「ぐ……ぎぎ……!」
歯を食いしばって、唸り声をあげるナギ。
それとはまた別に——僕の頭に、直接呼びかけてくる声があった。
『モリヤ……オサム……』
「ナギ!?まだ、そこに——体の中にいるの!?」
『ああ……だが、体は動かせない……こいつの邪魔をするので、精一杯だ……』
声は、苦しそうに続けた。
『今の内に……私を、撃て……』
「ナギ……」
『早くしろ……長くは、もたない……』
その言葉を裏付けるかのように、発せられる唸り声は徐々に大きくなり、体が小刻みに痙攣を始める。
『私の肉体は、既に死んでいる……気にするな……』
「——わかった」
僕は立ち上がり、拳銃をすぐ目の前に立っているナギに向けて構えた。
「ごめん」
短く謝りながら、ナギの頭部へと狙いを定め——僕は、引き金を引いた。
夢を見ていた。
夢の中で、僕は半竜族の少女だった。
とある山の頂にある集落で、僕は家族——父や母、それに可愛らしい弟と、仲睦まじく暮らしていた。
いや——違う。
これは夢じゃない。
今回はすぐに気が付いた。
この感覚には覚えがある。
死の際に振り返るという、人生の記憶。
これは、僕ではない——誰か、別の人物の走馬灯だ。
僕は——少女は、いつだって弟と一緒だった。
共に野山をかけ、喧嘩をし、笑い合った。
次々と移り変わる場面を、僕はテレビドラマのダイジェストでも見るように眺めていた。
『——モリヤオサム』
頭の中に、声が響く。
『ナギかい?』
頭の中で、尋ね返す。
『これは、君の記憶だね?』
『ああ、その通りだ』
『それじゃあ、この男の子が?』
『弟のニア——お前の親友、ナカムラソウゴの幼き日の姿だ』
目の前では、花冠を頭に乗せたナギの弟——ニアが、嬉しそうに笑っている。
『言われてみれば、蒼梧に似ていないこともないけど——性格がだいぶ違う気がする』
『そうだな。この頃のニアは、私にべったりで、とても泣き虫だった』
『へえ——ああ、でもそう言えば。蒼梧も、小さい頃は泣き虫だった、って自分で言ってたな』
『そうなのか?』
『うん。夜になると、幽霊や化物に驚かされてよく泣いてたらしいよ』
『そうか——苦労して、強くなったんだな』
場面が移り変わる。
そこは、夜の泉だった。
虹色の蛍が、周囲を飛び交っている。
幻想的で美しい光景だったが、それはナギにとって、最後の〝幸せな記憶〟でもあった。
突然現れた魔女によって、平穏な日々は音を立てて崩れ落ちることとなる。
魔女の変身した漆黒の巨人によって、ナギの父が斃され。
残酷な二択の末に、ニアは魔女に連れ去られ。
ナギの母は、深い悲しみの中で命を絶った。
『ひどい……』
話には聞いていたが、実際に見せられると、壮絶としか言いようのない過去だった。
そうして、ナギは旅に出る。
〝右〟と〝左〟——二人の師に剣を習い。
城壁に囲まれた街の神殿で、壊れたラジオのお告げを聞いた。
復讐と、蒼梧の命——どちらを取るかの二択。
ナギの過去を追体験した今、僕には彼女を責めることは到底できなかった。
場面が移り変わる。
僕の世界へと繋がる、鳥居の前だ。
まさかオーマを埋葬している時に、ナギがすぐ近くに居たとは。
やはりと言うべきか——オーマの驚異的な速度の復活劇の原因は、心のこもった弔いなどではなかったらしい。
やがて、彼女はラジオのお告げ通りに、僕と蒼梧をゴキブリ達から救う。
蒼梧の正体が、弟だとは夢にも思わずに。
そして——僕らは、魔女の棲家へ足を踏み入れる。
罠だとわかっている扉の中に、ナギはあえて僕らを誘い込んだ。
『私はお前達を裏切った。許してくれとは言わない。ただ——すまなかった』
『いいよ。気持ちはわかるし。それに——君は土壇場で、蒼梧を助けようとしてくれただろ?』
『それは、ナカムラソウゴの正体がニアだとわかったからだ。そうでなければ、私はお前の親友を見捨てて、黒猫に斬りかかっていただろう』
明かされる、残酷な真実。
ナギはお告げに逆らい——そして、死んだ。
短剣が背後から心臓を貫き、目の前が真っ暗になる。
暗闇の中、声は続けた。
『結局は、イソダの言った通りだった。あのラジオの声の主は、私を弄んで楽しんだだけ。私はぶら下げられた餌に安易に飛びつき——結果が、これだ』
『ナギ……』
『他に道があったのかはわからないが——それでもやはり、私は模索するべきだった。お告げの内容など覆してみせるという強い意志——それが私に備わっていれば、あるいは、異なる未来もあったのかもな』
視界が晴れていく。
僕の視点は、いつの間にかナギから離れ、僕自身へと戻っていた。
真っ暗な空間に、一本の白い道が伸びている。
僕らが居るのは、その道の上だった。
ナギの背後——道の先に、光が見えた。
トンネルの出口から差し込むような、暖かな光。
あの先がきっと、これからナギが向かう場所なのだろう。
「私はそろそろ行かねばならない。大丈夫——お前達の絆があれば、きっと魔女にも勝てる」
「うん、頑張るよ」
「弟を、よろしく頼む」
ナギはそう言って、僕に背を向けた。
そのまま、光に向かって歩き出すナギだったが——不意に立ち止まり、振り返らずに僕に尋ねた。
「モリヤオサム——もしも生まれ変わりというものが存在して、いつか再び巡り合うことができたなら——その時は私を、本当の仲間にしてくれるか?」
僕は微笑み、ナギに答えた。
「修でいいよ。友達は、大体そう呼ぶんだ」
「トモダチ、か——」
小さく呟き、ナギが振り返る。
「——ありがとう、オサム」
その顔は、僕の初めて見る、穏やかな笑みに満ちていた。
——銃声と共に、ナギの脳漿が辺りに飛び散った。
ドサリと音を立てて、ナギの体が倒れる。
僕の意識は、立方体の上面部分へと引き戻されていた。
全ては、一瞬の出来事だった。
引き金を引いた刹那に脳内を駆け巡った、ナギの人生の断片。
それが単なる幻覚や白昼夢でないことは、僕自身が一番よくわかっていた。
横たわる骸からは、既に体泥棒とナギ——どちらの魂の気配も感じ取ることができなかった。
——さよなら、ナギ。
涙を乱暴に拭い、死闘を繰り広げる三匹の方へと向き直る。
ここからが正念場だ。
コメント
1件
うわっ……第77話、めっちゃ重くて切なかった……。 ナギの過去が走馬灯のように流れる構成、めちゃくちゃ効いてる。最後の“友達”のくだりで涙腺やられたわ。修が引き金を引く一瞬のうちに、彼女の人生全部が詰まってたんだなって思うと、もう言葉にならない。 ここから正念場ってところで続くの、続きが気になって仕方ない🔥