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(ここには、美味しそうなコーナーはない。ただのストレートだけど、ギアをトップに入れてアクセルを踏むタイミングじゃない。そういうときに限って道路に何かが落ちていたり、空から人が降ってくるかもしれないから)
なぁんて、ありもしない状況を脳内で映像化し、強引に安全運転を心がけた。
それゆえに、柔らかそうな黒髪を枕の上に散らしながら、思いっきりいやらしいコトを続けている橋本の動きを、何としてでも止めなければならない。安全運転に、支障をきたしてしまう恐れがある。
「陽さん、少し落ち着きましょう。ね?」
自分に言い聞かせるように告げて、淫らな動きをしている橋本の両手首をガッチリ掴んだ。
「ましゃきが、気持ちよくしてくれるのか?」
「したいけど、今はしません。陽さんの酔いが覚めてからしてあげます」
一緒に暴走したい気持ちに蓋をして、掴んでいる手に力を込めた。
「なんれそんな、意地悪なことを言うんら。これが江藤ちんだったら、絶対に手を出すくせに……」
唐突に出された元彼の名前に、宮本は目を見開きながらきょとんとした。
「おまえが絶句するということは、図星なんらな?」
鋭い眼光で睨んでくる、橋本が怖いことこの上ない。ヤクザの組長の血を引いてると聞いたあとだからか、恐怖心が二割増になってる、かも?
「図星じゃないですよ。酔っ払った陽さんを、相手にしたくないだけです」
掴んでいた橋本の手首をやんわり放して、ちょっとだけ後退りした。橋本お得意のハイキックが飛んでくる可能性を考えたからじゃなく、何もしない宮本の態度に苛立つ感情を表すような、ぐさぐさ突き刺さる視線を受けて、どうにもいたたまれなくなったのが理由だった。
「……飲まなきゃ、やってられなかったんら」
宮本を睨んでいた視線が一変、切なげにゆらゆら揺れる眼差しがどこか遠くを見る。
「陽さん?」
自分を突き通して見えない何かを見つめる橋本の面持ちは、得も言われぬ儚さが漂っていて、抱きしめたい衝動に駆られた。
「自分の不甲斐なさとか、ましゃきを守ってやれなかったこととか、江藤ちんと何回ヤったのかなんてさ!」
「はあ?」
語尾にいくに従い、目力を強めながらきっぱりと言いきった橋本の言葉を聞いて、腑に落ちないというふうに首をかしげた。
「陽さんすみません。逃げきったあとに車まで辿り着いて、現場から連れ去ると俺は豪語したのに、それができなかった無念があるので、冒頭と真ん中の意味については理解したのですが、最後のモノだけ、どうしても意味がわかりません」
疑問に感じたことを、自分なりにわかりやすいようにまとめて告げた途端に、橋本は勢いよく起き上がり、ベッドの上にあぐらをかいた。
「なんでわかんないんら、ましゃき」
地の底から響くような低くて挑みかかる声に、宮本はひゅっと躰が竦んでしまった。まるで、地獄の番人に声をかけられた気分。
「なんでわからないんだと聞かれても……」
「ノンケだったおまえを、江藤ちんはたぶらかし、こっちの道に引きずり込んだんだよな?」
「へっ!? 俺って、たぶらかされたの?」
「ましゃきのフェrがうまいのも、江藤ちんのピーを何度もしゃぶったからなんだろ!」
「陽さん?」
橋本の言葉に反論したいのに、今は何を言っても無駄な気がした。泥酔状態の思考に、まともな判断力があるとは思えない。もしかして、わけのわからない今だから――。
(酔っぱらっている今だからこそ、普段は言えないことを、こうして俺にぶつけているのかもしれない)
内なる腹立たしさを表すような荒っぽい口調なのに、表情はどことなく悲しげな感じに、宮本の目に映った。