テラーノベル
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鉄の用心棒たちに囲まれた広場には、焼けた石の臭いと、火薬の煙が漂っていた。
塔の上には、先ほどまでK-Tを狙っていた骸骨が倒れている。レイナの矢が頭部を正確に貫き、その長い銃身が塔の縁から落ちていく。
さらに一体。
レイナが放った矢は、用心棒の赤い目を正面から撃ち抜いていた。鋼鉄の巨体が大きく揺れ、膝から崩れ落ちる。
残された用心棒たちは、鎖のムチを引きずりながら、ゆっくりと包囲を狭めていた。
「次は、どれを倒せばいい?」
弓を構えたまま、レイナが淡々と尋ねた。
その声には、焦りも恐怖もなかった。
対して、六人の息は荒い。
K-Tは右手に、長く伸ばしたガラケーのアンテナを握っていた。アンテナの先端には金属の棒が形成され、警棒のような形に変わっている。何度も攻撃を受けたせいで、肩には浅い傷が走り、衣服の一部は赤く染まっていた。
メバルは麻酔銃を両手で構え、用心棒の動きを追っている。
「レイナ、右にいるやつ! 赤い目の下、少しだけ装甲が薄い!」
マサカゲが叫んだ。
「分かった」
レイナが矢をつがえる。
その瞬間、背後にいた骸骨が拳銃を持ち上げた。
「メバル、伏せろ!」
K-Tが踏み込む。
銃声が広場に響き、弾丸が石壁を削った。K-Tはメバルの前に立ち、警棒で弾道をそらす。弾丸は金属に弾かれ、火花を散らして地面へ落ちた。
「Kさん!」
「構うな。前を見ろ」
K-Tは短く言った。
メバルは一瞬だけ唇を噛み、それから麻酔銃を骸骨へ向けた。
「眠って!」
放たれた弾が骸骨の胸部に命中する。骸骨は数歩よろめき、拳銃を落とした。
「よしっ!」
メバルが声を上げた。
しかし、喜ぶ時間はなかった。
正面の用心棒が鎖を振り回す。黒い鎖は地面すれすれを走り、六人の足元をなぎ払った。
「散れ!」
マサカゲの指示に合わせ、全員が左右へ飛んだ。
ミステーだけが、その場に残った。
「私は、散らない」
「ミステー!」
鎖がミステーへ向かって伸びる。
ミステーは頭の黄色と黒のピラミッドを両手で押さえ、真顔のまま一歩前へ出た。
「ピラミッドは、四角形ではない。だから、鎖も迷う」
「何言ってるの!」
メバルが叫ぶ。
鎖はピラミッドの斜面にぶつかり、奇妙な角度で滑った。ミステーの体を拘束するはずだった鎖は、被り物の側面を擦って地面に落ちる。
「本当に迷った」
ミステーは、いつもの調子で呟いた。
「今だ!」
カキが剣を振り上げ、用心棒の関節部へ斬りかかった。
だが、斬撃は装甲に弾かれた。
「硬っ……!」
反動で腕が痺れる。
次の瞬間、用心棒の拳がカキの腹部へ突き刺さった。
「ぐっ……!」
カキの体が宙に浮き、そのまま石畳へ叩きつけられる。剣が手から離れ、オレンジ色のヘルメットが転がった。
「カキ!」
メバルが駆け寄ろうとする。
「来るな!」
K-Tが叫んだ。
その言葉と同時に、別の骸骨がクロスボウを放った。
矢がメバルのすぐ横を通り過ぎ、背後の壁に突き刺さる。
「……っ」
メバルの手が震えた。
麻酔銃を握っている間は、恐怖を押し込めていられる。それでも、仲間が次々と倒れていく光景は、彼女の胸を激しく締めつけていた。
「メバル、カキを連れて下がれ!」
K-Tが用心棒の前に出る。
「でも、Kさんは――」
「早くしろ」
「……分かった!」
メバルはカキの腕をつかみ、必死に引きずった。
カキは苦しそうに顔を歪めながらも、立ち上がろうとする。
「メバル……俺、まだ戦えるって……」
「無理しないで! 足、震えてる!」
「震えてねぇよ。これは、その……地面が揺れてるだけだ!」
「地面は揺れてない!」
カキが無理に笑う。
だが、次の瞬間にはその笑顔が消えた。
用心棒の鎖が二人の間を横切り、石壁に巻きついた。鎖が一気に縮み、メバルとカキの体が引き寄せられる。
「きゃっ!」
メバルは麻酔銃を落としかけた。
カキは咄嗟に彼女の肩を押し、鎖の進行方向から外そうとする。
「メバル、銃を離すな!」
「分かってる!」
メバルは銃を強く握り直す。
表情が変わった。
怯えていた瞳が鋭くなり、呼吸が一定になる。彼女は鎖の根元を見つめ、麻酔銃を構えた。
「そこだね」
引き金を引く。
弾丸は鎖を操る装置の隙間へ入り込み、用心棒の動きが一瞬だけ止まった。
「今!」
カキが剣を拾い、鎖を斬りつける。
鋼鉄の鎖は一度で切れなかった。しかし、二度、三度と刃を叩きつけると、ようやく大きな音を立てて地面へ落ちた。
「やった!」
カキが叫ぶ。
その直後、別の用心棒が背後から迫っていた。
カキは振り向いたが、遅い。
赤い目が目前に迫る。
メバルが麻酔銃を向けるより早く、用心棒の腕が振り下ろされた。
レイナの矢が、その腕の関節へ突き刺さった。
用心棒の動きが止まる。
「下がって」
レイナが言った。
次の矢が放たれ、用心棒の背面にある動力接続部へ命中する。赤い光が明滅し、鋼鉄の巨体がゆっくりと傾いた。
レイナは迷いなく背中の剣を抜いた。
弓を背中へ戻す動作すら、ほとんど一瞬だった。
「レイナ、ありがとう。今のうちに――」
メバルが言い終える前に、レイナは地面を蹴った。
青白い剣身が、まっすぐメバルへ向かって走る。
「えっ?」
反応が遅れた。
レイナの目は、敵に向けるものと同じだった。
鋭く、冷たく、感情がない。
K-Tがその間へ割り込んだ。
ガラケーのアンテナを横に構え、剣を受け止める。
金属音が響いた。
だが、レイナの剣は止まらなかった。
力で押し切ったのではない。剣の軌道をわずかに変え、アンテナの横を滑らせたのだ。
「なに……?」
K-Tが目を見開く。
次の瞬間、剣先が彼の胴体を貫いた。
刃が背中から突き出る。
時間が止まったようだった。
「Kさん!」
メバルの声が、広場に響く。
K-Tはすぐには倒れなかった。
レイナの剣を両手でつかみ、メバルから引き離そうとする。だが、刃を抜けば出血が増える。動けば傷口が広がる。
それでも彼は、レイナの腕を押し返そうとした。
「……下がれ」
声は低く、かすれていた。
「Kさん、動かないで! 今、包帯を――」
「下がれ!」
K-Tが怒鳴った。
メバルがびくりと震える。
レイナは剣を引き抜いた。
K-Tの体が大きく揺れ、膝をつく。
彼の手からガラケーが落ちた。折りたたみ式の端末は石畳にぶつかり、画面にひびが入る。
「Kさん!」
メバルが駆け寄ろうとした。
しかし、レイナが素早く横へ移動する。剣先がメバルの進路を塞いだ。
「近づかないで」
「なんで……? 私たちを助けてくれたんじゃないの?」
「助けた?」
レイナは小さく首を傾けた。
「私は、用心棒を倒しただけ」
マサカゲが剣を抜いた。
「全員、レイナから距離を取れ。彼女は敵だ」
「マサっち、Kさんが!」
「分かっている!」
マサカゲはレイナを睨みながら、K-Tの位置を確認していた。
K-Tは片膝をついたまま、片手で傷口を押さえている。そこから流れる赤い光が、地面に細く広がっていた。
「アオノ、回復手段は!」
「通常の包帯では止血できない。損傷が大きすぎる」
アオノは即答した。
「ポーションは?」
「効果はある。ただし、飲ませるには近づく必要がある」
「私が行く!」
メバルが麻酔銃を構えたまま、一歩踏み出す。
レイナの剣先が、再び彼女へ向いた。
「来ないで」
「Kさんを助けるの!」
「その人は、もう戦えない」
「だから助けるんだよ!」
メバルは引き金を引いた。
麻酔弾がレイナへ向かう。
レイナは首をわずかに傾け、弾を避けた。そのまま剣を振る。メバルは咄嗟に銃身で受けたが、衝撃で麻酔銃が弾き飛ばされた。
銃が地面を転がる。
メバルの表情から、強さが消えた。
「えっ……」
彼女は自分の両手を見た。
麻酔銃がない。
「いや……」
足が震える。
「待って、待ってよ……私、銃がないと……」
「メバル!」
マサカゲが前へ出た。
剣を構え、レイナとの間に立つ。
「アオノ、メバルを連れて下がれ。ミステー、カキを起こせ」
「了解」
アオノがメバルの腕をつかむ。
「いや、Kさんを置いていけない!」
「置いていくわけではない。救出のために体勢を立て直す」
マサカゲは冷静に言った。
その背後で、カキがゆっくり起き上がる。
「Kさん……」
K-Tは返事をしなかった。
耳鳴りがしていた。
視界の端が暗くなり、音が遠ざかっていく。目の前には、剣を構えるレイナ。その向こうには、次々に動き出す用心棒と骸骨たち。
K-Tは、ガラケーへ手を伸ばした。
ひび割れた画面に、仲間たちの姿が映っている。
メバルがアオノに引かれながら後退している。
マサカゲが一人でレイナの前に立っている。
カキが剣を拾おうとしている。
ミステーがピラミッドの被り物を盾にして、迫る骸骨を押し返している。
そして、アオノが何かの装置を取り出し、周囲を分析している。
全員が戦っていた。
全員が、倒れそうになりながらも、K-Tを助けようとしていた。
「……下がれ……」
K-Tはもう一度、声を絞り出した。
だが、仲間たちには届かなかった。
レイナがマサカゲの剣を受け流す。
用心棒の拳がカキを吹き飛ばす。
骸骨の矢がミステーのピラミッドに突き刺さる。
アオノの装置が破壊され、火花が散る。
メバルは麻酔銃を拾おうとして転び、迫る用心棒を見上げていた。
「いや……来ないで……!」
K-Tは立ち上がろうとした。
足に力が入らない。
手を伸ばす。
だが、届かない。
仲間たちが次々に倒れていく。
赤い光が視界を覆い、広場の音が消えていく。
最後に見えたのは、メバルがこちらへ手を伸ばしている姿だった。
「Kさん――!」
その声だけを残して、世界が暗転した。
次にK-Tが目を開けたとき、そこに鉄の村はなかった。
見慣れない草原。
遠くに木々。
足元には、淡い青色の光を放つ円形の床。
リスポーン地点だった。
K-Tはゆっくりと身を起こした。
胸に手を当てる。
傷は消えていた。
それでも、剣に貫かれた感覚は、まだ残っている。
焼けるような痛みが胴体の奥で続いていた。
K-Tは立ち上がり、周囲を見回した。
誰もいない。
ガラケーもない。
仲間の声も聞こえない。
彼は拳を握った。
「……戻る」
痛みを抱えたまま、K-Tは鉄の村がある方角へ歩き出した。
#カンヒュ好きと繋がりたい
八つ橋
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#フォロワー様記念企画
八つ橋
112
#相談
波風 かなで
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コメント
1件
第8話、一気に読んじゃいました……! レイナの裏切りが本当に衝撃的で、まさかあそこからK-Tを刺すとは思わなかったです。メバルちゃんが「銃がないと」って震えるシーン、胸が締め付けられました。全員が必死で戦ってるのに、次々倒れていくのが辛かった……。それでもK-Tが一人で村に戻ろうとするラスト、痺れました。続きが気になりすぎます!