テラーノベル
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東京臨海旅客ふ頭ターミナルは、世界最大級の豪華客船にも対応可能で、鉄筋5階建ての真新しい外観は、白イルカをイメージした曲線系の造りとなっていた。広大な駐車場は、乗り捨てられた自家用車や貨物車で溢れ、ロビーへと通じる樹木に囲まれた通路は避難民でごった返していた。
ターミナルビルの奥には、巨大な客船が幾つも停泊していた。
第2の東京ジェノサイドから逃れる人々を、遠方へと疎開させる為に国が手配したものだった。
テロ予告された時刻まで、24時間を切っていた。
人々はパニックに陥り小競り合いも発生していた。
身分証確認やボディーチェックに時間を取られ、避難の列が一向に進まない中で、甲本の姿は中央付近にあった。
民間の警備員に詰め寄るのは大概が中年男性で、若者達がそれをたしなめている光景が彼方此方に伺える。
女性は意外と落ち着き払った様子で、じっと我慢して自分達の番が来るのを待っていた。
夜空に揺れる死のオーロラが海に反射して、その色は曲線のターミナルを包み込んで虹色に輝いていた。
幼い子供の声が遠くで聞こえた。
「わあ、きれいだね」
そして母親らしき声もする。
「虹色のイルカさんだね。かわいいね」
優しい響きだった。
甲本の近くでは、怒号が聞こえた。
「おい!もっと早くしろよ!モタモタすんなよ!」
「対応が遅すぎんだよ!ちゃっちゃとやれよ!」
警備員は何度も頭を下げて謝っていた。
甲本はひたすら待ち続けた。
船に乗って、何処か遠くに逃げたいと思っていた。
それは現実逃避に他ならずとも、知らない土地で人生をやり直したいといった願望でもある。
教師でも反国家分子でもなく、ひとりの人間として命を全うしたい。
船に乗れば全てが解決する。
そんな気がした。
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