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「まあ、鷹也のことは置いておいて、そういう力があるんだ。あとはその人のオーラが見える」
「オーラ?」
「それは得度式の後から徐々に現れて年々強くなるんだ。僕なんかはまだまだで……」
「ずっと見えているわけではないんだよ。そういう目で見ようとしないと見えないのだが、人を見るとその人の周りになんとなくぼやっと見えるものがあるんだ。色であったり形であったりは、その時々で違う。それを我々はオーラと言っている。その人が今幸せなのかどうか。何か危険が迫っていないか。オーラを読み取るとわかるんだ。それも感じ方は光希と私で違う。長岡の直系であっても感じ方はそれぞれでね」
「まあ、同じこともあるよ」
「ああ、今の鷹也は分かりやすいな」
「うん。今なら僕でもわかる。しっかり色が見える」
「「ピンクだ」」
「なっ、何を――勝手にオーラ見るなよ!」
また鷹也の顔が赤く染っていく。
いや、ピンクなのかな?
「良かったじゃないか。幸せそうでなによりだ」
「う、うん……」
伯父さまよりずっと背が高いのに、頭をポンポンと撫でられている鷹也は小さな子供のようだった。
「先代は全ての力が強かった。静子さんが幼馴染と楽しく話したと言っていたなら、本当に父が降りてきたのだろう。静子さんの最期の願いを叶えるために」
「最期の願い……」
「ずっと、杏子ちゃんの幸せを祈念されていたんだよ。幸せになって欲しかったんだろう」
おばあちゃん……。
「だが一つ勘違いしないで欲しいのは、静子さんの願いだけじゃダメなんだ」
「え?」
「願いっていうのはね、誰かのことを思う気持ちももちろん大切だ。でも一番大切なのは本人の気持ちなんだよ」
「本人の……?」
「そうだ。わかりやすく言えば、病気の人がいたとしよう。なかなか治らない病気のね。医者や周りが『きっと治るよ』『神様仏様にも祈るから頑張れ』と言っても本人に治す気がなければ治らない。前向きに治療を受けて、生きるための努力をしないと回復には向かわない。余命宣告されていたとしても、努力しなければ宣告された期間よりも短くなるかもしれないし、逆に努力して『生きよう!』『生きたい!』と思えば、宣告されてた余命が驚く程に延びることもある」
「それはよく分かります! 毎日患者さんを診ているけど、本人の気の持ちようで驚く程回復力は違いますから」
「うん。きっとドクターは現場で目の当たりにしているだろうね」
なるほど。分かりやすい説明だわ。
「だから本人の気持ちを動かすことが一番大切なんだ。父は静子さんの願いを叶えるためのきっかけを作ろうとしたのだろう。二人が入れ替われば、お互いの今置かれている状況が分かる。誤解があって別れたとしても、ほんのちょっとのきっかけで会ってみようと思うかもしれない」
「あ……」
本当にその通りだ。
入れ替わって鷹也の現在を知っていなければ、三度目の入れ替わりの時に、いくら慌てていたとはいえ電話をかけたりしなかっただろう。
「入れ替わりが父による融通さんの御加護だとしても、その後二人が再会して結婚することにしたのは、杏子ちゃんの意思と選択だよ。杏子ちゃん自身が幸せになりたいと思ったからだ」
「はい……」
私、幸せになりたかったんだ。鷹也とひなと三人で幸せになりたかったんだ。
「杏子……」
鷹也が私の頭をポンポンと撫でてくれる。
幸せだなぁと思う。
きっかけをくれた入れ替わりに感謝だ。融通さんの御加護に……。
「まあ……御加護を授かるためのアイテムが何故どんぐり飴だったのかはちょっと分からないけど。何かあるの? 二人の思い出の何かが」
「え」
「い、いや、別にっ」
今度は私たち二人とも赤くなっているはず。
鷹也と目を合わせると、お互いにあの夏の初めの縁日を思い浮かべているのだろうとわかった。
私たちの始まりの時。
何度思い出してもキュンとする二人だけの秘密。
それから私たちは本堂にお参りを済ませ、光希さんの奥様にも挨拶をした。
生まれたばかりの芙佳ちゃんはとっても可愛くて、ひなが生まれた時のことを思い出した。
いつかひなにも弟か妹ができるのかな……。
少し前なら考えられなかった夢のような話だ。