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その表情を見ながら、偉央はどれだけ自分は結葉を痛めつけたら気が済むのだろう、とぼんやり思う。
結葉が辛そうな顔をするたびに込み上げてくる情欲を孕んだ愉悦と、誰よりも大切な結葉に優しく出来ない自分への苛立ち。
眉一筋動かさない顔の下で、偉央がそんな葛藤をしているだなんて、きっと結葉は思ってもみないんだろう。
それがまたどうしようもなく腹立たしく思えてしまう偉央だ。
「僕に『ごめんなさい』って言ったのは口から出まかせだったの?」
残念だな、と心底意気消沈したように言葉を落とせば、結葉がギュッと唇をつぐんだのが分かった。
「出まかせじゃ……あり、ません」
言って、そろそろと四つん這いになって偉央の方へお尻を向ける結葉を見て、偉央は堪らない安心感を覚えるのだ。
「いい子だね、結葉」
羞恥心と恐怖に小さく震える結葉の色白の臀部を優しく撫でさすると、偉央は彼女の華奢な腰を両サイドからしっかりと掴む。
そうしてそのまま、何の予備動作もないままに彼女の隘路を一気に最奥まで貫いた。
「……いっ、やぁぁっ!」
途端部屋の中に、結葉の泣き声混じりの悲鳴が鳴り響いた。
***
結葉が目を覚ました時、偉央はすでに結葉のそばにはいなかった。
(偉央さんの夕飯……)
ぼんやりとした頭で昨夜は帰宅するなり偉央に酷く折檻をされて、用意したはずの料理を何ひとつ出せなかったことを思い出した結葉だ。
(いまって……何時、なの?)
薄暗い部屋の中、チッチッ……と壁時計の秒針が刻む規則正しい音は聞こえているけれど、文字盤が見えなくて時間が分からない。
そのことが、結葉を物凄く不安にさせた。
偉央からどんなに手痛い仕打ちを受けても、夫に尽くす以外の道を見いだすことが出来ない結葉は、虐げられても傷付けられても偉央のことを最優先に考えてしまう。
偉央との数年に及ぶ結婚生活のなかで身についてしまった条件反射のようなその習慣は、頭ではおかしいと分かっているのに止めることが出来なくて――。
あちこち痛む身体を庇いながらノロノロとベッドに身体を起こしたら、何も身につけていない肌から布団が滑り落ちた。
その微かな刺激ですら思わず眉根を寄せてしまうような痛みを伴って。
「――っ!」
結葉は苦しさを逃すみたいにギュッと唇を噛み締めた。
呼吸をゆっくり整えながら冷静になれば、中でもシーツに直に触れている秘所の辺りが、特に痛むのが分かった。無理に何度も何度も偉央のモノで擦られたことで、入り口付近が熱を帯びて腫れているのを感じて泣きたくなった。
こうなると、きっとトイレのたびに痛い思いをすることになる。
一度それが原因でおしっこを我慢しすぎて膀胱炎になったことがある結葉だ。
通院のために偉央の手を煩わせることになってしまったのが、物凄く申し訳なく感じられたのを思い出す。
(トイレだけは我慢しないようにしなきゃ……)
そんなことを考えていたら、虚しさにふっと涙腺が緩んで、涙がこぼれ落ちてしまう。
本来ならば幸せなはずの、夫と肌を重ね合わせるという行為が、自分にはどうしてこんなにも辛いんだろう。
偉央はどんなに激情に駆られていても、決っして結葉のなかで果てることはなくて。
それが、結葉にはこの上もなく悲しかった。
こんなに苦しい思いをしても、自分には何の喜びも与えられないとか……一体何の拷問だろうか。
ぼんやりと見下ろした自分の身体は、あちこちがアザと擦過創に覆われていた。
きっと見えない背中にも――。
結葉は、満身創痍の身体を前に、居た堪れない気持ちになった。
ただ、そんな中にあってひとつだけ結葉の心を救ったのは、身体が綺麗に清められていて、恐らく痛みを伴っている身体のあちこちに手当てがされているのを実感できたことだ。
偉央は獣医師だから、昔から結葉が怪我をした際には的確な知識をもって手当てをしてくれる。
動物病院で使っている薬も、実は動物専用のものは二割くらいしかなく、人間用のものを使っていることがほとんどだとかで、そこから薬を見繕ってきてくれることも結構あって。
今までも、こんな風に酷く抱かれた後、結葉が意識のないうちに処置されていることが多々あった。
飴と鞭だと言われればそうだし、こんな風に怪我をさせなければ良いことだと言われれば、無論その通りなんだろう。
それでも、決して汚れたままの結葉を放置しないことや、怪我をしたところをそのままにしておかないところに、不器用な夫からの愛情を垣間見てしまう結葉は、どうしても偉央に対する気持ちを捨てきれない。
だからこそ――。
結葉はこんなにも偉央のことが怖いにも関わらず、偉央との関係を何とか維持したいと思ってしまうし、昔のように笑い合える仲に再構築出来たなら、と期待してしまうのだった。