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ドールさんに案内された古城は、想像よりも小さく、苔も生えたボロボロの古城だった。
城に入ると、大きな椅子だけがあり、玩具がコロコロと転がっている中央に、少年は鎮座していた。
「やっと来た。待ってたんだよ、異郷者に龍族。あと、ドール。それ、裏切りって言うんだよ」
「違います……! 守護神……ドールさんは、あなたのことを助けようとしているんです!」
「僕を助ける? 愚問だね。僕はガンマと出会ってようやく救われたんだ。知った口を聞くなよ」
闇の神は、僕たちの人数を前にしても、決して態度を改める事はなく、肘を付いて喋っていた。
「まあいいや。ドールが裏切ったところで何も変わらないし、それよりも早くみんなと友達になりたいな」
そう言うと、闇の神は僕たちに手を向けた。
「 “闇神魔法 ギルガメッシュ” 」
「いきなり神魔法!?」
闇の神の周囲には、無数の武器が出現した。
「あんなもの……弾き返せばいいだけです……!」
「カエンさん! 待ってください!」
そう、今、多分あの魔法の真の意味が視えているのは、僕とロイさんだけだろう……。
しかし、ロイさんは魔法に干渉できない。
僕の目には、無数の武器の中に、小さな針が視える。
武器を弾こうとしたその腕に突き刺すモノだろう……。
仙術魔法を会得していなければやられていた……。
闇の神の出現させた武器は、勢い良く放たれる。
「皆さん! 僕よりも後方に下がってください!」
“岩神魔法 ヒル=ブレイク”
僕を含めたその場の全員を、岩の鎧で守った。
「九条さんが言っていた通り、闇の神と戦うには仙術魔法の “眼” が必要みたいです……! 闇の神の相手は、僕に任せてもらえませんか……!」
全員は、緊張感の中、小さく頷いた。
そして、僕はゆったりと闇の神に近付いた。
「カズハの加護魔法か! 運のいい奴だね! じゃあ、今度のは防げるかな!!」
すると、今度は僕の上空の四方八方に武器が出現した。
そして、全ての武器は勢い良く放たれる。
キィン!
僕は、たった一つの武器のみを弾いた。
すると、他の武器は全て消えていった。
「は……? 視えてるのか……?」
「はい……。残念ながら、そのフェイクは通じません」
この闇神魔法の正体は、人体に触れられない武器をダミーとして出現させ、たった一つ本物の武器を仕込んであるところにある。
本来であれば最強とも呼べるだろうが、闇魔法を見極められる僕には、防ぐ事は簡単だった。
「そんなの……聞いてない!! ガンマだって言ってなかった!! ルイン? ルインはどこ!?」
すると、闇の神はいきなり動揺を露わにし始めた。
僕は、ゆっくりと闇の神に近付く。
「もう、ガンマと組むのはやめてください」
「やめろ……やめろ! 近付くな……!!」
「僕たちの仲間になりましょう。七神のみんな、優しい方ばかりなんですから……」
そして、僕は闇の神に手を向ける。
「やめろ!! 僕に触るな!!!」
すると、僕の手はスカッと、闇の神をすり抜けた。
「うわあああああ!!!」
そして、闇の神は絶叫しながら泣いた。
「エイレスさん……アゲルは……闇そのものなんです。七神も、私たちも、誰も触れることが出来ない……。触れることができるのは、死んだ者の魂だけ……」
ドールさんは、悲しそうに手を握っていた。
この闇の神は、誰からも触れられない……。
誰とも触れ合えない、闇そのもの……。
“ガンマに救われた” と言うのは、ダークスライムに魂なんて概念はないからなのだろう。
「僕は……」
「エイレスくん、ここまでです。闇の神を拘束し、強制発動させましょう。触れられないんじゃお手上げだ」
悲しそうに見遣るカエンさんとルーフさん。
ただ、じっと眺めているホクトとグレイスさん。
「僕は……!」
そのまま、泣きじゃくる闇の神の前に立った。
「僕の名前は、大和ヤマト!!」
「ヤ、ヤマトくん……!?」
全員が驚愕し、僕に注目した中、ホクトは横に並ぶ。
「私はホクト」
「ホクト……」
そこに、グレイスさんも並んだ。
「俺は死人だがな。グレイスと言う」
「ドールは、いつだってお慕い申し上げます!!」
「皆さん……」
ニカっと笑うと、ルーフさんも近寄った。
「やあ、俺はルークって言うんだ。闇の神!」
そして、呆れたようにカエンさんは笑った。
「それが、君の答えか。ヤマトくん……」
ハットを脱ぐと、ゆっくりと僕らの元に近付く。
「もうだいぶ昔に捨てた名前なので、あんまり名乗りたくはないんですけどね」
「カエンさん……?」
「私は、レオポルド・ディエンズ。レオでいいですよ」
「カエンさん……!」
次第に、身体が軽くなっていくのを感じる。
魂と身体が……離れているんだ……。
「なんで……なんでそんなこと……」
「みんな名乗りましたよ、闇の神。最後は、あなたの番ですよ。名前を教えてください」
そして、僕は手を差し出した。
「僕は……アゲル……。闇の神の……アゲル……」
泣きながら、アゲルは僕の手を強く、強く握った。
そのまま全員で、僕たちはアゲルを抱き締めた。
闇の神 アゲルは、ずっと寂しかっただけなのだ。
純粋無垢な闇は、ただ恋しかっただけなのだ。
そして、ふわっとアゲルの記憶に入る。
「さあ、君がこの世界の闇だ」
いつものように、バベルがそこにはいる。
「闇……? 闇は何するの……?」
「君には魂の管理をして欲しい。輪廻転生と言って、死んでしまった人を再び転生させるんだ」
「いいんですか? 魂の管理を幼神にしてしまって……。貴方も、死者や転生がどんなに負担なモノか……」
仲裁に入るミカエルに、バベルは笑う。
「大丈夫! 逆にこういうのは、優しくて純粋な子供の方がいいと思ってたんだ」
「バベルにはまた会えるの……?」
「ああ、僕にはいつだって会えるよ」
しかし、それから冥界の国で城を造ってから、バベルは仕事以外で来なくなってしまっていた。
幾年と過ぎていく年月、隣にいるミカエルの姿。
徐々に、アゲルはミカエルに嫉妬心を抱いていた。
「バベル……全然会いに来てくれない……」
「ごめんな、アゲル。ちょっと上の仕事も大変でな。特に七神を生み出したばかりの頃は、人類や魔物のバランスに手間取っちゃって……。そうだ、寂しくないように闇の加護を与えよう。光と闇魔法だけは、僕の発現させたい魔法にしてあげられるんだ」
そう言うと、バベルはアゲルの頭を撫でた。
「闇神魔法を唱えてみてくれ。好きなものがなんだって生み出せるすっごい魔法だぞ!」
「闇神魔法 ギルガメッシュ!」
すると、アゲルの前には沢山の玩具が具現化された。
「すごい! これ全部僕の!?」
「そうだ! アゲルしか触れない、アゲル専用だぞ!」
そうして、バベルとアゲルは笑っていた。
そうか……闇神魔法はそうやって発現したんだ。
アゲルが寂しくないように……そして、実体に触れられないアゲルだけが触れられる魔法……。
「それと、七神には守護神ってパートナー……。うーん、お友達を作って欲しいんだ。これが特殊な加護だ。自分が好きだな、と思う相手にこの加護を与えて欲しい」
アゲルは凄く満足そうにしていた。
「ありがとう! ありがとう、バベル!」
そして、アゲルは早速、自身が生み出した人形に加護を与え、ドールを生み出していた。
しかし、魂を持ってしまったドールに触れることが出来なくなってしまい、また、アゲルの中を巡る寂しさや孤独はヒシヒシと巡っていくようだった。
「そうか……君は、バベルに会いたい。そして、最初の頃のように頼って欲しいんだね」
共鳴が終わると、アゲルは涙を零していた。
「だから、ガンマから頼られたことが、君にとっての “救い” になっていた」
そして、僕はアゲルの頭を撫でた。
「アゲル、僕たちの力になって欲しい。七神を守りたいんだ。その為に、君の力が必要だ。頼ってもいいかな?」
小さな声で、アゲルは「うん」と笑った。