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その男は、僕たちの前に忽然と現れた。
「アッハハ! やっぱ七神って弱いんだな!」
そして、同時に驚愕の光景が広がる。
「カナン! セーカ! アズマ!」
三人は、白髪の少年に捕らえられてしまっていた。
気絶させられているのか、黒い糸のようなものが心臓から飛び出ていた。
「ルイン……! 側にいないと思ったら……!」
そうか……コイツが “悪魔” ルイン……!!
「それにしても、異郷者も龍族も馬鹿だよね。自分から本名を口にするなんてさ。お陰で手間は省けたけど」
そして、ルインはくるりと背を向ける。
「魂の管理を務めているのは僕だけ。つまり、彼らを生き返らせることが出来るのも僕だけだ。君たちは、闇の神と共に一生ココから出られないんだよ。じゃあ僕は最後の仕事があるから、天使の国に行こうかな。じゃあね」
そして、三人を連れてどこかへと消えてしまった。
「ヤマトくん……まさか、ガンマの真の目的が、闇の神ではなく、悪魔ルインとの協力だとしたら……」
「えぇ!? ちょっと!? 俺、なんとかなるかと思って便乗したのに、闇の神でも生き返らせられないの!?」
ルークさんが徐に驚愕してしまっている。
僕は、ゆっくりと目を閉じ、静寂に耳を傾ける。
アゲル……いや、ミカエル……。
こんな時……ミカエルがいたらなんて言う……。
(ヤマト一人ででも逃げてください)
(貴方には使命があるんですよ!)
(七神の祈りが……発現するのかも知れませんね……)
僕は静かにアゲルの手を引いた。
「アゲル、僕に力をくれ……」
「闇の加護を渡したって……今更……」
「大丈夫……! 信じて!」
困り顔のアゲルは、僕の手を取った。
これが……闇神魔法のエネルギー……。
(考えてください、ヤマト。自分自身で……)
「そうだな……ミカエル……!」
“闇神魔法 ブラッドラッド”
「な、なんですか……この魔法は……!?」
僕の詠唱と同時に、僕たちの足元は黒く覆われる。
闇の神アゲルは、誰にも触れないことを悩んでいた。
それもあり、自分にしか触れられない、魂の状態なものを創造する魔法をバベルから与えられた……。
でも、その逆のことをアゲルは望んでいるんだ……!
一面の闇に包まれると、闇は途端に掻き消えた。
「何も……起きない……」
カエンさんですら、目を丸くさせていた。
大丈夫……きっと成功しているはずだ……。
「皆さん……少しだけ待っていてください……」
“仙術魔法 神威”
「む……?」
僕が向かった先は、仙人ガロウの元だった。
「その気配……ヤマトだな……? 何故姿が見えない……」
やっぱり、魂になっているんだ……。
でも……。
「な、なんだ!?」
やっぱり、触れられる……!
「ガロウさん、僕たちは今、訳あって魂だけの存在となってしまいました。しかし、僕の会得した闇神魔法で、物体として触ることが出来ます」
そう、この闇神魔法は、見えない物に触る力。
魂と言う概念に触れられるようにする。
アゲルが、ずっと焦がれていた魔法だ。
物体として触れられるなら、会話も出来る……!
「して、魂の姿で私に何用だ?」
「ガロウさん……今から冥界の国へ連れて行きます。そして僕たちを、天使の国へ連れて行ってください!」
ガロウさんは、少し目を瞑り、ニヤリと微笑む。
「面白い。随分と覚悟が強くなったようだな」
「ありがとうございます。行きます……!」
“仙術魔法 神威”
ガロウさんを連れ、再び冥界の国へ戻る。
「ふむ、誰の姿も見えないな。しかし、ヤマトのことだ。ここに何人もの強者が居るのだろう……」
「はい、大丈夫ですか……?」
「ふふ……全員、私の体に触れてくれ」
そして、全員がガロウさんの身体に手を着けた。
「これで全員だな……?」
「はい、お願いします……!」
僕、ホクト、カエンさん、ルークさん、グレイスさん、アゲル、ドール。
総勢七人が、ガロウさんに触れていた。
ロイさんは流石にこの国に残すことにした。
しかし、この人数……。
「ちょっと待ってよ」
そこに、ニタニタと笑う影が現れる。
「フーリン!?」
「僕も君の魔法を受けた。ずっと近くにいたからね。ガンマが裏切り者なんだろ? 放っておけるかよ」
そして、グイと、横暴にガロウさんに手を着いた。
「でも、君にはもう風龍魔法も使えないし……これからの戦いじゃ……」
「うるさいなぁ!! 僕は、もう誰にも負けないって決めてるんだよ!!」
僕は、フーリンの言葉をそっと胸にしまった。
「ガロウさん、行きましょう……」
「良いな。仙術魔法 神威ィ!!!!」
ゴゴゴゴゴ……!! と、地鳴りの中、大量の魔力がガロウさんに集中されているのが分かった。
シュンッ!と、風が僕たちを包み込む。
そして、一面が白い世界に到着した。
「ここが……天使の国……?」
本当に何もない……人も誰も住んでいない……。
「ここが天使の国で間違いないよ、ヤマトくん」
「ルークさん……」
そうだ、光魔法を扱えるルークさんは、天使の国の出身と言うことは……天使なのか……?
国って言われてたから、本当にただの国なのかと思っていたが……。
「ここは、天使のみが住むことを許された禁断の地だ。だから俺も、天使で相違ない」
ここに悪魔ルインと、みんなも……。
最後のやることってなんなんだ……。
「では、早く行きましょう。そして、みんなのことを助けます……!」
そんな勢い勇む中、大翼の天使が、僕たちの頭上に現れる。
「アゲ……ミカエル……?」
「ヤマト……情を移してしまいましたか……」
その姿は、以前までのアゲルの姿ではなかった。
“大天使” の名に恥じない金髪に、白い装束、そして、大きな大翼が背から生えていた。
「ミカエル……ここまで来たんだ……! 残すは光の神の加護だけだぞ!」
しかし、ミカエルは表情を変えない。
「もう、貴方に用はありません。ヤマト……」
そして、僕の肩に手を当てる。
「今……なん……て……」
「反転召喚! リゲイン!!」
アゲル……どうして……。
――
普段通り、僕は自室のベッドで目が覚める。
一つ不明瞭なことは、昨日は何事もなかったはずなのにどこか胸のつっかえが取れないことだ。
僕は、昨日も普通の日常を送っていたはずだ。
何も苦しいことなんてない。
なのにどうして……涙が止まらないんだ……。
僕は、いつもの様に制服に着替える。
母さんの作る目玉焼き。
いつも通りの朝だ。
なのにどうして……久しぶりに感じるのだろう。
ご飯を食べたら学校に行くんだ。
木下と山本はちゃんと宿題をやって来たかな。
また僕が英語を教えて……。
僕は……どうなってしまったんだ……。
何かが、僕の胸を痛く苦しめるんだ……。