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「これより第一回、ヴェレスアンツ大改造計画会議を始めたいと思います」
ぱちぱちぱちぱち
「帰れえええええ!!」
アリエッタ達がファナリアにしれっと帰還した数日後、ヴェレスアンツのジルファートレスの中央ホールに、数名の人物が集まった。
まずはリージョン内外から不満を一身に受ける羽目になってしまったヴェレスアンツの創造神グレッデュセント。
「ちょっと! なんかちょっと紹介に悪意感じるんだけど!」
「ははは……頑張ってください」
「イディアゼッターの紹介も変なのよろしく!」
そして数多の神々とリージョンの監視を見守り続ける虚空の神、永遠の苦労神イディアゼッター。
「……間違ってはいないですね。悲しいことに」
”そうなんだ……”
”詳しすぎでは?”
会議を見守るのはたくさんのコメント。会議は人数が多い程混乱しやすいので、主要人物以外は直接的な発言権を持つことが出来ない。
そんな中でも数少ないヒトの参加者は、ヴェレスアンツの現在の最深記録を保持している挑戦者数グループの代表者1名ずつと、ジルファートレスの管理をしているヴェレスアンツ人が数名。
そして……
「アリエッタちゃんによって成長させてもらえて感無量のリージョンシーカー総長、ピアーニャよ」
「ふふふ、これがわちの本当の姿だ!」
ファナリア人視点で14歳程の見た目になり、なんだか常に嬉しそうなピアーニャが、サイズの大きいフラウリージェのオシャレな服を着て、ふんぞり返っている。
3歳程の見た目から成長した姿は金髪金目の美少女で、伸びた髪はツインテールに結ってある。ネフテリアから「これまでと違って大人っぽい髪形だから」という感じの雑な騙されて方をしている事には気づいていない。
普段の舌足らずな発音も、成長した事でだいぶ緩和しているようだ。癖は抜けないようだが。
「最後にわたくし、ファナリアからやってまいりました、ネフテリアです!」
「おかしいでしょ貴女が仕切ってるのは!」
グレッデュセントのツッコミを常時受けているネフテリアも、フラウリージェの新作を着て今回の会議に臨んでいた。
「関係無いんだから帰ってくれないかな!?」
「まぁまぁ。ゼッちゃんに呼ばれただけだから、気にしないでください」
「気にするわっ! 何呼んでるのよイディアゼッター!」
「儂が知る限り、最も多数のリージョンの経験と資料があるリージョンシーカーの長と、幼少の頃からその人物からあらゆる知識を叩き込まれている姫ですから。今回の議題にはかなり有力な人材かと」
「そうだけどっ、そうだけどぉっ!」
”人材としては最強すぎる”
”どっちが神様なんだ?”
「ぐぬ……」
納得はいかないが、反論の余地がない。あっさり説得されてしまって、黙るしかなくなるグレッデュセントであった。
議題その1:食料問題
「ヴェレストが消えて食べる事が出来ないって深刻よね」
”狩りは生きるのに必要な行為だからなぁ”
「まずは全層に食料を得る手段が必要だ」
ネフテリアの問題提起で、挑戦者の1人が声を上げた。
挑戦者は数日耐えられる食料を準備し、数日かけて食料を守りながら1層ずつ攻略。食料が半分を切ると引き返すしかなくなるという、慎重になって全力で戦えない状況を余儀なくされる環境で、懸命に戦っていたのだ。
それで11層まで進んだものの、25層まであると知った時点で半ば絶望していた挑戦者達は、ここぞとばかりにグレッデュセントを責めるつもりでいた。
「神に挑もうとしているわけだから、ヴェレストが強い分には問題無い。敵わないのは俺たちの修行不足だ。だが、それに挑めるのが『腹が減らない人外』であることが前提なのが納得いかない」
「1層進むのに何日かけてると思ってるのよ。食料なんかすぐになくなるわ」
”いいぞもっと言ってやれ”
”効いてる、効いてるよ!”
続けざまに食料が無さすぎる事を指摘され、しゅんとするグレッデュセント。
実はアリエッタ達が帰ってからはイディアゼッターに同伴され、いくつかの上位挑戦者グループに混ざってヴェレスアンツを攻略していたのだ。その時に、ヒトの食事の頻度をしっかり観察させられ、終わったらイディアゼッターに反省させられ、すっかり凹んだところでこの会議である。ネフテリアの存在のお陰でツッコミの勢いはあるが、反論する元気は無さそうだ。
「全層で食事……どうしたら……」
「ヴェレストって食料に出来ないんですか?」
「あれは死んだときに魔力って呼ばれてる力に変換してるから、消してるわけじゃないの。その力を別の場所に勝手に移動させて、別の場所で同じヴェレストを作り直すっていうサイクルで成り立ってるのよ」
「それで永遠に戦い続けられるって事か」
ヴェレストが消えていた理由がハッキリと語られ、納得する全員。ピアーニャは目をキラキラさせながらメモを取っている。
”ピアーニャ様可愛い……”
「かわいい言うな! ほら背高いだろ!」
”反応早いな。もう条件反射だろ”
ヴェレスト狩りは食料獲得の要素にはならないという現実があるが、ジルファートレスには食料の確保手段が用意されている。そこに解決の糸口を見出しているピアーニャが提案した。
「ジルファートレスの地下に肉となるドーブツが生えてるバショあるだろ? あれをカクチに置くってのはどうだ?」
時々発音がおかしくなるが、そこは幼い姿の癖だとみんな分かっているので、可愛いとしか思われていない。
ネフテリアもその意見には頷いている。
「まぁ現状出来るのはそれしかないわよね。神様には他に何か出来る事ってあるの?」
「……実際世界を創造しているので、出来る事はあると思いますが、ここからどうしたら最善なのかが分からないというのが現状です。他リージョンの食材は常に存在し続けているので問題になりませんでしたし」
「ここは特別に食材がある場所が少なすぎたのが問題って事か。やっぱり各地に食材の畑を置くのが一番簡単かな」
出た案は、各層にいくつかずつセーフティゾーンの設置をする事。しかしグレッデュセントはこの案に対して渋い顔をしている。
「セーフティゾーンを作ったら、そこまで戦わずに逃げてを繰り返して、強くならないまま進んだりしないかしら?」
「そういう事には細かいのに、なんで飢える事には雑なんですかね……」
「それだったら、ある程度強くないと進めないように、11層のでっかい木みたいな、ポータルを守るヴェレストを全層に置けばいいのでは?」
”それだ”
エルトフェリアのライブで11層の最後に大きな木がいた事を思い出した挑戦者によって、最初の案についての解決策が割とあっさりと出た。
他に何かないかとネフテリアが全員を見ると、
「生えてくる動物や野菜をヴェレストと同じように戦う相手にするとか」
「全層にジルファートレスの入り口を作る」
「もう全層ラスィーテにしちゃえ」
「うーん」
他案も全て悪いわけではないが、グレッデュセントが望んでいる事に沿っているのかという疑問がある。雑に扱いながらも、そこを考慮できているのは、ネフテリアの優しさと企画力によるものだろう。
「グレースさんはみんなが強くなる事を望んでるから、各層のポータルの守護ヴェレスト……仮にガーディアンって呼びますか。ガーディアンを置くのと、色々な所に食材が生えるセーフティゾーンを置く方向にしますか」
「それなら……いいかも?」
実際各層のヴェレストの強さは、だんだんと上がるように出来ていたので、突然極端な強さになる事はないだろうと信頼している。
ヴェレスアンツに来る者の殆どは強くなる事が目的なので、反対意見も出る事は無かった。
議題その2:リージョンの深さ
「セーフティゾーンを作るなら、層を増やしてもいいと思う。これまでに比べて本気で戦って修行出来るからね」
「そうだな。ゼンリョクで戦えるなら、一戦一戦しっかりとした戦闘経験も積めるだろう」
続いては最深層を何層にするかの話し合い。全議題で出たように、休憩が用意になるのであれば、層を少なく見積もる理由もなくなるのだ。
「それじゃあ帰りが大変にならないか?」
「思いついた事があるんだけど、それも層の数次第ね。みんなは何層がいい?」
「あの、創るの私…なん…だけ…ど……」
グレッデュセントが文句を言いたげだが、今は立場が弱いので、ネフテリアに見られると段々声が小さくなっていく。
”いや神様堂々としろや”
”神様より王女様の方が立場が上な件”
”でもエルトフェリアじゃ王女様が一番立場低そうだったよね”
”この人達の上下関係どうなってんの?”
どうせ途中で休憩できるからと、どれくらいの多様なバトルフィールドが欲しいかを、挑戦者達に聞く事にした。それも帰りの労力度外視で。
最初に手を挙げたのは、なんとピアーニャだった。
「100層がいい!」
「多いよ! もうちょっと手加減して!」
あまりの数に、グレッデュセントが叫んだ。
「どうせ他のリージョンをパクるから大丈夫だ。もっと多くてもイイぞ!」
「ピアーニャまさか……一応理由聞かせて」
ウキウキしながら数を増やそうとするピアーニャ。その理由とは、
「層が多ければ多いホド、いろんなリージョンの姿が見れるだろ」
「だよねー」
「戦闘関係ないっ!」
色々なリージョンを知りたいピアーニャにとって、ヴェレスアンツの仕組みは最高の資料である。攻略しやすくなった暁には、自分自身で行けるところまで行きたいとも考えているほど、他リージョンのコピーであるバトルフィールドの存在に夢中なのだ。
「多様な戦術が必要になる分には構わんな」
「確かに」
「最強になるには対応力も大事ですからね」
というわけで、挑戦者達の結論はまとまった。
『100層でお願いします』
「いやああああ!! 何てことしてくれたのよおおおおお!!」
改装後のヴェレスアンツは、全部で100層に決定。それを創る女神の悲鳴が、ヴェレスアンツ人達の耳にはとても心地良い響きとなっていた。
”ざまぁ!”
”なんかスッとしたわー”