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【裕仁のターン】
水族館から出て俺はゆめと隣接する魚市場を散策してお店に入って遅めのお昼を食べる。
ゆめは水族館が本当に好きなんだろう。すごく楽しんでいた。
でも途中からちょっと考え事を始めたみたいでぼーーとするときが増えた。恐らく大事な話のことを考えているんだろうな。
聞きたくてはやる気持ちはあるがもう少し待とう。
それからすぐに近場にある小さな遊園地に行く。
「小さいけどジェットコースターとかあるんだね。小さいから逆に恐いかも」
そう言ってちょっと伺うように見てくる。あぁこれは乗りたく無いってことか、まあ俺もあんまり好きじゃないし、ゆめはもっと苦手そうだな。
「ジェットコースター怖いから乗るのやめようか。それじゃあ、あれはどうかな? 高いところとか大丈夫?」
俺は観覧車を指さすとゆめが上を見上げる。
「うん大丈夫だよ。観覧車に乗ったら海がよく見えそうだね」
ゆめが高所恐怖症なら無理だと思ったが、むしろ楽しみにしてそうなので乗ることにする。
「うわわわぁ」
「ほら、気を付けて」
観覧車のゴンドラに乗る際、何となく予想していたがゆめは乗り降りが下手だった。
まあ手を握るチャンスではあるが……いやなんでもない。
無事ゴンドラに乗った俺たちは海側の景色と町側の景色をみて楽しむ。
さっき行ってた水族館のペンギンが上から見える。
ゆっくりとゴンドラは上がっていく。
「そろそろ天辺だな」
俺がボソッと言ったときゆめがスッと立ち上がる。
俺は座っているのでゆめの方が視線が高くなる。
「動いているときはあんまり立たない方がいいよ。揺れるよ」
そう言っても聞こえていないのか真剣な表情で俺を見てくる。
あぁなるほど、今から大事な話を言うつもりかと察し、ゆめの口から語られる様々なことを想定して覚悟を決める。
キンッと張り詰めた空気に緊張したからなのか、心なしか喉が乾いてしまう。
ゆめは大きく深呼吸をするとまっすぐな瞳を向けてくる。
真っ直ぐに見つめられ緊張するが、チラッと外を見るとゴンドラが天辺過ぎたなぁとかどうでもいいことがちょっと気になってしまう。
「ひろくん!」
結構大きな声で名前を呼ばれたのでちょっとビックリしてしまうが、冷静を装ってゆめの次の言葉を待つ。
緊張から俺が生唾を飲み込んだと同時にゆめの口が開く。
「私はメシマズです‼」
「え……?」
「だからメシマズなのです! 美味しくないご飯作ります! 不味いです! 本当に凄く不味いです! 見た目も最悪です‼」
「おぉ、おお、えっと、はい」
色んな可能性を考えていたがこれは考えてなかったぁ~。人生とは本当に先が見えないもんだな。
「それでこの間のカレーはお姉ちゃんが作りました。本当は作れないのに騙しましたんです。最低の人間です。ごめんなさいぃぃ……」
息してないんじゃないかって位の勢いで喋っていたゆめが目に涙を溜めてボロボロ泣き出す。
「と、とりあえず座ろうかってもう降りる時間だ。降りよう、ほら」
俺はゆめの手を取っておぼつかない足取りで降りるゆめを支え降りる。
乗るときは楽しそうに笑っていた彼女が、降りるときは泣いているのだから、必死になだめる俺に対する係員の視線が冷たかった気がするがそれどころではない。
ゆめを海沿いのベンチへ連れて座らせる。ゆめが必死で泣き止もうとしているのは分かる。下手に言葉かけるより落ち着くのを待つか。
それにしてもメシマズかぁ……ここまで縁があるとは正直思わなかった。これはもう向き合えってことかもしれない。
必死で涙を堪えるゆめを見てここに来るまで悩んだだろうなってのを感じる。
俺に次こそメシマズじゃない子をみたいな気持ちは間違いなく合ったし、カレー食べてゆめを送った後メシマズ人生とお別れだ! って思ったもんなぁ。
出したつもりはなかったけどゆめとの会話の中とかで料理出来るよな? 不味いもの作るの最低だみたいな態度が出てたかもしれない。
そんな態度がゆめを追い詰めたかもな……そんなゆめに出来ることは、メシマズと縁のあり続けた俺だからこそ出来ること。
俺は1つの覚悟を決める。
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【夢弓のターン】
分かっています、分かっているけど涙が止まらないのです。
ここで私が泣くのはおかしいです。誰がどう考えてもおかしいです。
そもそも私が最初から料理苦手だって言ってれば起きなかった事です。
見栄はってカレーを作ると言ったのが間違いです。しかもお姉ちゃんに頼んで作ってもらうとか最低です。
泣きたいのはひろくんの方だと思います。
メシマズを告白したときそのまま置いていかれて、ゴンドラから上手く降りれず観覧車をもう一周するんだろうなと覚悟しました。最悪遊園地が閉園するまでぐるぐる回る可能性だってありました。
でもひろくんは、私をちゃんと降ろしてくれたどころか今、隣に居てくれています。
メシマズを告白したとき別れる覚悟をしてたけど、泣き止もうと顔をあげたときに優しい目で見ているひろくんの顔を見たら無理です。別れたくないです。
私にこの人以外誰がいるのでしょう。
「ここ、海風があたって寒いな、ゆめ寒くないか?」
「うん……大丈夫」
と言いながら私は首を横に振る。思っていたより小さな声になる。
「そっか」
少しの間の沈黙。
「ごめんな、ゆめが悩んでたのに気づけなくて」
「!?」
「今日もさ、そんな悩んだままで来させて楽しめなかったよな。大切な話があるって言ってたのに、勝手にゆめが楽しいだろうって計画してごめん」
(ごめんなさい、物凄く楽しんでました。イルカとかそれはもう楽しんでました。ひろくんの計画は成功してます。大成功です)
そう声に出そうとするが上手く出ず必死に首を横に振るのが精一杯です。
と言うかなんでひろくんが謝ってるんだろ。この状況はあきらかにおかしいです。
「違う、私が悪いの。だって嘘ついて、だましてえぇぇっヒクッ⁉」
ああダメだ涙がまた出てくる、必死で押さえようとするとしゃっくりの様な泣き方になってしまう。
ヒック、ヒック声を出す私をひろくんが優しく抱き締めてくれる。
あぁ何から何までダメだ私。ひろくんの優しさに甘えてばかりで今のままじゃいけない……けど今だけ、泣き止んだら変わるから今だけ。
どれぐらい時間がたったか分からない落ち着いた私はゆっくりとひろくんの腕から離れる。名残惜しいけど。
「私、料理上手くなる。練習するから、私頑張るから、その……」
私の決意表明。こんなので嘘ついたことが許される訳では無いけど今出来る精一杯の決意表明をひろくんが私の頭に手をポンと置いて止める。
「いや、俺とゆめ2人で頑張ろうな」
「!?」
「でも私、ひろくんを騙して、それにメシマズは私が悪いから自分で直さなきゃ」
「次はゆめが作ってくれるんだろ。それにメシマズを直すなら一緒にやろう」
そう言って手を握ってくれるひろくんの顔を見て顔が熱くなる。
あ~~もうダメ……そんな笑顔でそんなこと言われたら、もうね、えっとはい、好きです。
大好きです‼
好きが押さえきれなくなった私は人目なんか気にせずにひろくんの胸に飛び込んでしまうわけです。
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