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麗を手に入れると決めてから、まず考えたのは、麗音と引き剥がす方法だ。
麗は実母のことをくだらない男を愛し続けた馬鹿な女だと考えているようだが、そんなところが母親そっくりだ。
なにをされても、どんな目にあっても麗音を一途に愛し続けた。
そんな麗の百年の恋を冷めさせ、依存と信頼を麗音から奪わねばならない。
当時はまだ金も力も足りなかったので、こんなにも時間がかかってしまった。
それでもコツコツと動いてきた。
麗の面倒をちゃんと見ろと抗議するふりをして麗音を誘導し、麗が密かに聞いているところで愛人の娘なんか厄介だと言わせたのもその布石。
麗の父親は、簡単だった。
あの父親は麗音に対し、明彦同様激しい嫉妬心を抱いていた。
そこで、棚橋を使った。
須藤ホールディングスの情報を従業員から買っていることは知っていたので、そいつを脅し、 わざと須藤百貨店の子会社として佐橋児童衣料を狙っていると情報を流させた。
麗音が麗を秘書代わりに連れていった関西の企業家のためのパーティで、棚橋は麗に出会っていた。
ウェイトレスに靴に飲み物をこぼされ、奴は激怒していた。震えながら謝罪する若いウェイトレスに同情したのだろう。麗が間に入って紙ナプキンで靴を拭いた。
明彦としては麗に近づけたい相手ではなかったため、止めに入ろうとしたが、紙ナプキンはベチャベチャになり、靴に紙の欠片が残ってしまい、 ごめんなさい、と慌てる麗に棚橋が無言で去る方が早かった。
棚橋は嫌な男だ。だから、誰かに無条件の献身を向けられる経験がなかったのだろう。
本人は自分自身のことなのに理解しておらず、認めていないようだったが、あの瞬間、確かにあの老人は、自分の娘ほどの年齢の麗に惚れたのだ。
最初から狙いは麗音ではなく麗だった。
だが、それを告げるのはプライドが邪魔したのだろう。
だから、最初に麗音を狙った。棚橋も麗が麗音のためならなんでもすることはわかっていたのだ。
そうして、棚橋が麗を買おうとしたときに、奴のインサイダー情報を警察に流して潰し、ヒーローとして、同じ条件で横から掻っ攫った。
麗は実に簡単に明彦の妻になった。
麗を社長にしたのは、明彦があの父親を誘導したからだ。
愚かな彼は最後まで麗を傀儡にした明彦が会社を須藤ホールディングスの子会社にするのだと思って死んだだろう。
結果、寄る辺がない麗は案の定、明彦に頼り切りになった。
麗音への依存を明彦にシフトさせていく。
戻ってきた麗音が、明彦から麗を取り戻すために大学時代、麗に惚れていた角田を雇ったようだが、問題ない。わざと二人を近づけて、激しく嫉妬してみせ、麗は明彦以外と恋愛をしてはいけないのだと学ばせるために利用した。
麗は母親が愛人だったためか潔癖なところがあり、不倫はしないとわかっていたからできたことだ。
だから麗の劣等感を刺激して、更に明彦に対して罪悪感を抱かせた。
明彦を選ばないから、強制的に選ばせた。できることをすべてして、手に入れた、それだけだ。