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桃赤
迎えに来たよ
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俺が君に、想いを伝えた高校時代。
後悔しないように、たくさん愛を伝えて、
愛を確かめ合ってきた。
高校に入学したときは、
いつも一緒にいる仲の良い子。
卒業した頃には、
小さい町でくっついた伝説のカップル。
そんな名をつけられていた俺たち。
高校を卒業した日。
俺の彼女は、
『やりたいことがある。』
そう言って、地元を離れ、上京した。
止めようか迷った。
でも、俺には彼の夢を諦めさせる権利なんてない。
俺は、彼が夢を叶えてくれる、
と信じることしかできなかった。
そして卒業式から8年経った今も、
俺たちは離れたところで、
自分のやりたいことを、
自分の好きなように続けている。
______________________________
昔からアニメ好きで、
声優を目指していた赤は、
声優学校に通い、
今ではテレビに出れるほどの売れっ子に。
俺は医者になりたいという夢を掲げ、
26歳の今、研修2年目の研修医として、
病院を走り回っている。
田舎の中で、唯一の総合病院。
ほとんどの人が顔見知り。
でも、遠く離れたところから、
心を癒しに来る患者さんもいる。
そして今日は、赤が戻ってくる日。
なかなか休みがとれなくても、
5日間くらい仕事がない稀な時に、
わざわざこっちに来てくれる。
赤『……、』
赤『……っ!』
電車から降りて、
駅のホームで俺を見つけると、
目を見開いてこっちに走ってくる
俺の愛しの彼女。
田舎の駅。
ここで降りる人はいない。
改札を通って、スーツケースを放り投げて
俺の腕に飛び込んできた赤。
赤『桃くーん!!』
桃『うぉっ、』
桃『おかえり、赤ニコッ』
赤『えへへっ』
赤『ただいま!』
いちばん幸せな時間。
赤『てか迎えに来なくていいって言ったじゃん…、』
桃『俺がしたいからいいの。』
赤『んーっ、』
桃『長旅お疲れ様笑』
いつまでも変わらないこの関係。
たまにやってくるこの時間が、
俺たちは幸せなんだと気づかせてくれる。
赤『えー、ここの店潰れてる!』
桃『まじやん』
赤『お前が知らなくてどうするんだよ』
研修医というものは、
給料が低すぎるくせに
普通の医者より働かせられるし、
ブラックだと言いたい。
最近は家と病院を往復してばっかりで、
周りの景色を見れていなかった。
赤『俺も今日休みだけど、桃くんもちゃんと休んでね。』
桃『できたら、な。』
赤『うーん、…俺もだな。』
2人とも急用が降ってくる仕事で、
こうして休んでいる今も、
赤はマネージャーさんから連絡が来れば
東京に戻らないといけないし、
俺も病院から電話が来れば急いで行かないといけない。
だから、2人のスケジュールを噛み合わせるのが難しかった。
桃『休みはちゃんと、な。』
赤『わかってる。』
赤『久しぶりの家ー!』
桃『落ち着け』
桃『お前が住んでたわけじゃないだろ』
赤『たしかに。』
高校卒業してすぐ上京した赤は、
別にその前に俺と一緒に住んでいたわけではなかった。
赤『そ!ほら、見てー!』
桃『なぁに』
赤『じゃじゃーん!』
そう言って見せてきたのは、
いかついピアス。
毎度毎度会うたびに増えている。
桃『おお、かっこいいじゃん、』
赤『えへへ〜』
赤『でしょー?』
「赤本体は可愛いけどな。」
とかは言わないでおく。
赤『……それと、』
桃『…?』
赤『はい!お土産!』
桃『えっ、いいの?』
赤『東京に行ったことない田舎育ちの方に、都会のお土産です(煽)』
桃『うるせぇな笑』
桃『めっちゃ嬉しい。ありがとう。』
そして、毎度毎度会うたびに、
重い荷物の上に、お土産を買ってきてくれる。
おかげで俺の家は赤のお土産だらけの部屋と化しているが。
赤『………、』
赤『……桃くんはさ、……』
桃『ん?』
赤『……俺がやりたいようにやってて、寂しいとか思わないの?』
俺がいつも通りお土産をどこに置こうか
考えている時、何を言い出すかと思えば、
いつもの彼からは想像できないような、
不安そうな声が聞こえた。
衝撃だった。いろんな意味で。
赤はそんなこと考えてないって思ってたから。
寂しい想いが、全くないわけじゃない。
俺だって自分の夢を追いかけたい。
でも、彼の夢も応援したい。
赤の夢と俺の夢。
二人の時間。
それが噛み合わなかっただけ。
両立していない事実に、気付かないふりをする日々。
赤『桃くん、俺がこっちに来るたびに、笑顔でいてくれる…、』
赤『だから、寂しくないのかなって、……』
寂しくない、も。
寂しい、も。
大丈夫、も。
きっとここで言ってはいけないNGワード。
俺は、いつまで自分の気持ちに嘘をつかなければいけないんだろうか。
桃『……、』
桃『…寂しくないわけじゃない。』
桃『でも、…寂しいわけでもない。』
桃『今は、赤の夢を応援したい。』
桃『それが、優先順位のいちばん上に来てるだけ。』
俺は、どうしたらいいんだろう。
あの時、ここじゃなくて、
東京の大学で勉強するって言っていれば、
赤はここまで悩む必要なかったのかな。
桃『若いうちは好きなことして。』
桃『歳とったら、ずっと一緒にいる。』
桃『それじゃ、…だめ?』
これが、今出せるいちばんの選択。
赤『……笑』
赤『ううん、十分すぎるくらい。』
赤『ありがとう』
桃『……もーう、かわいい奴め!』
赤『はぁ⁉︎俺今なんもしてなかったでしょ!』
今はきっと、これで十分。
夢を追いかけるなら、一緒にいなくても、
愛は伝わってるものだよね。
桃『今日の夜ご飯何にしよっか?』
赤『んー、』
赤『桃くんの愛が詰まったとびっきりのオムライスで!』
桃『ん、わかった』
桃『荷解きしとけよ〜』
赤『はーい!』
桃くんにいろいろ考えさせちゃったな、
と少し後悔。
俺が東京の声優学校に行って、
声優になるっていう夢は、
人生をかけてでも叶えたかったもの。
彼も彼の夢があって、
俺も俺の夢があって、
それぞれの夢を叶えるために、
一度通らなければならない道だということは、
わかってる。
少しだけ期待していた。
彼が、ついてきてくれるんじゃないかと。
実際そんなことはなくて、
苦しい表情をするばかり。
遠距離恋愛。
時間が経てば寂しさも忘れるなんて思ってた俺が馬鹿だった。
いつまで経っても変わらない気持ち。
戻りたいと、思ってしまう気持ち。
今更戻れないなという、後悔の気持ち。
全部の気持ちが合わさって、聞いてしまったことだった。
「寂しくないのか」と。
少し時間が空いた後に、返ってきたのは、
すごく曖昧な回答。
普段はストレートな発言ばっかりな彼だから、嘘をついている、と真っ先にわかった。
桃『〜♪』
赤『…、』
俺が夢を目指したのが悪かったのか。
二人が生まれた町が悪かったのか。
好きになってしまったのが、悪かったのか。
その原因を探してしまえば、もう終わりだろう。
結果はいつだって同じ。
誰も悪くない。
赤『大好きなのは変わらないし、……』
桃『ん?なんかいった?』
赤『ぁ、…ううん!なんでもない!』
桃『そっ、』
俺たちが愛し合っている事実があれば、
大丈夫……なのかな。
でも、そんなの綺麗事にしか聞こえない。
俺から離れたのに、
今、ここから離れたくなくて、
戻りたくて、
夢を応援してもらっている身なのに、
こう思ってしまっている自分が嫌いだ。
桃『あのさぁ、赤。』
赤『ん?』
桃『赤の今進んでる道は、ちゃんと正しいからね。』
さっきまで鼻歌を歌っていた彼が、突然口を開いた。
遠回しに、でも確実に俺の心を救ってくれる。
赤『大丈夫だよ』
会話は何一つ成立していない。
そこには確実に愛がある。
俺たちが今、この場所にいるのが証拠。
桃『はいできたよ〜』
赤『わーい!』
桃『桃ちゃん特製にゃんにゃんおむらいちゅ♡』
赤『じゃあ明日は赤くん特製わんわんおむらいちゅだね』
桃『オムライス地獄じゃん、』
赤『嘘!食べよ!』
桃『はい、座って』
赤『いただきまーす!』
桃『いただきます』
久しぶりに食べる、桃くんのご飯。
あーあ、この幸せが一生続けばいいのに。
赤『おいしい』
桃『よかった、オムライス作ったことねぇんだわ』
赤『え、そうなの?』
桃『そう』
ご飯も食べ終わって、
一緒にお風呂も入って、
何か起こるのかなって思ったらただ寝るだけだった。
赤『え?もう寝るの?』
桃『そうだけど』
赤『なんだ』
桃『は?何が言いたいんだよ』
桃『俺だって我慢するときは我慢するさ』
赤『いや、…』
赤『桃くんって性欲おばけじゃなかったのかなって、』
桃『馬鹿か。』
桃『変態なのはお前もだろ』
赤『はぁい⁉︎』
赤『変態に開発したのはお前だろ!』
桃『うるせぇな』
桃『今日はお前に何言われてもやんないからな』
赤『…』
赤『ねぇ、お散歩しない?✨』
桃『しない。』
赤『コンビニ行かない?』
桃『行かない』
赤『げーむしない?』
桃『しない』
赤『…』
赤『俺のためとか言わないでね、』
桃『さぁな』
赤『おやすみ』
桃『おやすみ』
同じベッドに寝ているはずなのに、
どこか遠い。
普段の生活のように。
よく周りが見えてて、
自分の気持ちを抑えてでも、
周りに気を使う彼だから、
今日だって我慢してるんだなって思う。
後ろを振り返ると、
いつも大きく見える背中が、
小さくまるまっているのが見えた。
いつもこんな風に寝てるのかと思うと、
なんだか申し訳なくなる。
今桃くんと一緒にいるところだって、
週刊誌に撮られたら…
桃『…なに、してんの。』
赤『ぇっ!』
桃『早く寝ろよ』
桃『休みなんだから。』
赤『ぅん、』
彼にはすべて、お見通しみたい。
何も考えずに寝られたら、どれだけ幸せか。
俺が本気で真面目に寝ようと、
桃くんに背を向けると、
後ろからバッグハグをされた。
赤『桃く、…』
桃『今だけ、だからな。』
赤『……、』
そう耳元で囁かれると、
なんだか安心してすぐ寝ることができた。
『おやすみ』と言ってから、
ずっと後ろでもぞもぞしている音が聞こえていた。
寝れないんだろうな、とか思いつつ、
実は俺も寝れていない。
2日後にはこのベッドも空っぽになっているんだと思うと、胸が苦しくなる。
ずっとこのままだったらいいのに。
そう、何度思ったことか。
後ろから赤に抱きつくと、
すぐ可愛い寝息が聞こえた。
さぁ、俺はどうしようか。
不安でいっぱいの夜。
明日しか、2人でいる時間がない。
どうか明日、仕事が来ないでくれと祈る。
明日は何をしよう。
どう愛を伝えたら、素直に戻ってくれるかな。
桃『はぁ、…』
寝れる気がしなかった。
寝れなかった。
気づけば外が明るくなっている。
4:23am.
隣を見れば、小さくまるまって寝ている俺の犬の姿。
その姿に、頬が緩む。
ちょっと早いけど、朝ごはんでも作ろうか。
ずっと一緒にいられるのも、今日だけ。
今日はすごく特別な日なのだ。
疲れてるだろうし、寝かせてあげててもいいかな。
桃『ぉしっ、』
可愛い彼女を置いて、リビングへ足を運んだ。
朝起きると、隣に彼の姿はなかった。
もう起きたのか、早いな…、
スマホを確認すると、どうやら今は8:30らしい。
最近は仕事でこんな遅くまで寝ていることがなかったから、すごく新鮮である。
リビングに行けば、机と向かって顔を顰めている桃くんの姿。
机を見れば、勉強していることがわかる。
赤『おはよ、桃くん』
桃『あぁ、赤おはよ』
赤『勉強してたの?』
桃『まぁちょっとは、』
疲れているからなのか、
寝起きだからなのかはわからないが、
いつもより少し低い声にドキッとしてしまう。
赤『研修医でも勉強しないといけないんだね…』
桃『研修医は勉強するんじゃないの?笑』
赤『確かに!』
桃『www』
赤『バカにすんなよ、』
桃『朝ごはんできてるよ、食べちゃおっか』
話逸らしやがって。許さない。
赤『…、朝ごはん、何作ったの?』
桃『普通にふれんちとーすと。』
赤『おいしそぉ!』
桃くんはキッチンでいろいろやっているが、
心なしか桃くんがふらふらしているような気がする。
昨日、何かあったんだろうか。
どこか体調でも悪いんだろうか。
いつも俺のことばっかりで、
自分のことは二の次の桃くん。
いつも泊まる時は、桃くんを先に寝かせるって決めてたのにな…
あー、やらかした。
桃『はいどうぞ』
赤『え⁉︎桃くん天才⁉︎』
桃『そんなに褒めてもなんも出てこねぇぞ笑』
赤『んふふっ、おいしい』
この幸せが、ずっと続いてくれたらな。
昨日の赤の話も踏まえて、
特にどこに行くとかはせずにお散歩しに行くことにした。
赤『うーっ、さむい、』
赤『さすが冬だね…』
寝不足だった俺は、
赤の笑顔でどんどん元気になっていった。
やっぱり俺には、赤がいないとダメなんだな。
そう、強く感じる。
赤『桃くーん、』
赤『写真撮ろー、』
赤『次来れるの、いつになるかわからないし!』
桃『うん、わかった。』
散歩とは言ったものの寒さには弱い俺と赤。
写真を撮って、すぐ家に帰った。
赤『ねぇ桃くん、…』
桃『ダメ。』
家に帰るなり、俺を誘惑するような目つきをする赤。
こんなに体はちっちゃいのに、
完全に大人の目をしている。
赤『えー?なんでよー、』
桃『腰痛くなったら困るだろ』
彼に無理はさせたくない。
赤『いいよ、そんなの。』
桃『だーめ、今回はやんないの。』
桃『そんな時間だってないでしょう』
赤『むぅ、』
大切な人を大切に思っている。
ただ、それだけの話。
彼だって帰ったその日には仕事だってある。
無理だけは、してほしくなかった。
赤『あ!じゃあお勉強会しよ!』
桃『はい?』
赤『学生の頃よくしてたやつ!』
赤は台本読み。
俺は国家試験は終わっているが、
医者になるための勉強。
それぞれが、それぞれの夢に向かって走っている。
その言葉を、再現したような光景。
学生の頃は、こんなこと考えてなかった。
思い出される記憶。
赤『桃くーん!』
桃『バカ。そんな大声出さなくても隣にいるだろ。』
赤『えへへっ』
隣から大声で叫ばれて。
赤『桃くん、ここわかんなーい、』
桃『はい?』
桃『そこ今日授業でやったじゃん…』
赤『だってわかんないんだもーん、』
細かく教えても、全然理解してもらえなくて。
桃『赤ー?』
赤『……zzz』
桃『…はぁ、』
気付けば寝てた。
そんなこともあったな。
桃『赤ー?』
赤『……zzz』
桃『デジャヴ…』
かわいいな。
ハードスケジュールの中、よく頑張ってるよ。
桃『お疲れ。』
赤『んっ、』
俺はどうやら勉強会の途中で寝ていたらしい。
毛布までかぶさってる。
上を見上げれば、
整った顔が勉強してやがる。
いやもう夜じゃん。
桃『……、あれ、起きた?おはよ。』
赤『寝ちゃったぁ笑』
桃『かわいかったよ、』
赤『は⁉︎/』
いつも不意打ちだから、
俺の顔が赤くなるのは不可避である。
桃『もう夜だなぁ、』
赤『ぁー、』
もう、夜なのか。
明日の昼には戻らないといけない。
赤じゃない。
莉犬がいるべき場所に。
桃『夜ご飯作っちゃお。』
桃『赤は明日の準備してて』
桃『お風呂は一緒に入ろ』
赤『ぁ、』
赤『うん、』
次はいつになるかわからない、
桃くんとのご飯。
お風呂。
一緒のベッド。
昨日来たばっかりなのに、
もう明日帰らなければいけない。
桃『赤。』
赤『ん?』
桃『おいでっ、』
赤『んっ、』
ベッドの上で、桃くんの胸の中に飛び込む。
桃『大丈夫。』
桃『離れても、ずっと一緒。』
赤『……、』
寂しさで、涙が溢れてきそうになる。
俺のほうから離れて行ったのに。
桃くんの方が寂しいはずなのに。
赤『約束…破んないでね。』
桃『当たり前。』
そんな会話を交わして、
俺たちの最後の夜が終わった。
次の日の朝。
朝起きると、また隣に彼の姿はない。
香る朝ご飯の匂い。
作ってくれたんだなぁ。
俺がリビングに行こうとすると、
俺のスマホがなった。
赤『こんな朝に……誰?』
スマホに表示された、”マネージャーさん”の文字。
赤『うわっ、俺なんかやらかしたっけ?』
そんな独り言を部屋に飛ばし、電話に出る。
赤「もしもし、」
マ「赤くん、?」
赤「どう…しました、?」
マ「昨日、休暇中…彼氏さんと外出ましたた?」
赤「出ました…けど、」
マ「週刊誌に…撮られちゃってて…。」
赤「は⁉︎」
衝撃の言葉。
たしかに昨日は帽子もめがねもつけてなかった。
マ「見事に手繋いでるところ。」
赤「……、」
桃くんにもこれから迷惑かけたらどうしよう…、
マ「大丈夫。こっちの力でなんとかねじ伏せときます。」
赤「とりあえず、…俊足で帰ります!」
マ「事務所で待ってます。」
まじでどうしようか。
お昼ぐらいに帰る予定だったのにな…、
いちばん早い便に変えよう。
桃『あ、おはよう。赤。』
桃『すぐ戻らないとでしょ?』
桃『朝ご飯ぱっぱと食べちゃいな』
赤『え…、聞いてたの、』
桃『聞いてはない。電話してたからそういうことなんだろうなーって。』
なんなんだ……
週刊誌に撮られたこと、言わなきゃ。
赤『実はね、桃くん…』
桃『ん?』
赤『週刊誌に…熱愛報道って撮られちゃって、』
桃『……そっか。』
赤『迷惑かけて、ほんとにごめん。』
桃『迷惑じゃない。それだけは言える。』
桃『安心して戻りなニコッ』
あぁ、これだから桃くんは。
離れたくなくなっちゃうじゃん。
人生の危機なのに。
朝ごはんも食べ終え、なるべく目立たない服に着替える。
桃『うわー、すごい新鮮。』
桃『いかつくない赤。』
赤『こっちはバレないように必死なの!』
次はいつ来るかわからない家。
この家を見ていると、目尻が熱くなる。
赤『ほんとにごめんっ、』
赤『俺がちゃんと周り見てたら、…』
桃『大丈夫だよ、な?』
赤『でもっ、』
桃『いいから!』
赤『ぇっ、』
桃『ほら行くよ〜、』
少し強引に赤を居るべき場所に戻す。
駅の改札の前。
次はいつになるかわからない。
赤『桃くん、俺…行きたくないよ』
桃『俺だって行ってほしくない。』
二人でずっとここにいたい。
それは紛れもなく、二人の本音である。
赤『俺から離れて行ったのに…ポロ』
赤『嫌だよ、俺…』
赤が泣いて嫌がるのは初めてだった。
俺の夢。
彼の夢。
どちらか一方が夢を諦めなければ、
俺たちが一緒になれることは、
これから先きっとない。
俺が、夢を諦めるべきなのか。
桃『……、』
赤『桃ちゃ、ちゅー、して。』
桃『……、ちゅっ、』
赤『んっ、…』
赤に強請られて、
見られてるなんて関係なく、
重なり合った唇。
桃『いつか迎えに行くよ。それまで待ってて。』
赤『へっ、』
桃『赤も、頑張れよニコッ』
赤『うんっ、』
桃『ほら、行ってこい』
この選択が果たして正しいのか。
そんなの俺にはわからない。
無駄に期待させるだけかもしれない。
逆に悲しませてしまうかもしれない。
それでも、今は_________。
桃『赤ー!』
電車に乗ろうとする赤に向かって叫ぶ。
桃『大好きー!!』
返事は聞こえなかった。
きっと泣いているから。
スマホがなったと思えば、
“俺も大好き。頑張ってくるね。”
という赤からのメッセージ。
俺たちは、この町の伝説のカップル。
だから、どれだけ離れていても、
大好きなのは変わらない。
今も、これからも。
ずっと。
___________________________
桃くんと離れたあの日から、5年。
お互いの仕事の都合で、
この5年間、会えることはなかった。
お互いに大好きと伝えて。
離れていてもずっと一緒だと約束して。
その言葉をお互いに信じ続けて、
今を必死に生きている。
赤『あー、疲れたなぁ』
アフレコ一気撮り。
テレビの収録。
試写会。
ラジオ。
そんなタスクを乗り越えて、家に帰る。
赤『ぁれ、』
いつもの帰り道。
でも、今日はやけに満月の月が大きく見える。
そんなニュース、やってたっけ。
赤『綺麗だなぁ、…』
桃くんと見られたら、なんてね。
そんなことを考えていたら、桃くんから電話がきた。
赤「もしもし?」
桃「仕事終わり?お疲れ様。」
赤「ありがとう、」
相変わらず月は輝いている。
空を見ながら、帰り道の橋に寄りかかる。
桃「今日、何撮ってたの?」
赤「新作の映画。」
赤「スケジュール俺だけ合わなかったから別撮りw」
桃「無理しないでね、」
赤「桃くんもね、」
今日で5年。
5年間も、彼と会えていない。
なんだか悲しくなる。
桃「赤。」
赤「んー?笑」
桃「月が綺麗ですね。」
赤『っ!』
桃くんからの突然の、衝撃の一言。
とともに後ろから抱きつかれた感覚。
懐かしい匂い。
桃色でサラサラの髪の毛。
俺の大好きな人。
桃『迎えに来たよ、赤。』
赤『バカっ、ポロポロ』
赤『どれだけ待ったと思ってるのグスッ』
桃『遅れてごめん、』
そう言って、俺の手を取る。
左手の薬指につけられた、綺麗な指輪。
桃『赤。』
桃『俺、赤のこと絶対幸せにするよ。』
桃『俺と、結婚してください。』
これを、5年間待っていた。
今の幸せがあるなら、これまでの寂しさも全て忘れられる。
赤『桃くん。』
赤『ずっと月を見ていましょうグスッ』
桃『ふはっ、』
桃『絶対、幸せにするから。』
桃『嬉し涙しか流させないよ。』
そうかっこつけながらも、
実は泣きそうになってるの、
俺は知ってるよ。
赤『幸せにしなかったら、許さないから!グスッ』
桃『バカ、俺のことなんだと思ってんの。』
赤『えへっ、』
赤『……世界一かっこいい俺の旦那さん!ニコッ』
桃『っ笑』
桃『じゃあ赤は、』
桃『世界一可愛い俺のお嫁さん、だなニコッ』
今まで、たくさん我慢してきた俺たちなら、
幸せな家庭を築いていける。
離れていても、
悲しくても、寂しくても、
世間の目がまだまだ厳しくても、
世界一幸せな俺たちなら。
2人の薬指には、人生が終わるその時まで、
綺麗な愛の証がついていた。
end.
________________________
みなさん、あけましておめでとうございます!
新年一発目のストーリー!
どうだったでしょうか?✨
今年もよろしくお願いします!
コメント
14件
最後です❤️ 桃赤大好きなのでこの話 泣けました(இωஇ`。) 作者さん天才ですね💕︎(*^^*)
私の好みの作品すぎてコメントせずにはいられませんでしたㅠ ‧̫ ㅠ♥︎♥︎ 新年そうそうこんな素敵な作品を見れてしあわせです🥲♡ ブクマ失礼します👊🏻💗
桃赤最高です!ありがとうございます😭