テラーノベル
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キルシュトルテ視点
ゴーン、と低音が響き、町に朝を告げる。空気が重く揺れ、目を覚ます。なんだか胸騒ぎがして、その日の寝起きはとても良いとは言えなかった。
何か嫌な予感がする。
「……弐十くん…?」
家のドアを思い切り開ける。ドン、と鈍い音がしたが今はそちらに気にする暇はなかった。
とにかく、町に降りる。
太陽に雲が被り、空気が少し冷たくなる。
町に降りると、商人たちが昨日の市場の片付けをしていた。市場の楽しさの余韻を引きずっている、訳でもなく、皆ただ一つの話題で会話を交える。
「勇者が…」「勇者様」「人を殺した」
「勇者」という単語が耳に入る度、胸の中がジリジリと熱くなる。
それでも、どこへ行っても「勇者」の声が付き纏う。
「エクソシスト様ッ!!」
「…ッはい…?」
「勇者様の話題、知っていますよね」
「信じていたのに…失望しました」
どこかの商人だろうか。眉を顰め、目には涙を浮かべている。
失望?意味がわからない。
こいつらは弐十くんが人を殺したところを自分の目でしっかりと見たのか。見てないだろう。それなのに、なぜ弐十くんがここまで蔑まれなければいけないのか。
とうとう俺の胸は焼き切れ、気付けば声を出していた。
「黙れっ!」
こんなとこで誰だか知らないやつを相手にしている場合ではないのだ。
行かなければいけない、勇者の家に。
「な…ッ!」
「エクソシスト様…ッッ!」
ぬるく重たい空気を突っ切り、町の外れへと進む。
草を掻き分け、地面を突き放すように蹴る。
「弐十、くん…ッ!」
ある程度走り、木造で質素な家が見えてくる。
風が吹く。
扉が音を軋ませながら、家の中を覗かせる。
「鍵が…開いてる……?」
家の中を見渡す。
ある程度の家具は置かれているが、弐十くんが普段使っている武器などは見当たらないのと同時に、その本人も確認できない。
「あいつ……ッ!」
考えるよりも先に体が動いていた。
向かい風をねじ伏せて山を下る。
探さなければいけない。
勇者を。
弐十くんを。
町に降りて、通りに並ぶ店の戸を順に開けていく。
どこにいるかの手掛かりもない。片っ端から確認していくしかないのだ。
「くそ…ッ、ここもいねぇ…」
隣へ隣へと、次々と見て回る。
「おわ、兄ちゃんどうしたんだい!?」
「さーせんッ、今クソ急いでて」
バーカウンターにいたおっさんに話しかけられる。その視界の端に、見覚えのある水色の頭が映る。
「キルくん!?」
「シードッ!」
「何しとるん!?」
「弐十くん!消えた!!」
「は…ッ!?」
「弐十の野郎…ッ!」
シードが舌打ち混じりに吐き捨てて、椅子を鳴らして立ち上がる。
「おにーさん、どこ行くの!?」
「せっかく勝っとるのに」
背後から、困惑交じりの声が飛んでくる。
「えぇよ、ねえちゃんそれで美味い酒でも買い!」
「えっ…!」
俺は息をつく間もなく店を出て他の店へと回る。
「キルくんッ!」
爱 . @ 新垢
桜奈
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえ、反射的に振り返る。
「どういうことなん…!?」
「俺も分からんッ、とりあえず探すぞ!」
考えている暇はないのだ。とにかく見つけるんだ。
「俺、あっち探しとるね!」
そう言って、シードは俺とは反対の方向に進んでいく。
「あざ!!」
通りの店を全て見終わり、人々が蔓延る広場へ出る。
「さーせん、通ります!!」
人と人との間をなるべく速く進んでいく。
その中で1人の男性と肩ぶつかる。
「あ…っ、さーせ…」
「ん」
「キルじゃん!」
振り向いた先に、見慣れた顔があった。
「ニキ…!」
市場の片付けの見回りだろうか。周りには護衛がいて、俺を見て少し身構える。
「何してん…」
「弐十くんがいない!」
「探すぞッ!!」
「は…ッ、弐十ちゃん…!?」
ニキにそう叫びながら、振り返らず走り続ける。
「俺、ボビーに言ってくる!」
「うい!!」
ニキ視点
弐十ちゃんがいなくなった。キルが焦り散らかしている。当然だ。あいつのことだ、何をしでかすか分からない。
もしかしたら…、と嫌な予感に蓋をして、ボビーの学校へ向かう。
校庭には子供たちがいて、皆杖を持っている。魔法の実技だろうか。
「ボビーは…ッ」
くそ、もう考えてる時間などない。
胸をあげて、思いっきり息を吸い、空気を裂くように叫ぶ。
「ボビーーーーッッッ!!!」
しろせんせー視点
「せんせー、ここ分かんない」
「おん、どれどれ」
生徒に呼ばれ、質問に答える。
「わ、分かった!ありがとう!」
「へい、どういたしまして」
やっぱり、生徒に頼られて、ありがとうと言われると、どれだけ働いていても嬉しいものだ。顔は引っ掻かれるけど。
「ボビーーーーッッッ!!!」
「…え?」
「せんせー、ぼびい、ってなに?」
「ちょ、ちょっと待ってな」
窓の外から俺を呼ぶ声を聞く。窓を覗くと、そこには黒いお忍びのマントを被ったニキがいた。
は!?なんでおるん?
「は…!?」
ニキは俺が気付けていないと思ったのか、マントを取り払い、俺に向けて大きく手を振る。
「ボビー分かるーー!?俺ーー!」
「は、お前…っ、分かっとるわ!!」
アホ。あんな堂々とマントを外してしまえばバレるだろう、と呆れていると、案の定子供たちが王子の方へ走り出す。
「おうじさまだ!!」
「かっこいい!」
子供達が目を輝かせる。
「ボビー!!弐十ちゃん!どっか行った!!!」
ニキは子供たちの歓声を突き刺すように、俺に叫ぶ。
「…ッまじかよ、」
「皆ごめんね、しろせんせー、ぶっ倒れそうだからさ、早退するって他のせんせーに言っといてくれるか?」
「わかった!!」
「うし、ええ子!」
子供の頭をわしゃわしゃと撫で、その手をそのまま窓のサッシへと掛ける。
窓枠を蹴り、校庭へ飛び降りる。
「…あっ、しろせんせー!!危ないですよ!子供が真似したら…っ」
校庭にいた先生に叱られる。
「すいません!2階ならセーフっす!!」
「そういう訳じゃ…ッ」
先生には申し訳ないが、今はそちらに耳を傾ける以上に大切なことが目の前にあるのだ。
「ニキ!」
「おっしゃボビー、行くぞ!」
「おうじさま、行っちゃの?」
「ごめんね、王子様の大事なお友達のために行かなくちゃなんだ」
「そーなんだ、頑張ってね!」
「…っ、おう!頑張るな!」
ニキは、子供たちへはじけるような笑顔を向ける。
いい笑顔だな、と思いつつ俺もやる気を貰う。
「探せばええんよな?」
「うん、キルちゃんはあっちだからこっちの方探そ!」
「おし!」
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