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#シリアス
1週間後───
校舎の窓から差し込む陽光は、昼休み前の気だるさを孕んでいる。
体育の授業が終わるチャイムが響き
生徒たちが我先にと更衣室へ駆けていく中
僕と天馬くんだけがグラウンドの隅で、巨大なマットを抱えていた。
「これ、倉庫に入れたら終わりだな」
「うん…!」
天馬くんの快活な声に短く答え、僕たちは体育倉庫の重い扉を潜る。
一歩足を踏み入れると、そこには独特の「静止した時間」が流れていた。
古びたゴムの匂いと、埃っぽい沈殿した空気。
外の喧騒が嘘のように遠のき
高い位置にある小さな窓から差し込む一筋の光が、宙を舞う埃を白く照らしている。
僕たちがマットを定位置に下ろした、その時だった。
───ガラッ。
乾いた金属音が響き、外の世界との境界線が断たれる。
次の瞬間、追い打ちをかけるように響いたのは、心臓に直接突き刺さるような冷たい音だった。
ガチャン。
「……え?」
動きが止まる。思考よりも先に、背筋に冷たいものが走った。
「おーい!先生ー!まだいるんだけど!…って、ちょ、誰かいないの?!」
天馬くんが即座に駆け寄り、扉を強く叩く。
しかし、厚い木製の扉の向こうからは、風の音すら聞こえてこない。
返ってくるのは、自分の叩いた音が倉庫内に虚しく反響する余韻だけだ。
「……マジか、俺ら閉じ込められたっぽいぞ」
「うそ?!も、もう昼休み入るよね?!その間このままってこと?!」
「…たぶんな」
天馬くんがため息混じりに肩を落とす。
その瞬間、僕の視界は急激に狭まった。
薄暗い空間。
逃げ場のない、四方を壁に囲まれた檻。
胸の奥がひゅっと冷え、酸素が上手く肺に届かなくなる。
静寂が耳鳴りのように響き、古い記憶の断片が、泥水のように這い出してきた。
──真っ暗な物置。
──外から聞こえる嘲笑と、執拗にドアを叩く音。
──どれだけ叫んでも、誰も助けに来てくれなかったあの冬の日。
「…っ、は、……」
呼吸が浅く、速くなる。指先が氷のように冷たくなり、膝がガクガクと震え始めた。
嫌だ。
暗いのは嫌だ。
ここにいたくない。
「水瀬?」
天馬くんの声が届く。
けれど、今の僕にはそれが遠くの地鳴りのようにしか聞こえない。
「…ごめ、こ、わ……くてっ」
喉の奥から、情けないほど小さな悲鳴が漏れた。
その瞬間、天馬くんの顔色から余裕が消えた。
彼は一歩踏み出し、震える僕の手首を迷いなく掴む。
その体温は驚くほど高い。
「……水瀬、こっち来い」
抵抗する余裕もないまま、僕は隅に高く積まれたマットの上へと促され、そこに腰を下ろした。
「だ、大丈夫……っ、ぼく、平気だから……」
「無理すんなって、震えてんじゃん」
天馬くんのトーンが落ちる。
それはびっくりするくらい優しく、それでいて拒絶を許さない強さを持っていた。
彼がそっと顔を覗き込んでくる。
近すぎる距離に心臓が跳ねたが、それ以上に恐怖が勝っていた。
「……水瀬」
耳元で囁かれる名前。
次の瞬間だった。
ふわ、と。
熱を持った大きな掌が、僕の頬を包み込んだ。
驚きで目を見開いた僕の視界に
天馬くんの睫毛が、凛とした瞳が、吸い込まれるように近づいてくる。
「……え」
何が起きるのか理解する暇もなかった。
重なったのは、羽毛のように柔らかく、けれど心臓を鷲掴みにするような熱い感触。
唇に、彼が触れている。
「……っ!?」
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