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妖狐のおふとん
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昼休みのドッチボール。いつもなら最高の楽しみ。あたしが人気者のままでいられる場所。でも、今日はそんなことしてられない!体育館に行く列から外れて、トイレに入る。みんなが体育館に行ったのを確かめ、あたしは教室に戻った。
迪くんの机の中を覗くと、やはりそこには『ドッチボール入門』があった。
あたしはそれを取り出し、五時間目の図工で使うために持ってきた絵の具セットの中に隠した。
友達たちはあたしがドッチボールに遅れてきたことを不思議に思っていたようだけど、いつも通り相手にボールを当てていけば、ほめられるだけで追求はされなかった。
「澪ちゃん頑張れー!」
男子も女子も関係なく、味方から飛ぶ声援。その中に、迪くんの声。
計画の手順を頭の中で反芻し、あたしは密かに呟いた。
「あんたのことがだいっきらい」
最後まで残っていた男子の肩に、ボールが当たった。無邪気な歓声が一際大きくなった。
興奮の冷めないクラスメートをよそに、図工の授業が始まった。あたしは、先生の目が届きにくい最後列の席に座った。絵の具セットの中から、ドッチボールをする子供のイラストが覗く。みんなが画用紙に絵の具をのせる後ろで、あたしは、赤い絵の具で本のページを一枚一枚塗りつぶし始めた。
罵倒の言葉を記すことも、怒り任せに筆を走らせることもしない。ただただ、大嫌いなあいつの大事な本を、読めないようにしたかった。
塗りつぶす作業を終えて、画用紙には適当な絵を描いた。もともと期待なんてされていなかったから、先生にとやかく言われることもなかった。迪くんは、いちいち筆をきれいに洗う。それを先生がほめて以来、みんなも真似るようになった。だから、筆をちゃっちゃと洗ってしまえば、しばらく教室はひとりじめ。赤い絵の具のはみ出た本を、迪くんの机に戻した。
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