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#現代ファンタジー
裏五条
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#ライトノベル
umaimon
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ゑぬ。
197
画面の中では、きらびやかな衣装をまとった少女が、何かの宣伝らしい動画の中で笑っている。
陽の光を弾くような白い衣装と、宙を舞うリボンの軌跡が、小さな画面の中でもまぶしく映えていた。
「うん!魔法少女!」
「ほらっ、見てみて!!かわい〜っ!」
食い入るように画面を覗き込むイオリの目は、まるで星でも見つけたように輝いている。
「…確かに可愛いですけれど…。」
虚獣だの、警戒態勢だの。最近のニュースは、そんな重たい話ばかりだった。
誰もが口を揃えて不安を囁き、夜道を避け、子供たちの帰宅時間が早まった。
そんな閉塞した空気が、ここ最近の鳥名木市には当たり前のように漂っている。
だからこそ、画面の中だけに存在するその姿は、妙に現実離れして見えた。
「……なんというか、もうアイドルみたいですわね。」
アスカの声には、呆れと、ほんの少しの羨望がない交ぜになっていた。
「あ〜、確かに!」
「なんか、人気な子のやつはグッズとかもあるらしいよ!非公式だけど…。」
「同年代とはとても思えませんわ…。」
「うん、すごいよね〜!」
「朝から晩まで虚獣と戦って…メディアにも出て…。」
数え上げるたびに、イオリの声は弾んでいく。
「はぁ…ボクもなりたいなぁ、魔法少女。」
ぽつりと漏れたその言葉は、半分本気で、半分はただの憧れの吐露だった。
「あなた、本気で言ってますの?」
「本気だよ!」
「こんなキラキラした生活…絶対楽しい!」
「わたくしは絶対勘弁ですわ…。」
命がけの戦いを「キラキラ」の一言で片付けるイオリに、アスカは半眼を向ける。
「アスカちゃんはバイト忙しいもんね〜。」
「それもありますけれど……。」
言葉を濁すアスカをよそに、イオリの妄想はどんどん加速していく。
「ボクが魔法少女になったら…衣装はふわふわのスカートに…青のリボンとか!」
両手を広げ、まるでそこに本当に衣装があるかのように体を揺らす。
「で、武器は…キラキラのステッキ!」
「あなたに武器とかいりますの…?」
「全部こぶしでなんとかなりそうですけれど。」
「酷いよぉ!?」
「ボクだって年頃のか弱い女の子だよ!?」
イオリはステッキを振り回すようにカバンを振り回す。
「武器くらいいるよ!殴るために!」
「もう鈍器扱いしてる時点で論外ですわ!!」
その時だった。
「…わわ、えっ!?」
握っていたはずの鞄が、ふわりと宙に浮いた。
「はぁ…?!」
「ぼ、ボクのカバン!?」
「う、浮いてますわ…!」
まるで見えない手に引かれるように、鞄はするすると空へと昇っていく。
「ちょっ!?飛んでっちゃう!ま、待ってー!!」
「イオリさん!?ちょっと、待ちなさい!!」
慌てて追いかけるイオリの背中を、アスカの声が必死に追いかけた。
◇
通行人の視線が次々と突き刺さる中、イオリは鞄を追って路地を駆け抜ける。
(めっちゃ見られてるよぉ…!)
「止まってよボクのカバン!」
息を切らしながら追いつこうとするが、鞄はまるで意思を持っているかのように、ひらりひらりと高さを変えて逃げていく。
「はぁっ、はぁ……あいつ早すぎますわ……!!」
必死に追うアスカの声も、だんだんと苦しげになっていく。
「もうっ……!なにこれぇ…!!」
イオリが角を曲がった、その瞬間。
――ゴゴゴ…!
「きゃっ!?」
辺りの地面全体を揺らすような衝撃が響いた。
空気そのものが震えたような、重く鈍い音。それは、今まで感じたことのない種類の「異常」だった。
周辺の建物の窓ガラスが一斉に震える。
ビリビリと細かく共鳴する音が、通りの端々から聞こえてくる。
「……っ!?」
足元まで揺れ、イオリは思わず立ち止まった。
直後。
街灯の上部に備え付けられたスピーカーから、機械的な放送が鳴り響く。
『緊急警報。虚獣の出現を確認しました』
『皆さん、速やかに――』
その先の言葉は、人々のざわめきにかき消されていく。
「……虚獣…。」
イオリが呟いた瞬間。
遠くから、低い咆哮が響いた。
地の底から這い上がってくるような、重く濁った唸り声。耳だけでなく、腹の底にまで響くその音に、周囲の空気が一段と張り詰める。
(……また出たんだ…。しかも、結構近い…?)
好奇心と恐怖が同時に込み上げ、足が自然と動きを止めていた。
「はぁ…はぁ…っイオリさん!何ぼーっとしてるんですの!」
後ろからアスカが息を切らして追いついた。
「あ、アスカちゃん…!ボクのカバンが……!」
「はぁ…!?カバンはもういいですわ!」
いつものお嬢様口調が崩れるほど、アスカの声は切迫していた。
「すぐ近くまで虚獣が来てるんですの!さっさと逃げますわよ!」
「えっ、で、でも!」
「でもじゃありませんわ!本当に死にますわよ!?」
容赦のない一言に、イオリの喉がひゅっと鳴った。
「………わ、わかったよ。」
――ガシャンッ!!
何かが崩れるような、硬質な破砕音。
「きゃっ!?」
「こ、今度はなに…?!」
突風のような圧が、二人の髪とスカートを一斉に巻き上げる。
「……っ!なんて風圧ですの…。」
「ふ、吹き飛ばされちゃうよぉ!!」
体勢を崩しかけながら、イオリは必死にアスカの腕を掴む。
「アスカちゃんっ、もう逃げよう!」
「っ…イオリさん…わ、わたくし…。」
「足が…す、すくんで、動けませんの…。」
いつも気丈なアスカの声が、初めて震えていた。膝が、まるで根でも生えたかのように地面から離れない。
「えっ…?」
「……そ、それなら…!」
「い、イオリさん…!?な、何を……。」
震えるアスカを背にかばうように、イオリは一歩前に出た。
「ボクが時間を稼ぐから!アスカちゃんは先に逃げて!」
「な、何を言っていますの…!?」
「無茶に決まってますわ…!!」
「無茶じゃないよ!!」
「ボクが……っ。」
言い切るより先に、強い風圧がイオリの身体を押し流した。
「……ぅわぁっ!!」
「イオリさん!!」
地面に叩きつけられる鈍い痛みに、思わず息が詰まる。
「……っ、いたぁ……。」
「………アスカちゃん…。」
震える声で名を呼び、イオリはゆっくりと振り返る。
アスカは動けずにいる。
その場に立ち尽くしたまま、ただ青ざめた顔でこちらを見つめていた。
イオリは、ぎゅっと拳を握った。
「……ボク。」
昨日の帰り道を思い出す。
『はぁ……ボクもなりたいなぁ、魔法少女。』
ふわふわのスカート。
青いリボン。
キラキラのステッキ。
あんなの、ただの憧れだった。
テレビの向こう側にいる、遠い存在。
自分とは関係のない、画面の中だけの誰か。
でも。
「……なりたい。」
小さく呟く。
その声は、誰に届けるでもなく、ただ自分自身の胸の奥に落ちていった。
「…ここでならなきゃ!」
胸の奥が、熱い。
何かが、今まさに応えようとしているかのように。
「……え?」
どくん。
心臓とは違う。
身体のもっと奥。
何かが、脈打った。
「なに……これ。」
どくん。
もう一度。
今度は、はっきりと分かった。
自分の中に何かがある。
ずっと眠っていた何かが。
今、目を覚まそうとしている。
「イオリさん……?」
アスカの声が遠く聞こえる。
まるで水の中にいるかのように、周囲の音が薄く、遠のいていく。
イオリは胸元を押さえた。
「……ボク。」
身体の奥から、熱が溢れてくる。
怖いはずなのに。
不思議と嫌じゃない。
むしろ。
ずっと探していたものを、ようやく見つけたような感覚だった。
胸の奥で何かがかちりと噛み合う、そんな確かな手応えがあった。
「……魔法少女に。」
光が漏れる。
指先から、淡く、しかし確かな光が滲み出していく。
「なりたいの!」
その瞬間。
――パァァァッ!!
イオリの身体から、青白い光が溢れ出した。
「……い、イオリさんっ!?」
アスカが目を見開く。
光はイオリを包み込み、髪を揺らし、身体の周りを渦巻いていく。
まるで無数の光の粒子が意志を持って踊っているかのように、イオリの輪郭をなぞりながら渦を巻いた。
制服が光の粒へと変わっていく。
白。
青。
そして、淡い光。
三色が混ざり合い、溶け合いながら、新しい何かへと形を変えていく。
「な、なんですの……!?」
アスカが混乱したように言う。
イオリ自身も何が起きているのか分からない。
ただ。
身体が軽い。
まるで重力そのものが緩んだような、ふわりとした浮遊感。
胸の奥から、力がどんどん溢れてくる。
「……すごい!」
思わず笑みがこぼれた。
光が弾ける。
辺りに満ちていた光の粒が、花びらのようにゆっくりと舞い落ちていく。
イオリは、自分の手を見つめた。
服装が変わっている。
ふわりと広がるスカート。
裾には繊細なフリルが幾重にも重なり、歩くたびに淡く光を弾く。
青いリボン。
胸元で大きく結ばれたそれは、まるで最初からそこにあったかのように馴染んでいた。
そして。
手には、きらきらと輝く一本のステッキ。
「…………。」
数秒。
イオリは固まった。
「……え。」
ステッキを持ち上げる。
「……ええ?」
自分の姿を見る。
「……ええええええ!?」
目を輝かせる。
「魔法少女だぁぁぁぁぁ!!」
「ちょ、ちょっと!!」
アスカの制止など聞こえていない。
イオリはその場でくるくる回った。
スカートの裾がふわりと広がり、光の残滓がきらきらと尾を引く。
「すごい!ほんとになった!!」
「何を呑気に喜んでいますのよ!?」
背後には、依然として唸りを上げる虚獣の気配がある。それでもイオリの顔には、恐怖の色がひとつも見当たらなかった。
「だって! ボク、魔法少女だよ!?」
「それは見れば分かりますわよ!!」
「そうじゃなくて……!」
イオリはステッキをぎゅっと握る。
冷たいはずの金属が、まるで体温を分け合うように手の中で馴染んでいく。
その瞬間。
身体の奥から、再び力が溢れ出した。
「……。」
イオリは虚獣を見る。
さっきまでなら、怖くて仕方なかったはずなのに。
今は。
不思議と、胸の奥が静かに凪いでいた。恐怖の代わりに満ちていくのは、焦りにも似た、けれど確かな高揚感。
「……なんか。」
自然と笑みが浮かんだ。
「これならボク…戦えそう!」
少女の瞳に、青い光が宿る。
その光は、どこか普段のイオリとは違う、芯の通った強さを帯びていた。
そして。
「よーしっ!」
イオリはステッキを構えた。
「魔法少女、初仕事だーっ!!」
「あなた本当に状況分かっていますのーーー!?」
その叫びだけが、虚獣の咆哮と重なるようにして、夕暮れの路地に響き渡った。
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作者コメント┊︎ イオリちゃん初変身回でした。可愛いね
はじめまして、寺島あおいです🤍 第三話、拝読しました。 変身シーンの描写が本当に美しくて……イオリの「なりたい」という願いが、ただの憧れじゃなくて、彼女自身の奥底で眠っていた覚悟みたいなものに変わっていく瞬間に胸が熱くなりました。ステッキをぎゅっと握る仕草とか、くるくる回って喜ぶ無邪気さに、彼女らしさが溢れていて好きです。アスカの慌てぶりとの対比もツボでした。続きが気になります……!