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これは主の癖が詰まってるものです。
主は銀魂にハマってまもないので多少のキャラ崩壊などがあるかもです。
あと一つ一つの話が長いです。時間のある方はお読みください。
そんで話の内容が少し重かったりするのでそういうの大丈夫だよ〜って人だけこの先に進んでください。
血の匂いが、嫌いだ。
甘ったるくて、鉄みてぇで、喉の奥に張りつく。
あの頃から、ずっと。
神楽の呼吸は浅い。
隣で新八が必死に何か話してるが、半分も頭に入ってこない。医者がどうとか、処置がどうとか。言葉が遠い。
俺の耳に残ってるのは、別の音だ。
――白夜叉ァ!!
誰かの叫び声。
振り返った瞬間、仲間の身体が吹き飛ぶ。 血が、土の上に散る。
守れなかった。
間に合わなかった。
俺は剣を振ってた。敵を斬ってた。 でも、背中は守れなかった。
「銀ちゃん」
小さい声が、今に引き戻す。
神楽が俺を見ている。
あの目。
戦場で何度も見たのと、同じ。
やめろ。
重なるな。
「医者は?」
やけに低い声が出る。
「今、準備を……」
成功率は低い、と新八が言う前に分かった。
分かる。顔で。
あの時と同じだ。 “助からないかもしれない”と知ってる顔。
やめろ。
またかよ。
俺の視界が揺れる。
神楽が倒れた夜。暴走した力。折れた骨の音。血の匂い。俺の腕の中で、軽すぎる身体。
思い出すな。
思い出したら、足がすくむ。
あの時もそうだった。
守ると決めた仲間が、一人、また一人と減っていった。 俺は強いはずだった。白夜叉なんて呼ばれて、鬼だなんだ言われて。
なのに。
守れなかった数の方が、覚えてる。
「銀ちゃん」
また呼ばれる。
今度は、はっきりと。
「そんな顔、するなアル」
どんな顔だよ。
笑えってか?
いつもみてぇに、だらしなく鼻ほじって、「だいじょーぶだって〜」とか言えばいいのか?
無理だ。
喉が、固まってる。
「俺は……」
声が掠れる。
情けねぇ。
「俺は、二度と」
言葉の先が出ない。
“失いたくない”なんて。
そんなこと、言える立場かよ。
俺は守れなかった側の人間だ。
ふっと、冷たい感触。
神楽の手が、俺の手を掴んでいる。
「銀ちゃんは、守ってくれたアル」
違う。
違うんだ。
あの夜だって、もっと早く気づけた。 もっと上手くやれた。 もっと――
「……俺は、間に合わなかった」
口から零れたのは、今じゃない言葉。
戦場で、倒れていった仲間に向けた言葉。
「また、同じことになる」
怖い。
言っちまった。
白夜叉でも万事屋でもない、ただの弱音。
神楽は、少し笑った。
ひどく弱々しいくせに。
「銀ちゃんは、昔の銀ちゃんじゃないネ」
昔。
攘夷戦争。
「今は、万事屋の銀ちゃんアル」
胸が、締めつけられる。
万事屋の、銀ちゃん。
仲間を失い続けた鬼じゃない。
帰る場所を持った、ただの侍。
「俺は……」
手が震える。
怖いんだ。
また目の前で消えるのが。
また血の匂いがこびりつくのが。
神楽の指が、少し強くなる。
「今度は、三人いるネ」
戦場には、いなかった。
背中を預けられる“帰る場所”なんて。
新八が、反対側から神楽の手を握る。
「絶対、助けます」
震えているのに、はっきり言う。
俺は目を閉じる。
着物が、赤に染まる光景が浮かぶ。
仲間の最期。
叫び声。
俺の無力。
――でも。
今、握ってる手は、温かい。
まだ、温かい。
「……死なせねぇ」
今度は、はっきり言えた。
「何回でも足掻く。神様だろうが運命だろうが、ぶった斬る」
白夜叉の声じゃない。
万事屋の、坂田銀時の声だ。
怖さは消えない。
消えるわけがない。
でも。
逃げない。
もう、あの戦場に一人で立ってるわけじゃないから。
神楽が、安心したみたいに目を閉じる。
「……銀ちゃん、顔、ちょっと戻ったネ」
「うるせぇ」
声はまだ震えてる。
でも、それでいい。
強くなくていい。
守れなかった過去は消えない。
でも。
今、守れるかもしれない未来が、ここにある。
血の匂いは、まだ鼻の奥に残っている。
それでも俺は、手を離さない。
もう二度と。
助かった。
医者がそう言ったとき、まず最初に思ったのは――
ああ、間に合った。
それだけだった。
神楽は眠っている。顔色はまだ悪いが、呼吸は安定しているらしい。難しい言葉を並べられたが、要するに峠は越えたってことだ。
「よかった……」
新八が泣きそうな声を出す。
俺は鼻をほじりながら言う。
「当たり前だろ。誰の娘だと思ってんだ」
「あんたの娘じゃないでしょ」
軽口も出る。
足も震えてない。
ちゃんと立ってる。
大丈夫だ。
終わった。
神楽の寝顔を見てから、俺は廊下に出た。
自販機の前。人気のない場所。
硬貨を入れようとして――落とした。
カラン、と乾いた音。
拾おうとしゃがんだ瞬間。
視界が、赤くなる。
白い地面。
そこに広がる赤。
間に合わなかった。
あの時も、“峠は越えた”って誰かが言った。 嘘だった。
夜が明ける前に、冷たくなった。
「……は」
息が、浅い。
自販機のガラスに映る自分の顔が、知らないくらい強張ってる。
助かった。
助かったはずだ。
神楽は生きてる。
今も、あったかい。
なのに。
遅れてくる。
いつもそうだ。
戦場でも。
終わったあと、笑って、酒飲んで、馬鹿やって。
静かになった瞬間に、くる。
守れなかった顔が。
叫び声が。
血の匂いが。
――白夜叉ァ!!
「やめろ」
誰もいない廊下で、声が出る。
頭が割れそうだ。
今回、守れた。
それは事実だ。
でも。
“守れなかったかもしれない未来”が、脳裏に何度も再生される。
神楽の呼吸が止まる光景。
新八の泣き崩れる姿。
俺の腕の中で冷たくなる体。
「……っ」
喉が詰まる。
膝が、勝手に床につく。
怖かった。
今さら、理解する。
あのとき、神楽が手術室に入った瞬間。
もし、あの扉が二度と開かなかったらって。
考えないようにしてた。
強がってただけだ。
「二度と……」
守れなかったあの日と、重なるのが怖くて。
余裕ぶって。
笑って。
でも本当は。
失うのが、怖くてたまらない。
指先が震える。
止まらない。
刀を握っても震えなかった手が。
「銀さん?」
びくり、と肩が跳ねる。
振り向くと、新八が立っていた。
まずい。
見られた。
「…なにサボってんだよ。神楽起きたらうるせーぞ」
声が、少し掠れる。
新八は、何も言わない。
ただ、俺の震える手を見る。
「……終わったら、くるんですね」
小さな声。
図星だ。
「昔のこと、ですか?」
答えない。
答えたら、崩れる。
沈黙が、肯定になる。
新八は、ゆっくり俺の隣に座る。
「僕も、怖かったです」
そう言って、拳を握る。
「でも、銀さんがいたから、立ってられた」
やめてくれ。
俺はそんな大層なもんじゃねぇ。
俺はただ、失うのが怖くて、必死だっただけだ。
「神楽ちゃん、助かって良かったですね」
その言葉が、胸に刺さる。
助かった。
ちゃんと。
今度は。
目の奥が熱い。
まずい。
「……そうだな」
ぼそっと言う。
「はい」
「少し、休ませてくれ…」
次の瞬間、堰が切れたみたいに息が乱れる。
声は出ない。
ただ、肩が震える。
泣くつもりなんてなかった。
助かったんだ。
笑うところだろ。
でも。
怖かった。
本当に。
新八は、何も言わない。
ただ隣にいる。
それだけで、十分だった。
少しして、呼吸が落ち着く。
顔をぐしゃぐしゃにして立ち上がる。
「……よし」
鼻をすすって。
「帰ったら、あいつに特盛パフェでも食わせてやろうぜ」
「そんなお金あるんですか?」
「ああ」
廊下の向こうから、神楽の声がする。
「銀ちゃーん!腹減ったアルー!」
生きてる声だ。
うるさくて、騒がしくて、最高にうるさい。
俺は、深く息を吸う。
血の匂いは、もうしない。
完全に消えたわけじゃない。
きっと一生、消えない。
でも。
今は。
「今行くわ、バカ娘」
俺は歩き出す。
震えは、まだ少し残ってる。
それでもいい。
今度は、間に合ったんだから。