のどかは飯塚に聞いて、差し入れによさそうなものを街で探し、あばら屋敷に向かった。
すると、そこはかなり、あばら屋敷でなくなっていた。
他の現場から手の空いている人たちが一斉に来て、短時間で、わーっと作業をしてくれているようだった。
飯塚が薄暗い屋敷の中から顔を出す。
「やあ、のどかさん。
結構早く終わりそうですよ。
っていうか、早く終わらせないと、みんな、他の現場の仕事があるので」
と苦笑いして言ってくる。
今、来ている大工さんたちは新築の家を請け負っているらしいのだが。
家一軒建て終わるまでには時間がかかるので、時折、こういう小さな仕事をこなして、ちょっとした収入を得ているらしい。
「すごいですね。
ちょっと見学させてもらってもいいですか?」
「いいですよ。
あ、足許、気をつけてくださいね。
いろいろ落ちてると思うから」
と飯塚に言われる。
じゃあ、お邪魔します~と自分の家なのに、遠慮がちに覗いたとき、近くに居た大工さんが言った。
「あんた、この家の人?
庭の雑草、とりなよー」
「いやそれが、雑草カフェにしようかと思っているので」
少し進むと、今度は水回りの工事の人が、
「おねえさん、此処の人?
裏の雑草もとりなよー」
と言ってくる。
「いやそれが、雑草カフェにしようかと思っているので」
奥の廊下まで進むと、その先にあるトイレを工事していた人が、
「お嬢ちゃん、此処の人?
中庭の雑草とりなよー」
「……いやそれが、此処は雑草カフェに」
――するにしても、もうちょっとどうにかした方がよさそうだ、と思っているうちに、例の呪いの部屋に出た。
今は邪魔なので、戸口をふさいでいた箪笥は呪いの部屋の中に入っている。
側に来た飯塚が、
「此処はなにも触らないように言ってあります。
寮とカフェを行き来するのは、この外側に縁側を作って、そこを使ってもらおうかと。
なので、此処の工事がちょっと時間かかるかもしれませんね。
あとは少し小綺麗にするだけなので、すぐに終わると思います」
と教えてくれる。
さっきまで猫だった泰親がキャリーケースから出て神主に戻り、呪いの部屋を見ながら呟いていた。
「いよいよ、カフェになるのか。
この部屋の呪いもなにかカフェに生かせないかな」
「呪いを生かすってどんな感じですか……。
まあ、イケメンの客を供給してくれることは期待してるんですけどね。
でも……」
と言いかけ、のどかは黙った。
「どうした?」
と泰親が見下ろす。
いえ、と言って、のどかは、
「寮の方も見ていいですか?」
と飯塚に訊いた。
どうぞ、と笑顔で案内される。
そろそろ本気で、呪いを解かなければ、と思ってたんだけど。
呪いが解けてしまったら、もしかして、泰親さんは居なくなってしまうのでは……。
「うーん。
だったら、呪われたままでいいか」
とのどかは呟く。
ええっ? という顔で飯塚が振り向いた。
チラとスマホの入った鞄を見る。
社長に相談したいな、と思ったのだが。
なんだか忙しそうだったから、やめておこうと思う。
寮の方も見学したあと、のどかの家と八神の家の間にある草原に座り、膝を抱えて、猫の泰親とともに、工事を眺めていた。
時折、泰親が居ない方の隣を見てみる。
白い小さな花を咲かせたオランダミミナグサが生えていた。
あの日、貴弘の指が自分の耳をぷにぷにしていた感触が蘇る――。
工事の音を聞きながら、のどかは誰も居ないその雑草の上を眺めていた。
……社長。
早く帰ってこないかなー……。
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