TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


のどかは飯塚に聞いて、差し入れによさそうなものを街で探し、あばら屋敷に向かった。


すると、そこはかなり、あばら屋敷でなくなっていた。


他の現場から手の空いている人たちが一斉に来て、短時間で、わーっと作業をしてくれているようだった。


飯塚が薄暗い屋敷の中から顔を出す。


「やあ、のどかさん。

結構早く終わりそうですよ。


っていうか、早く終わらせないと、みんな、他の現場の仕事があるので」

と苦笑いして言ってくる。


今、来ている大工さんたちは新築の家を請け負っているらしいのだが。


家一軒建て終わるまでには時間がかかるので、時折、こういう小さな仕事をこなして、ちょっとした収入を得ているらしい。


「すごいですね。

ちょっと見学させてもらってもいいですか?」


「いいですよ。

あ、足許、気をつけてくださいね。


いろいろ落ちてると思うから」

と飯塚に言われる。


じゃあ、お邪魔します~と自分の家なのに、遠慮がちに覗いたとき、近くに居た大工さんが言った。


「あんた、この家の人?

庭の雑草、とりなよー」


「いやそれが、雑草カフェにしようかと思っているので」


少し進むと、今度は水回りの工事の人が、

「おねえさん、此処の人?

裏の雑草もとりなよー」

と言ってくる。


「いやそれが、雑草カフェにしようかと思っているので」


奥の廊下まで進むと、その先にあるトイレを工事していた人が、


「お嬢ちゃん、此処の人?

中庭の雑草とりなよー」


「……いやそれが、此処は雑草カフェに」


――するにしても、もうちょっとどうにかした方がよさそうだ、と思っているうちに、例の呪いの部屋に出た。


今は邪魔なので、戸口をふさいでいた箪笥は呪いの部屋の中に入っている。


側に来た飯塚が、


「此処はなにも触らないように言ってあります。

寮とカフェを行き来するのは、この外側に縁側を作って、そこを使ってもらおうかと。


なので、此処の工事がちょっと時間かかるかもしれませんね。


あとは少し小綺麗にするだけなので、すぐに終わると思います」

と教えてくれる。


さっきまで猫だった泰親がキャリーケースから出て神主に戻り、呪いの部屋を見ながら呟いていた。


「いよいよ、カフェになるのか。

この部屋の呪いもなにかカフェに生かせないかな」


「呪いを生かすってどんな感じですか……。

まあ、イケメンの客を供給してくれることは期待してるんですけどね。


でも……」

と言いかけ、のどかは黙った。


「どうした?」

と泰親が見下ろす。


いえ、と言って、のどかは、

「寮の方も見ていいですか?」

と飯塚に訊いた。


どうぞ、と笑顔で案内される。


そろそろ本気で、呪いを解かなければ、と思ってたんだけど。


呪いが解けてしまったら、もしかして、泰親さんは居なくなってしまうのでは……。


「うーん。

だったら、呪われたままでいいか」

とのどかは呟く。


ええっ? という顔で飯塚が振り向いた。


チラとスマホの入った鞄を見る。


社長に相談したいな、と思ったのだが。

なんだか忙しそうだったから、やめておこうと思う。


寮の方も見学したあと、のどかの家と八神の家の間にある草原くさはらに座り、膝を抱えて、猫の泰親とともに、工事を眺めていた。


時折、泰親が居ない方の隣を見てみる。


白い小さな花を咲かせたオランダミミナグサが生えていた。


あの日、貴弘の指が自分の耳をぷにぷにしていた感触が蘇る――。


工事の音を聞きながら、のどかは誰も居ないその雑草の上を眺めていた。


……社長。

早く帰ってこないかなー……。





社長っ、離婚してくださいっ! ~あやかし雑草カフェ社員寮~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

27

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚