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――本気だ。
何故だかわからないけれど、八木は本気で”納得させろ”と、真衣香に言っている。
やはり頼りすぎて、甘えすぎて……怒らさせていたのだろうか?
それとも、まんまと油断して、信じて、そんなバカみたいな真衣香を坪井のように嘲笑おうというのか。
「や、八木さんが……」
「俺が、何だよ」
「い、言ってくれた好きと、私の……違う、から」
真衣香が、たどたどしくも答えると。八木は「……はっ」と、冷笑を浮かべた。
「ガキの答えだな。お前どんだけ恋愛に夢見てんだ?」
「……な、ゆ、夢って……やっ!?」
真衣香の答えを冷たく笑い飛ばしながら、太ももに触れていた八木の手が滑るように動いた。
(そ、そんなとこ!? さ、さわ……って、何で!?)
真衣香自身もシャワー中など、必要な時以外には触れない部分に。
八木の指が、タイツの上から円を描くようにして触れた。
布により二重に守られている状態だが、経験のない真衣香は、そこでうごめく指の存在にパニックだ。
以前、坪井の部屋で、こんなふうに彼を見上げた時にだって触れられはしなかったというのに。
「同じ気持ちじゃないからって? んなもん、いくらでもその気にさせる方法あるって」
「……そ、その気に……?」
「順序守ってる男と女がどんだけいるんだって話」
八木の言葉の意味を理解できないまま、首を小さく振り拒絶を表すけれど。身動きが取れない上に、いまだ信じられない場所を八木の手が刺激し続けている。
怖いはずなのに、じん……と熱を持つ下腹部。その事実がさらに恐ろしさを増幅させた。
「……ん、やだ、お願……い。さ、触らないで、ください」
身をよじりながら懇願するように声を出した。
そのすぐ後に、八木が息を飲んだのか、不自然な呼吸音が聞こえてきて。何かを押し殺すよう、地面を這うような低い声を出した。
「……残念だな。納得させるどころか、今んとこ、お前煽ってるだけだって。俺のこと」
煽るだなんて。そんなの身に覚えがない、と。必死に首を横に振り続ける。
けれど八木は真衣香を押さえつける力を緩めようとはしない。
「やめろよ、その顔。これ以上興奮させてどーすんだ?」
「さ、させてな……っ」
「させてんだよ」と、抵抗する真衣香の髪の毛を、ぐしゃりと掴んで強い口調で言った。
「なあ、俺、納得できる理由で振ってくれって頼んだよなぁ? 早くしろって、ほら」
しかし、次に聞こえたのは、熱のこもった掠れる声。こんな八木の声を真衣香は知らない。会社で抱きしめられたこともあった、触れ合う距離で話をした。でも、その中のどんな時でも、胸が痛くなるような……切なく苦し気な声を聞いたことなどなかった。
そんな声で、ほら。と言われても。
理由なんてそれしかない。他に何も言いようがない。
八木のことは、好きか嫌いかで答えろというならば、もちろん好きだ。腹を立てることも、頭を抱えることも多かったけれど。
仕事でも……プライベートでも何度も何度も助けられてきた。
その気持ちは、兄がいればこんなふうなのかと錯覚してしまいそうになるほどに、身内に向ける感覚に似ていて。
「おい、バカだろお前。この状況で黙り込むって、意味わかってるか」
「……っ!?」
“八木は真衣香に何を言わせたいのか”
求められている答えを探していると、力強い手が真衣香の黒いニットを捲り上げ、あらわになった胸元にチュッと音を立ててキスをした。何度も、左右、上下、いろんなところに。
恐ろしさのあまりきつく目を瞑ったのと同時。八木がブラジャーのホックに手を掛けて。
冷たく無機質な声で言い放つ。
「合意だよ。すぐヤられんぞ」
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