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「ガチやん」
ルームミラーとスマホのカメラ機能を使って耳の後ろを確認すると、確かに紫陽花が咲いていた。彼の主治医のノビーラングに言われた通り、綺麗な水色をした紫陽花だ。
熱っぽくて関節が痛いから風邪か?と軽い気持ちで診察を受けに行ったらこれである。まさか身体に咲いた紫陽花が原因で風邪を引くとはだれが思うだろうか。
最終的に普通の風邪薬を3日分処方されて一旦帰ってきたのだが、果たして効くのか…
だが車内で唸るアドミゲスには、身体はどうなるのかという不安とともに、身体に紫陽花が咲いたとかいう意味の不明な出来事に対しての今後の展開に対する好奇心が入り混じっている。なんやかんやギャング精神抜かりないこの男も、やはり心の奥底は少年なのだ。
「…取り敢えず、誰かには見せてやろーっと」
吹っ切れたアドミゲスはそのまま病院を出て、最初はだれに見せようかとうきうきしながら考える。
元IRiSの面子をぼんやり思い浮かべる。IRiSは解散してしまったが、一部の面子とは今も顔を合わせているので。
「しゃっちょ…は寝てるし、ジョーカー…はノーリミだから連絡すんの気まずいし……んァ~…」
しっかり悩んだ末、条件を満たす人物は一つに絞られた。
無論、いつだって煙草をふかしている、アドミゲスにとって大切なあの男である。
スマホを取り出して、連絡先から名前を探す。最終的にめんどくさくなって直近の履歴から探した電話番号につなぐと、暇だったのか、珍しくワンコールで彼は電話に出た。
『もしもし~どした~』
「あ、もしもし?俺耳の裏に紫陽花咲いたねんけど」
『…文脈が意味不明すぎる。お前壊れた?』
アドミゲスから発せられた到底理解できないような文面に、彼の恋人である小峯は少し間をおいてなんとか答えた。
アドミゲスにはそりゃそうだろうなと苦笑いしつつ、事実を伝えただけなのに自分がおかしくなったかのような言い方をされて不服である。
「いや、その反応はわかるんやけど、ホンマなんやって。俺の耳の裏に紫陽花咲いたんやって」
『そりゃあ流石に目で見るまで信じられねぇって。…ちょっと待ってろ、今確認しに行くわ。』
「今からぁ?もしかして暇だった?」
『丁度諸々終わったんだよ。とりあえず俺の家集合な』
「了解ー」
「うわ、ガチで花開いちゃってて草」
「何かー、元々は紫だったらしいんやけど、酸性雨で水色になってるんだって」
「これ引っこ抜けんの?なんとかして」
「いや、耳の神経とつながってるらしいから抜いた場合俺の聴覚ないなるね」
「じゃ除草剤撒け除草剤。そしたら自然と枯れるやろ」
「耳の裏は人の匂いとか出るから。除草剤の香り振り撒けってか俺に」
「除草剤にもいろいろ香りとかあるんちゃうん」
「フローラルな香りの除草剤探せと??」
「何やお前、取り除きたいんかそのまま育て続けたいんかハッキリせぇや。愛着湧いてんのか」
「湧くかて!!」
自分の身体を侵食している花に、愛着など湧くものか。
騒ぎ立てている二人は現在、小峯の家にいる。小峯は一室にあるソファに腰かけていて、アドミゲスは腰に手を回され、横に強制的に引っ付くように座らされている。家の中にすでにいるといわれ、合流した瞬間にアドミゲスは捕まり、そのままこの体勢にされてしまったのだ。最初こそ抵抗したが、「この方が耳の裏に咲いたっていう紫陽花見やすいだろ」とごもっともなことを言われてしまい、渋々話し始めたのだった。
「風邪薬もらったから、取り敢えず飲み続けることにはなりそう」
「服薬で治るもんなんか…それ。ほかに情報は?」
「あー…紫陽花って、年中ずっと花つけっぱらしい。」
「じゃあ枯れねぇじゃん、終わったなお前」
意地悪くケラケラ笑う小峯に、アドミゲスが振り向いて、右手を振り上げて殴ろうとすると、小峯は笑いながら降参とでもいうように手を挙げた。不服顔のままでいると、小峯は「落ち着けよ」と頭をぽんぽんと叩く。どれだけ意地悪だろうが、この男はアドミゲスにとっての恋人だ。スキンシップをされて嫌なわけはなくて。むぅと唸っていると、単純だなお前とまた笑った。
アドミゲスは思考を見透かされて遊ばれている気がして、なんだか腑に落ちないままだ。だがこれ以上手の平で転がされるわけにはいかない。アドミゲスは話を戻した。
「…あ、あと、花言葉も面白かったぞ。確かー…浮気やったかな。主治医の人が言ってた。あとは移り気とか、無情とか。おもろくね?無情って。俺心無いみたいやん。」
一つの花にも、いろいろと意味があるものだ。おもしろいよなぁなんて笑って共感を求めると、話を聴く態勢で相槌を入れていた小峯が、突然トーンを下げてアドミゲスに問いかけた。
「……お前浮気すんの?」
「…んえ?何言ってんだお前」
突然の重い質問に目を瞬かせる。なぜそんな話に飛躍するのだ。
だがそんなアドミゲスの胸中などいざ知らず、小峯はじろりと睨み、話を続けた。
「そんな花言葉持ってる花が咲いたってことは、お前の性格表してんじゃなくて?」
「いやいやいや、なんでそうなんの?」
「そーいやこの前も警察の奴らとまたイチャコライチャコラしてたよな?なァ」
「はい!はいはい!!こちハンは基本男女混合です!!あなたの想定しているようなことは起こりません!!」
「男だろうが女だろうが関係ねーよ。お前がウキウキしながらやってんの俺知ってんだかんな」
「ッ…それがなんやねん、別にええやろ!俺がやってることだろうが!!」
まるで小峯は関係ないだろと遠回しに言うような発言に、小峯はぷちんとキレた。
こちとら自分の恋人が思っていなくとも、相手が勘違いして変な気でも持って奪われないか常日頃心配しているというのに、こっちの気持ちも知らないでコノヤロウ。
これが小峯の心持ちである。それを踏みにじるとまではいかないが、多少なりとも無碍にしてしまった当人ことアドミゲスは、そんな小峯の心境など一切知らないのだが。
「こーれは…お仕置きかな」
「ぅえっ、?」
襟首をぐいっと引っ張られて、後ろのあたりが小峯の顔前に引き寄せられる。
ぐっと何か尖ったものが押し当てられたと思うと、突如アドミゲスに鋭い痛みが走った。
「い゛ッ…!!」
思わず声があがる。小峯は痛がる声そっちのけで、アドミゲスの首筋を噛み続ける。
小峯の犬歯によって、皮膚が破れるぶつりという鈍い音がアドミゲスの首裏で鳴った。
「ぐう゛ッ……は……はな…ッ…!」
ようやくまともな声を出せたころには、小峯の目的はすっかり果たされてしまっていた。
口を離して見れば、綺麗な並びをした紅い点と線がくっきりと残っている。
「これなら前に付けた時より長く残るだろ。」
「っいきなりなんだよ、意味わかんねえ……」
「別に。印みてぇなモンだよ」
少しつんとした声色で、小峯は指で噛み跡をなぞった。指先に血がにじむ。すり減って、指紋などすっかりなくなった指だ。
そしていつも交わる度、アドミゲスの脳を惚けさせる指でもある。交接を思い返して、アドミゲスはまた顔を紅潮させた。
「……」
「さ、ヤるかぁ」
「な、なんでだよ!!」
「は?もうヤる雰囲気だったろ。それに…」
困惑しているアドミゲスをお構いなしに、小峯はアドミゲスのスラックスを脱がし始める。すでに太ももあたりが露呈してしまっている足で蹴りつけ抵抗すると、小峯は器用に片手でその暴れる足を捕らえ、踝のあたりを噛みつけた。
今まで噛まれたことのない箇所に感じた刺激に気を取られているうちに、小峯のもう片方の手で脱がし切られてしまった。
やはり脱がされ下半身を露わにされることには慣れない。恥ずかしがって視線を逸らそうとしたアドミゲスだが、顎をつかまれ、以前のように無理やり小峯の方に向かされる。そしてそのまま、口を塞がれた。
「ン!?ん、ン…ッぅ」
噛みつくような激しいそれに、たまらず顔を背けようとするが、小峯の手に固定されてしまっていてかなわない。舌を絡めとられ、上顎をなぞられ、口内を嬲られてしまう。背中を叩いていた腕も、だんだんと力が抜けて緩んでいく。漸く離された頃には、酸素が足りず息を荒くしながら惚けてしまっていた。
咳き込みながら息を整えようと必死に息を吸っていると、覗き込むようにしてアドミゲスの顔にさらに近づいた小峯が、にやりと笑って言った。
「俺の気持ちがわかってねぇみてェだからな。わかんねぇなら教えてやるよ、じっくりな。」
…これからどうされてしまうのか。
じっくり教え込まれるという未知の体験を、アドミゲスは震えて享受するしかないのであった。
耳の裏に紫陽花が咲いてしまったアドミゲス・ハンをご存じだろうか。
突如として風邪気味になりピルボックス病院へと足を運んだアドミゲス。
そこで、その場に居合わせた天羽よつは先生とノビーラング先生に検査をしてもらうと、なんと耳の裏に紫陽花が咲いてしまっていたのだ。これが風邪気味となった原因であり、そこからなんとか紫陽花を枯らそうと奮闘する…そういったお話である。詳しくは「アドミゲス 紫陽花」と調べれば、魂の方の切り抜きやらがヒットするので是非見ていただきたい。
主治医のノビーラング先生曰く、紫陽花には「浮気、移り気、無情」という意味が入っているらしい。
それに「ふーん…お前浮気すんの?」と嫉妬し、ねちっこいエッッをする小峯を挟みたい衝動が抑えきれなかった。
この前半ではまだそこに至っていないという点には触れないでほしい。
ちなみに、私の文章力の問題でわかりづらかった人のために彼らの考えについて補足しておく。
今回アドミゲスは浮気するのかと問われ「それは絶対にないしそんな目で他の人を見ていない」と発言している。
だが小峯が心配しているのは、「当人に浮気の意思がなくとも変な気を起こした第三者から取られてしまう」ということだ。なんせアドミゲスという男、ギャングながら非常に純粋な上に流されやすいので。
小峯はアドミゲスの言っていることも考えていることもわかっているが、アドミゲスは小峯の真意を一切理解していない。それを小峯は理解した上で「そういうことじゃねぇよ」と怒っており、わからないならばわからせてやろう、というような状況だ。
マァ、アドミゲスが流されやすいのは小峯だからというのもあるし、第三者の介入なんてこの時空では起こさせないし、曇らせる予定も今のところないのだが。もし曇らせを作るとしても別のストーリー枠に入れるので安心していただきたい。
それと、これまたノビーラング先生のお言葉によれば、紫陽花の中でも青は『辛抱強い愛情』なのだそうだ。これは永久に続くこみハンを表しているといっても過言ではないのではないだろうか…
ありがとうノビー先生。貴方があの時紫陽花が咲いていると仰ったことで、拙宅のこみハンはさらに昇華しました。
注意事項である。アドミゲスの耳の裏に紫陽花が咲いたころ、小峯はまだ世界にいなかった。彼はこの紫陽花事件が発生した2024年7月20日には、22時半ごろから起床している。紫陽花事件はそれ以前に収束している。
そもこの話は完全にフィクションだが、さらに御本家様の起床時間すら操ってしまっているという完全時空崩壊作品である。
その点に加え、誤字脱字が発生している可能性も高いため、適宜修正する。ご注意願いたい。
今回も前半と後半で分けることになってしまった。一気に読みたい同志諸君には申し訳ないが、少しお待ちいただきたい。
それでは、ここまでご覧くださりありがとうございました。
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