専務との闘い

渡辺には、想われて5年過ぎた大事な人がいる。2年前に、フランスで結婚式を挙げた。

今、勢いのあるグループでメインボーカルとして頑張っている。

が、性格的には、弱いところがあり、大事な人によく心配されている。

どっちが年上か分からないくらい、渡辺の大事な人は大人っぽく落ち着いている。

だが渡辺しか知らない子供みたいなところもあり、時々、「可愛いなぁ」と思うのだ。

その渡辺の大事な人、目黒は溺愛の鬼と仲間から呼ばれているほど、渡辺に対し過保護である。

何かがあると、食べない渡辺。

厄災は渡辺を好んでやって来る。

事務所の専務は2人のことを知っている。

何度も渡辺はいたぶられている。

目黒が、自分から好きになって付き合って結婚してもらったと説明しても、渡辺を虐める。

これ以上関わらないよう、一筆書いてもらっているが、お構いなしに渡辺を虐める。

辛い時、渡辺は老婆のところに逃げていた。

だが、1人で来たらダメだと言われた。

来る時は、大事な人と一緒に来いと。

目黒は、老婆に会いに行くのは渡辺同様好きだ。

だが、行けば必ず、近くの海に散歩に行く。

目黒はこの海が嫌いだ。

2度、渡辺は海に連れて行かれそうになった。

だから、目黒は海が嫌いになった。

目黒ーこの頃、平和だね。

渡辺ー・・。

目黒ー平和だね。

渡辺ーん。

目黒ー今度も専務？

渡辺ー・・。

目黒ー誓約書書いたよね？

渡辺ー・・会いに来るんだって。

目黒ー誰が誰に？

渡辺ー専務の娘がお前に。

目黒ーいつ？

渡辺ー俺の舞台を観にきた時、お前に会わせるんだって。

目黒ー俺は会わないけど？

渡辺を抱きしめる。

キッチンに逃げる渡辺。

ゆっくり追いかけてくる目黒。

渡辺ーコーヒーでも淹れる。

目黒ー俺がする。

渡辺ー・・。

目黒ーお婆ちゃんにも、梨花さんにも、大事な人と、一緒に闘えって言われたよね？

渡辺ー俺、舞台のことで頭いっぱいで、お前たちのこと構ってられない。

目黒ー俺が闘う。

渡辺ーお前に会いたいんだ。お前が出ていってどうする。

会わないのが一番だが、あの専務だとそうはいかない。

どんな手を使ってでも、目黒と娘を会わすだろう。

渡辺の舞台は観にいく。

そこに、専務の娘が来るという。

目黒ー俺を信じて？

渡辺ーん。

目黒ー誰が来ても関係ない。

渡辺ーん。

目黒ー俺は翔太くんの舞台を観る。

渡辺ーんっ・・んっ・・。

目黒ー泣かないの。

渡辺ーもう嫌！

目黒ー1度、事務所行ってくる。

渡辺ー・・。

目黒が行っても何も変わらないと思っている。

かえって、喜ぶだろう。

お気に入りの目黒に会えるのだから。

目黒がコーヒーを淹れる。

渡辺はキッチンから動かない。

目黒が手を引いてソファに連れてくる。

渡辺はコーヒーに手をつけない。

目黒がカップを持たせて、一緒に飲む。

何度もキスをする。

渡辺の頬に涙が流れる。

優しく吸い取る目黒。

渡辺ー俺は、ずっと意地悪されないとダメなの？

目黒ー呼び出されても行かないで。

渡辺ーそんなこと出来るか。

目黒ーじゃあ、俺も一緒に行く。

渡辺ーマネージャーにスケジュールを提出させてるんだ、お前の仕事の時に呼び出しされるんだ。

目黒ーふぅ〜、晩ご飯作る。

渡辺ーいらない。

目黒ー痩せたボクサーなんかいないよ。

渡辺ー・・。

何かあると、食べない渡辺。

ボクサーの役をやるのに、食べないわけにはいかない。

目黒が晩ご飯を作ってる間、ソファにゴロリと寝転がり出来上がりを待つ。

目黒ーちゃんと食べたら、この日お婆ちゃんとこ行こうか？

渡辺ーん。

目黒ー食べなかったり、ちょっとだけだったりしたら、行かないよ？

渡辺ー食べる。

目黒は、一緒に食事しながら、渡辺が笑わないことに気がついた。

今夜会ってから1度も笑ってない。

後片付けを済ませ、ソファの渡辺を膝に乗せる。

目黒ーもう、専務に何か言われてるの？

渡辺ー・・。

目黒ー笑ってない、1度も。

渡辺ー俺だって、大好きな人と一緒にいて、笑いたいよ、でも・・。

目黒ーその、大好きな人が、こんなに心配してるのに、なんで何も言わないの？

渡辺ー一緒に闘うって言うけど、意地悪されるのは俺だけで、何でもかんでもお前に言えば、俺は頼りない女みたいなやつで、お前がいなきゃ1人で何も出来なくて、それで・・！

目黒ー明日、行ってくる。

渡辺は、ポロポロ泣いてる。

目黒は、身体が熱くなるのを感じる。

怒りだ、専務に対して腹が立っている。

渡辺を抱きしめてキスして背中を摩る。

目黒ー翔太くん、笑って？

渡辺ーん〜ん。

目黒ー大好き、笑って？

渡辺ーんっ・・んっ・・。

目黒ー泣いちゃダメ。

渡辺ーれん。

目黒が、体調崩してから撮影の、中休みの時間が長く取られた。

その間を使って、事務所に来た。

もしかしたら少し遅くなるかもしれませんと監督には言ってある。

専務ーやぁ！よく来たね、体調はどうかな？

目黒ーこれ、覚えてますよね？

1枚の用紙を取り出した。

コピーして持って来た。

専務ー・・。

目黒ー専務の娘さんには会いません。これ以上、渡辺を虐めるなら、社長のところに行きます。

専務ー知られていいのか？渡辺のこと。

目黒ー構いません、それで専務が大人しくなっていただけるなら。

専務ー渡辺は男のくせに、お前に泣きついたのか？

目黒ー渡辺はそんなことしません。俺が勝手に来ただけです。

専務ー男のくせにぴーぴー泣いてるのか？

目黒ー侮辱しましたね？社長のところに行ってきます。

専務ーその指輪は何だね？

目黒ー結婚指輪ですけど？このまま社長に会って来ます。

専務ー待ちたまえ！

目黒ー何か？

専務ー社長は信じない。

目黒ーこの一筆書いていただいたのもありますし、俺から渡辺を好きになって結婚式を挙げたことも報告してきます。

専務ーやめてくれ。君は大事なんだ。

目黒ー俺は、あなたがいじめ侮辱した渡辺を愛してるんです。あなたを許しません。今回は、時間がないので帰りますが、次に渡辺に何かあったら、社長のところに行きますから。

目黒は急いで撮影現場に戻って行った。

これで、専務が大人しくなってくれるならいいが。

渡辺が今以上に傷つくことがあれば、社長に言うくらい平気だ。

渡辺を守るためなら、何でもする。

目黒の家。

専務に言ったことを渡辺に言う。

社長に言うことも考えている。

渡辺ーばか、俺のためにそんなことしなくていい。

目黒ー決めたから。

渡辺ー目黒！

目黒ー翔太くんを虐めるなら社長に言う。

渡辺ーば・・か・・。

目黒ー愛してる。翔太くんだけを愛してる。

渡辺ー知って・・る・・。

目黒ー翔太くんが痩せて、泣くの見たくない。

渡辺ー負けない。だから、社長に言ったらダメ。

目黒ー専務次第。

渡辺ーれんのばか。俺のために・・ばか。

渡辺が目黒に飛びついてくる。

熱いキスして硬く抱きしめ合って。

渡辺は泣いている。

目黒は笑ってほしい。

目黒ー翔太くん、笑って？

渡辺ーん。

目黒ー翔太くんの応援させて？

渡辺ーん。

久しぶりに渡辺が笑ってる。

涙を拭いて、ぎこちないけど、笑ってる。

完