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一応女体化。監禁。ストックホルム症候群?ってやつ。難しいことなんて考えるな😊
重厚なマホガニーの扉が閉まる音は、この部屋においては「世界の終焉」と「唯一の福音」の二重奏だった。
ポートマフィアの最深部、窓のない一室。空気清浄機の無機質な稼働音だけが響くその空間に、中原中也が足を踏み入れる。その瞬間、ベッドの隅に丸まっていた細い影が、びくりと肩を震わせた。
「……中也?」
掠れた、けれど縋るような声。太宰治だったはずの「女」が、乱れた包帯の間から虚ろな瞳を向ける。かつて「歴代最年少幹部」として恐れられた冷徹な知性は、今や湿った硝子細工のように脆く、ひび割れている。
中也は無言で歩み寄り、彼女の前に跪いた。手には、彼女が好む毒のように甘い菓子と、新しい包帯。
「ただいま、太宰。大人しくしてたか」
その言葉を聞いた瞬間、太宰の瞳に異様な光が宿る。彼女は這いずるようにしてベッドの端まで進み、中也の首に細い腕を絡ませた。ストックホルム症候群――自分を監禁し、自由を奪った張本人を、生存のために「唯一の理解者」だと脳が誤認する精神の防衛本能。しかし、彼女の場合はそれ以上に深い、泥濘のような依存が混じり合っている。
「遅いよ、遅い。……また私を置いて、あんな汚い外の世界で死のうとしたんでしょ? 私を一人にして、自分だけ清々しく終わるつもりだったんでしょ?」
情緒不安定な言葉が、呪詛のように、あるいは愛の囁きのように溢れ出す。太宰の指先が中也の襟を掴み、狂おしく震える。
「外には何もないって言ったろ。お前を理解できるのも、お前を殺してやれるのも俺だけだ」
中也の手が、太宰の頬を包み込む。荒れた指先が柔らかな肌を撫でる。その「暴力的な優しさ」に、太宰は陶酔したように目を細めた。彼女にとって、自分を縛り付ける中也の指先こそが、唯一自分がこの世に存在していいという証明書だった。
「……ねぇ、中也。もっと壊してよ。私が君なしでは呼吸もできないように、肺を潰して、心臓に鎖を巻き付けて。君がいないと死んじゃうくらいに、私をダメにして……っ」
太宰は中也の肩に顔を埋め、子供のように泣きじゃくり始めたかと思えば、次の瞬間には鈴を転がすような声で笑い出す。
「あはは、おかしいよね。あんなに死にたがっていた私が、今は君が帰ってこないのが怖くて死にそうなんだ。……ねぇ、これって君の呪い?」
「呪いじゃねぇよ。約束だ」
中也は彼女を強く抱き寄せた。折れそうなほど細い腰、微かに震える背中。彼女から自由を奪い、光を奪い、自意識を削り取って、自分という「檻」の中に閉じ込める。かつての相棒だった頃には決して手に入らなかった彼女の全霊が、今、腕の中で震えている。
「お前は一生、ここで俺の顔だけ見てりゃいいんだよ」
中也の低い声が鼓膜を震わせる。太宰はその響きに、安堵に満ちた溜息を漏らした。 外の世界では、彼女は「失踪した最年少幹部」であり、「裏切り者」かもしれない。 けれど、この四方、コンクリートに囲まれた闇の中だけでは、彼女はただの中原中也の「所有物」であり、それゆえに完璧に安全だった。
彼女は震える手で、自らの首に巻かれた見えない鎖を手繰り寄せるように、中也の唇を求めた。 それは救済によく似た、永遠の地獄への招待状だった。